Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第8回
【文化庁文化政策調査分析官・林保太氏】「発見される日本」はもう卒業だ。街の記憶をアセットに変え、日本を再言語化する「50年スパンの文化駆動OS」
街づくり、街おこし、そして都市計画。その最前線には、常に常識を書き換える「キーマン」たちがいる。元ウォーカー総編集長であり、長年日本の街を見つめ続けてきた玉置泰紀が、いま最も話を聞きたい相手に直撃。大きく変容する日本の「新しい街の形」を紐解いていく。
第8回は、文化庁において現代アートの国際発信やエコシステム形成を主導してきた林保太氏。単なる「芸術振興」の枠を超え、アートを都市の成長を支える基盤=「OS」として実装する戦略とは何か? 100年後の文化財を見据え、クリエイティブな投資が街の価値を塗り替える、その「構造」の正体に迫る。
【ゲスト】林保太氏
【林保太氏プロフィール】 1994年から文化庁勤務。現代アートの国際発信や「文化庁アートプラットフォーム事業」を主導。文化戦略官兼芸術文化支援室長として、日本のアートエコシステム形成(作る・売る・買う・守るの循環)と市場活性化に尽力。現在は文化政策調査分析官として、データと現場感覚を融合させた中長期的な文化政策の分析・立案に携わる。
「百貨店」から「文化庁」へ、異色のキャリアの始まり
玉置: 今日はどうもありがとうございます。文化戦略については、やはり林さんに聞かないわけにはいかないだろうと。
林: ありがとうございます。街づくりのOS、面白い視点ですね。
玉置: 林さんは1994年から文化庁勤務とのことですが、そもそもどういう経緯で文化庁を選ばれたんですか? 以前、民間企業を経験されているという話をチラッと伺ったことがありますが。
林: ええ、あまり自分からは言わないんですが(笑)、最初は百貨店にいたんです。
玉置: えっ、百貨店ですか! でも、山下裕二先生(美術史家)も元伊勢丹ですし、文化と百貨店って実は相性がいいですよね。
林: そうかもしれませんね。ただ、私は文化の仕事がしたいと思って入ったものの「あ、これはちょっと違うな」と早々に気づいて(笑)。公務員試験を受け直して、当時は文部省の内部部局だった国立大学(大阪大学)の事務局からキャリアをスタートさせました。その後、1994年に東京の文化庁に転任したのが始まりです。
福井の「原子力」現場で学んだ、ボトムをつなぐ重要性
玉置: 文化財保護の現場からスタートされたんですね。そこから今の現代アートや戦略的な振興策に至るまで、大きな転換点はどこだったんでしょうか?
林: 意外に思われるかもしれませんが、2006年から3年間出向していた福井大学での経験が大きいです。私は総務課長的なポストで、そこで「原子力工学研究所」の立ち上げに携わったんです。
玉置: 文化庁から原子力へ? それはまたすごいジャンプですね。
林: 文化とは関係ない分野ですが、そこで痛感したのは「組織や専門家の現場をどうつなぐか」という視点でした。福井大学には当時、原子力の中核を担う教員・研究者はいませんでした。だから大阪大学や京都大学、名古屋大学の研究者を回って、原子力研究者の連携を促し、現場のネットワークを作り上げる必要があったんです。この「現場のステークホルダーを丁寧につなぐ」という実務経験が、2009年に文化庁に戻って担当した「メディア芸術祭」や、「メディア芸術総合センター」構想が中止となった後に、改めて、メディア芸術各分野の振興にどのように取り組むか、という時の大きな教訓になりました。
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