Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第8回

【文化庁文化政策調査分析官・林保太氏】「発見される日本」はもう卒業だ。街の記憶をアセットに変え、日本を再言語化する「50年スパンの文化駆動OS」

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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文化政策調査分析官の視点:文化と経済の「不可分な関係」

玉置: さて、林さんは2025年7月に室長から「文化政策調査分析官」というお立場に変わられましたが、今後はどのようなミッションに注力されるのでしょうか。

林: 基本的には、これまで手掛けてきたアート分野の延長線上ではあるのですが、役割としては「ライン(執行)」から「スタッフ(分析・提言)」に移った形です。必要な事象を調査・分析し、それを国家の政策へと昇華させる。ある種、自由な立場で文化行政の「脳」となるような役割ですね。

玉置: 文化政策調査分析官……まさに「文化戦略の参謀」ですね。林さんが25年以上関わってきた現代アートや芸術祭の知見が、いよいよ国全体のマスタープランになっていく。

林: 今まさに「文化経済部会」などで中間論点の整理をしていますが、ターゲットは2028年度から始まる「文化芸術推進基本計画(第3期)」です。これは5年ごとの計画ですが、今回は単なる更新ではなく、おそらく今後30年、50年のベースになるような大きな転換を目指しています。

文化庁が「経済」を度外視しなくなった日

玉置: 「50年スパンのベース」とは、具体的にどのような変化なのでしょうか。

林: これまでの文化庁は、経済的な側面をどこか度外視、あるいは忌避してきた面がありました。しかし、新しい計画では「文化と経済の好循環」をエッセンスとして明確に入れ込みたいと考えています。文化庁の各課だけでなく、関係省庁が「文化が経済を動かし、経済が文化を守る」という前提に立って動く状況を作る。これが今後の文化政策の核心になると思います。

玉置: 戦後から続いてきた「文化は保護されるべき弱者」というOSを、ついに書き換えるわけですね。

林: そうですね。戦後の混乱期や高度経済成長期を経て、世代も変わり、新しいフェーズに来たと感じます。4月からは独立行政法人国立美術館の幹部体制も刷新され、独立行政法人が実行部隊として機能し始めることで、政策の実効性は飛躍的に高まるはずです。

「発見される日本」を終わらせるための言語化

林: そして、私自身の大きなテーマは「日本文化の再言語化」です。日本人はもっと、自分たちの文化に真剣に向き合わなきゃいけない。

玉置: それは、古来の伝統だけでなく、戦後のサブカルチャーなども含めた「今、ここにある日本」ということですか?

林: もちろんです。これまでは、海外から「発見される日本」という構造を繰り返してきました。外から評価されて初めて自分たちの価値に気づく。でも、それではダメなんです。なぜ自分たちの文化が、今こういうカタチ、あるいは状態をしているのか。それを自分たちの言葉でロジカルに説明(言語化)できなければ、自分たちの文化が経済的に自立して回っていくことも、新しい文化産業を生み出し続けることもできないと思います。

玉置: そのお話で思い出すのは、1970年の大阪万博を機に始まった「ディスカバー・ジャパン」です。あの巨大キャンペーンは、日本の雑誌文化や広告のあり方を劇的に変えました。新幹線が開通し、消費社会が成熟する中で「新しい日本」を可視化した。

林: あれは時代を変えましたよね。今はインバウンドの急増によって、世界が日本を見る目がコロナ前とは全く変わっています。世界中から注目され、尊敬されている。このアドバンテージがあるうちに、日本文化を単なる「情緒」で終わらせず、構造化・言語化して、持続可能なシステムに落とし込む。

玉置: 今のサイレント・マジョリティは、既存のメディアが語る自虐的な論調とは別に、自分たちの足元で起きている変化を敏感に感じ取っている気がします。

林: 私もそう思います。言葉に出ている表面的な現象とは違う、もっと深いところでの変化があるように感じています。この先50年の文化政策は、この深いところの変化を掬い上げ、日本に住む人たちが、自分たちの文化に自信を持って暮らしていける社会を実現する政策を行っていく必要があると思っています。

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