Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第8回
【文化庁文化政策調査分析官・林保太氏】「発見される日本」はもう卒業だ。街の記憶をアセットに変え、日本を再言語化する「50年スパンの文化駆動OS」
「メディア芸術祭」の熱狂と、政府が「賞」を出すことの限界
玉置:2009年といえば、麻生太郎内閣で「国営マンガ喫茶」なんて揶揄もされましたが、メディア芸術の拠点構想がわっと盛り上がった時期ですね。
林: あのセンター構想は執行停止になりましたが、当時はアニメ業界や出版社とのコミュニケーションが不足していた面がありました。行政側が一方的に進めるのではなく、業界と同じ方向を向くには、やはり10年単位(実際には15年)の時間が必要でした。 また、メディア芸術祭を担当する中で、私の中で「政府が作品に賞を与える仕組み」の限界も見えてきました。国際的な応募が増える中、政治的なメッセージを含む作品に大臣が賞を出すことは、外交上の火種にもなり得る。だからこそ、行政は「作品の選別」ではなく「表現が生まれるためのエコシステム(生態系)の構築」にシフトすべきだと確信したんです。
玉置:なるほど。それが、「アートを都市のOSとして実装する」という戦略につながっていくわけですね。
アートを「都市のOS」として実装する戦略
玉置:林さんは、これまで欠けていた日本のアートのエコシステムを構築するために奔走されてきました。単に美術館に人を呼ぶという枠組みを超えて、アートを都市や地域の「共通言語(OS)」として機能させるために、行政や民間企業のマインドセットはどう更新されるべきでしょうか。
林: 民間企業について言えば、トップの考え方が非常に大きいと思います。2010年代からリサーチを続けてきましたが、日本企業の関心は確実に高まっています。ただ、いま日本において「アート」という言葉で語られているものは、「カルチャー(文化)」そのものを指しているのではないかと。あらゆる判断のベースに、文化的な視点があるかどうか。戦後の高度経済成長期の日本は企業人が「文化を語る」ことをしない、語ることでビジネスにおいてマイナスに働くような、ある種切り離されたような感覚があったと思います。そこには、先の戦争に芸術が加担したことに対するトラウマという面もあったように感じるんですね。でも、21世紀に入って、ようやく、文化芸術と新たな関係を結ぶフェーズに入ってきた。
玉置: ベネッセや寺田倉庫のように、アートをエリアマネジメントの核に据えて成果を上げている企業も出てきました。例えば、北川フラムさんがベネッセとともに、瀬戸内国際芸術祭や大地の芸術祭でやったことは、お祭り以上に「インフラ」として機能していますよね。
林: そうです。地中美術館や家プロジェクトが、三年に一度の芸術祭の時だけではない、日常の暮らしの豊かさを支えている側面もあると思います。そして今、都市の基盤を考える上で非常に重要な分岐点にきているのが、「建物の記憶とリノベーション」の問題です。
中野サンプラザに見る「更地にする不条理」
玉置: 最近は建築費の高騰もあって、リノベーションの機運が高まっていますが、最近ですと、中野サンプラザのように、歴史ある建物を更地にして建て替える計画が頓挫したりといった動きもあります。中野サンプラザを更地にして新しい施設を作っても、それは「新しい公民館」ができるだけになりかねない。あの三角形のフォルムや、RCサクセションなど数々のアーティストが舞台に立ってきた歴史、記憶をリノベーションで引き継いだ方が、多少お金がかかっても、街にとってはるかに大きな財産になるはずです。
林: 最近は新築と遜色ない、あるいはリノベーションの方が工費を抑えることができるケースも出てきているみたいですね。環境問題の観点からも、そちらの方が理にかなっている。「歴史や時間の蓄積」に価値があると思う人が増えてきた。今までは経済効率や、「新築の方が利益が大きい」という論理に勝てない、という面が強かったと思いますが、資材高騰が続き、人手不足で仕事が受けきれない今の状況下では、その前提も崩れつつあると思います。
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