Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第10回
【東京スリバチ学会会長・皆川典久氏】「平坦・均一」のバグから都市の記憶が宿るOSへ。建築家×地形マニアが解き明かす「東京の凹凸」が拓く未来
行政任せにしない「防災OS」。歩いて体感する地形の理と教育への展開
玉置: 3つ目の質問として、「水都東京・未来会議」などでも常に重要なテーマとなる「防災」について伺いたいと思います。現在、行政から詳細なハザードマップが提供されていますが、それを2次元の紙の上で眺めているだけでは、本当の意味での危機管理にはならない気がしています。 自分の足で、フィジカルに「地形の理(ことわり)」を理解すること。スリバチを楽しみ、街を歩くという延長線上で、コミュニティの「防災OS」(自衛能力や土地への愛着)をどう高めていくべきでしょうか。
皆川: 全く同感です。自分の足で歩いて体感することが、何よりも大切なんです。例えば、行政も街中の電柱などに「ここは海抜〇メートルです(ここは海面下ですよ)」といった海抜表示や、過去の浸水実績のプレートを出していますよね。普段から歩いてそういうサインに自覚的に気づき、「あ、自分の家は周囲よりこれだけ低い場所にあるんだな」と身体感覚として知っておく。
そうすれば、いざという時に「この辺りには高台がないから、あそこの頑丈な建物の3階以上に避難しよう」といった具体的な行動を、ハザードマップを読み直すまでもなく直感的に判断できるようになります。2次元の情報を、歩くことで3次元の身体感覚に落とし込むわけです。
玉置: そうした意識を社会のベースにするには、教育などからのアプローチも有効だと感じています。 実は昨年、私が関わるメタ観光推進機構の取り組みの一環として、山口県内の5つの高校(萩、山口、岩国、防府、長門など)と一緒に教育事業を行ったんです。高校生たちに自分たちの街を多層的なレイヤーで読み解いてもらい、新しい観光プランを作ってもらったんですが、これが非常に教育的効果が高かった。
最初は「何もない」と言っていた生徒たちが、歩きながら「なぜここに城下町ができたのか」「このカーブはかつての水路の痕跡だ」と発見していく過程で、街への愛着と同時に「ここは水が溜まりやすい」という地形の理を自然に理解していったんです。 さらに大人向けでも、最近では「東京ビエンナーレ」で散歩がひとつのテーマになっていて、「さんぽはアートだ」という言われ方さえしています。
皆川: 素晴らしい取り組みですね。学校教育の中に「街歩き」を取り入れるのは非常に重要だと思います。人間は、歩く速度のときに一番深く思考したり、創造的な探求ができるんです。 若い世代だけでなく大人にとっても歩くことは重要で、私はしばしば、シルバー層(高齢者)向けの街歩き講座もやっていますが、歩くことは身体的な健康維持だけでなく、実は「精神的な健康」に凄く効くと提案しています。「なぜここはこんな坂になっているんだろう?」「あっ、ここに川の痕跡がある」と謎解きをしていくことで、好奇心が刺激され、街との繋がりが生まれる。これが生きがいというOSになります。
玉置: 地形の成り立ちを知る好奇心が、結果的に防災にも結びついていくと。
皆川: その通りです。例えば、東京の山手台地を覆う「関東ローム層」は、富士山などの火山灰が長い年月をかけて積もったものですが、これは巨大なスポンジのような保水力を持っています。大雨が降っても一気に流さず、たっぷりと水を蓄えてくれるからこそ、その水がスリバチの底から湧水となって街を潤す。こうした大地のダイナミックな仕組みを知れば、ハザードマップの赤いエリアを単に「怖い場所」と避けるのではなく、その土地が持つ恵みも含めて「正しく恐れる」ことができるようになります。 散歩を通じて地形の成り立ちを愛でる好奇心が、行政任せにしない最強の「防災OS」をコミュニティに実装していくのだと確信しています。
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