Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第12回
【E-DESIGN代表取締役・忽那裕樹氏】「かたち・しくみ・うごき」で都市を変える。行政・経済・市民を繋ぐ「トライセクターリーダー」が始動する、新しい街づくりのOS
【デザイン手法】「かたち・しくみ・うごき」の実装とプレイスメイキング
玉置: かつての日本の公園は制限だらけのOSでしたが、忽那さんは草津川跡地公園や泉大津市シーパスパークにおける官民連携の実践などでこの壁を打ち破り、見事なプレイスメイキングを実現されました。E-DESIGNの理念として「かたち(環境)・しくみ(持続可能なマネジメント)・うごき(活動プログラム)」の三位一体が重要だと発信されていますが、新しい「居場所のOS」を街に実装する上で、現在一番ハードルが高く、また面白いのはどの部分でしょうか?
忽那: 通常のデザインは「かたち(空間・場所)」を作って結果を出すことがゴールになりがちです。しかし、がんじがらめの既存の法律の中でデザインしようとすると、結果的に「禁止看板ばかりの公園」しか作れません。
だからこそ、僕は「しくみ」もデザインしなければならないと言い続けています。河川や公園、そして道路にいたるまで、使いこなしを制限している法律や規制そのものを変えにいく。法律が変われば、その新しいルールの下で、より自由で新しい「かたち」がデザインできるようになるからです。
ただ、しくみ(法律や条例)を変えるのにはめちゃくちゃ時間がかかります。そこで僕たちが一番面白く、かつ重要視しているのが、すぐに変えることができる「うごき(活動)」を先行させるアプローチです。
通常のプロセスは「しくみ→かたち→うごき」ですが、僕たちは「うごき(活動を始める)→しくみ(ルールを変える)→かたち(空間をデザインする)→うごき(さらに活動する)」という循環的なアプローチを取っています。
玉置: 「うごき」から始める、というのは具体的にどういうことでしょうか?
忽那: 例えば、僕が設計者として携わった大阪府泉大津市の官民連携モデル『シーパスパーク』(2023年開園)の事例があります。ここは市民会館などの閉館から約6年間にわたって活用を模索してきた跡地だったんですが、公園になる前の何もない構想段階から、市や民間事業者とともにワークショップを繰り返し、住民や子どもたちを集めて「やりたいこと」を徹底的にヒアリングしたんです。そうすると「火を焚きたい」「花火をしたい」といった、普通の公園では御法度とされるような要望がたくさん出てくる。
そこで大人たちが知恵を絞り、「できないこと」を条例から変えていきました。「火を使っていいですよ」という新しいルールの下でデザインを行い、最終的に「できないことがない公園」を作り上げたんです。
さらに面白いのは、工事期間中の「うごき」です。普通は完成するまで待つものですが、市民の熱量が高まりすぎてオープンまで待てず、なんと工事中の現場(ヤード)の中に5,000人もの人を集めてイベントをやっちゃったんですよ。
構想段階からワークショップを重ねたことで、市民自らが公園での活動を企画・運営する『シーパスパーク・クラブ』という市民団体が誕生しました。その結果、いざ迎えたオープニングフェスの時には、市民が次々と自主プログラムを持ち込み、開園後も自発的なイベントが途切れなく続くような圧倒的な熱狂を生み出したのです。この公園の質とプロセスは権威ある賞でも高く評価され、令和6年度の第40回都市公園等コンクールで『国土交通省都市局長賞』を、さらに令和6年度土地活用モデル大賞で「国土交通大臣賞」を受賞しました。
滋賀県の『草津川跡地公園(区間5)』でも同様に、基本計画段階から市民組織『くさねっこ』との協働プロセスを経て、完成時にはすでに市民活動が活発に始まっている状態を作りました(第33回都市公園等コンクール 国土交通大臣賞受賞)。つくるプロセスそのものに人々の営みを組み込んでいくことこそが重要なんです。
玉置: 構想段階から市民を巻き込み、完全に「当事者(プレイヤー)」にしてしまうわけですね。
忽那: ええ。ランドスケープデザインというのは、単に「空間自体を美しく見せる」ことではありません。そこで過ごす「人々の営みが美しく見える風景」をつくることなんです。
行政がトップダウンで決めた「誰がつくったんや?」という場所ではなく、市民が「自分たちの意見でつくられた場所だ」と愛着を持ち、使いこなしている風景。これこそが本当の意味での「都市の資産」になる。そのためには、行政・専門家・市民といった縦割りをすべて解体し、全員で一緒に次の公共空間のあり方を議論する場を作ることが、一番ハードルが高く、そして一番面白い部分ですね。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります
この連載の記事
- 第11回
地方活性
【法政大学名誉教授・陣内秀信氏】スクラップ&ビルドから「空間人類学」へ。江戸の地形と水網が再起動する、水都東京の未来OS - 第10回
地方活性
【東京スリバチ学会会長・皆川典久氏】「平坦・均一」のバグから都市の記憶が宿るOSへ。建築家×地形マニアが解き明かす「東京の凹凸」が拓く未来 - 第9回
地方活性
【慶應義塾大学准教授・岩尾俊兵氏】老舗企業に眠る500兆円市場を再起動せよ。気鋭の学者が社長として仕掛ける「日本覚醒プラットフォーム」 - 第8回
地方活性
【文化庁文化政策調査分析官・林保太氏】「発見される日本」はもう卒業だ。街の記憶をアセットに変え、日本を再言語化する「50年スパンの文化駆動OS」 - 第7回
地方活性
【国土交通省・後藤隆昭氏】防災は「共創のOS」である。シン・ゴジラのコミケ本『虚構と防災』が翻訳する、公助の限界を超えた都市のレジリエンス - 第6回
地方活性
Google、TwitterなどのIT企業で活躍してきた牧野氏が探る、情報の多層化がもたらす「次世代都市のOS」【一般社団法人メタ観光推進機構・牧野友衛氏】 - 第5回
地方活性
【吉見俊哉氏×柳与志夫氏】「知の菌」が発酵する街、神保町。AI時代の身体性を呼び覚ます「都市のリデザイン」 - 第4回
地方活性
【武蔵大学准教授・菊地映輝氏】「エヴァ批評少年から『産学連携の翻訳機』へ——武蔵大・菊地准教授が挑む、フェイクな関係を壊す『セレンディピティの設計』」 - 第3回
地方活性
【株式会社Stroly・高橋真知氏】「手描きなど様々な地図→視点の地図」が人を動かす。位置情報×ナラティブが書き換える、歩行の未来 - 第2回
地方活性
【東京大学大学院・真鍋陸太郎氏】都市は「情報の織物」である。コミュニティ・アーカイビングが書き換える、没場所性を超えるレジリエンス
