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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第10回

【東京スリバチ学会会長・皆川典久氏】「平坦・均一」のバグから都市の記憶が宿るOSへ。建築家×地形マニアが解き明かす「東京の凹凸」が拓く未来

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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 街づくり、街おこし、そして都市計画。その最前線には、常に常識を書き換える「キーマン」たちがいる。長年日本の街を見つめ続けてきた玉置泰紀が、いま最も話を聞きたい相手に直撃し、大きく変容する日本の「新しい街の形」を紐解いていきます。

 今回のゲストは、東京スリバチ学会会長であり、鹿島建設でプロの建築・インテリア設計に携わる皆川典久氏。かつて「スリバチ」という言葉が皆川氏によって命名された瞬間、それまでただの「不便な窪地」と見なされていた地形は、突然物語を語り始め、豊かな価値を持つ存在へと書き換えられた。「下を向いて歩こう」を合言葉に、近代都市計画が「バグ」として蓋をしてきた東京の凹凸地形に光を当て、その魅力を20年以上にわたり発信し続けている。

 マンハッタンのような人工的な計画都市とは異なり、東京の地形に潜む起伏は、都市の記憶と生態系が宿る「OS」そのものである。地形マニアとしての顔と、第一線の建築家としての顔を併せ持つ皆川氏と共に、これからの東京の姿と新しい街づくりのOSを探る。

【ゲスト】 皆川典久氏

皆川典久氏

【皆川典久氏プロフィール】 東京スリバチ学会会長。鹿島建設株式会社建築設計本部勤務。1963年群馬県前橋市生まれ。法政大学非常勤講師、東北大学大学院非常勤講師、新潮講座講師などを歴任。2003年にランドスケープ・アーキテクトの石川初氏(現・慶應義塾大学教授)と共に「東京スリバチ学会」を設立。東京都内に点在する窪地や谷間などの「凹凸地形(スリバチ地形)」に着目し、定期的にフィールドワーク(観察と記録)を続けている。2015年には町の魅力を再発見する独自の手法が評価され、東京スリバチ学会としてグッドデザイン賞を受賞。『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)、『ブラタモリ』(NHK)などメディア出演多数。主な著書に『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(宝島社)、『東京スリバチ街歩き』『世界遺産級都市 東京地形探訪 知恵と技術が詰まった「都市の傑作」』(山川出版社 2025年)などがある。

「スリバチ」と「水辺」が交差する時。3次元の地形と江戸の知恵が新しいOSになる

玉置: 今回の「新しい街づくりのOS」という連載では、街をどう考えるかということを色んな方に伺っています。皆川さんは、本職では鹿島建設の建築設計本部でプロの設計に携わりながら、一方で「東京スリバチ学会」の会長として20年以上活動されています。以前、外濠エキスポでもご紹介いただいた『世界遺産級都市 東京地形探訪』も大変好評のようですね。

皆川: はい、ありがとうございます。私は本気で東京を「世界遺産級の都市の傑作」だと考えているのです。学会の活動を通して、東京という街をスリバチや凸凹地形といった視点で捉え、愛でていくこと。そして最終的には、過去を振り返るだけでなく、東京が将来どういう街になったらいいのかという未来の着地点まで、今日はお話しできればと思っています。

玉置: 最初の質問として、皆川さんが長年提唱されている内陸の「スリバチ(地形)」と、私たちが一緒に活動している「水辺」、これらは都市のOSの中でどう交差していくのでしょうか。

皆川: スリバチと水辺というのは、決して別々のものではなくて、都市の成立ちや営みを考える上で、深く関係しているものなのです。 近代の都市計画、特に明治以降から戦後の高度経済成長期にかけては、丘陵地や傾斜地などにおいても、とにかく土地を平坦・均一化しようとしてきました。都市計画は地図という2次元の平面情報を使って、用途地域などを色分けしますよね。でも、地図上の平面では表現されない土地の「高低差」が、東京に限らず、どんな街にも存在します。

 斜面地があれば建設重機を使って、階段状に造成して、平らな土地を「商品」として売る、これが20世紀型のビジネスモデルでした。しかし、本来は元々の現地形を活かしながら都市のあり方を考える必要があるはずです。大規模な土木工事が困難だった江戸時代は、土地の個性を活用しながら街がつくられていた、そこに新しい都市の作り方のヒントがあると思っています。

玉置: つまり、2次元の地図ではなく、3次元のレイヤーで都市を見るということですね。

皆川: その通りです。私が着目している「スリバチ」は、日本の都市の中でも稀有な存在だし、ましてやニューヨークのマンハッタンやロンドン、パリといった世界の主要都市では決して見られないもの。それらの都市には東京のような複雑な地形はありませんし。さらに東京は、山手台地(武蔵野台地)の起伏と低地が絶妙に組み合わさった「台地と低地の連合都市」でもあるのです。

 私が言うスリバチとは、単なる窪地ではなく「湧水による浸食によって削られたスリバチ状の地形であり、川の源流にあたる場所」を指しています。そんな神秘的な場所が、現代においても、いくつも点在している街自体が、世界的に見て極めて珍しい、まさに奇跡なんだと思います。

 江戸の人々はその湧き水を使って農業用ため池を作り、稲作を行っていました。また、地形の起伏を活かして、神田上水や玉川上水といった水路網を「自然流下式」で張り巡らせた。さらに江戸城においても、谷地形をせき止めて巨大なダムのように作ったのが内濠や外濠なのです。千鳥ヶ淵や牛ヶ淵などは自然河川を堰き止めたものであり、飲料水確保と防衛を兼ねた、地形を最大限に活かした世界でも最大級の城郭遺産なんです。そんな土地に自分たちは暮らしています。

玉置: なるほど。自然の地形と湧水が、都市の巨大なインフラに直結していたと。

皆川: ええ。庭園文化もそうです。スリバチ地形の水源を利用して、大名庭園である「池泉回遊式庭園」がつくられました。つまり、必要な水源を湧き水で「現地調達」できていたわけです。 さらに、海沿いに目を向ければ、浜離宮や旧芝離宮のように東京湾の海水を取り入れる「潮入の庭」という、自然の潮の満ち引きのエネルギーを使って水を循環・浄化するシステムも江戸の発明と称されています。現在も浜離宮は海水が出入りする唯一の現存例です。旧芝離宮の他にも、清澄庭園や旧安田庭園など多数の潮入庭園が存在していました。

 土地を平らに均すのではなく、こうした武蔵野台地が持っている凸凹地形と、そこから湧き出る「水」を巧みに活かした江戸の知恵やエコシステム、その延長を考えることが、20世紀型の理論で行き詰まった現代において、これからの都市のOSを書き換える、もっとも本質的なヒントになるはずです。

『世界遺産級都市 東京地形探訪: 知恵と技術が詰まった「都市の傑作」』 皆川 典久 (著)

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