Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第8回
【文化庁文化政策調査分析官・林保太氏】「発見される日本」はもう卒業だ。街の記憶をアセットに変え、日本を再言語化する「50年スパンの文化駆動OS」
東京駅から「減築」の最前線へ
玉置: 東京駅を空中権を利用して復原した事例は、象徴的でしたよね。
林: あれは非常に大きかったと思います。東京駅をあのような形で残し、復原した。その流れは、同時期に進められた三菱一号館の再建、東京中央郵便局舎(現KITTE)を一部残す、という流れにつながったのではないかと。手間とお金はかかりますが、それらが街にもたらすブランド効果は計り計り知れません。
玉置: 「時間という価値」が、ようやく都市のスペックとして認められ始めた。
林: 先日伺った面白い事例では、大阪避雷針工業神戸営業所の改修で、竹中工務店がリノベーションした際、「減築(げんちく)」という手法が取られました。あえて上の階を減らすことで耐震性を高め、既存の躯体を「地形」のように活かして再生させたんです。
玉置: 「減築」ですか! 面白い。僕も今、大阪の実家をリノベーションしていますが、屋根裏の土を取るだけで耐震性が上がるんですよね。古さを活かすことで、新築にはない良さが絶対に出てくる。
林: 現在は、新築の建物よりも、時間を経たものを丁寧に使いこなしている空間にオフィスを構えることに意義を感じる企業が増えたのかも知れません。既存の躯体を地形として捉え、それを生かして何をするか、というような考え方がこれからのスタンダードになっていくと思います。こうした「不確実性や記憶を許容する余白」を都市の中にどう残していくか。それが100年後の文化財を育む土壌になると思っています。
「アートプラットフォーム」がもたらす街の回遊性
玉置: 次に、アートプラットフォームがもたらす街の回遊性について伺います。林さんが主導された「文化庁アートプラットフォーム事業」など、情報の可視化やネットワーク化は非常に重要なテーマです。デジタル基盤が整うことで、リアルの街における体験や観光・経済活動のダイナミズムはどう変わるのでしょうか。
林: デジタルで変わる一番のポイントは、情報へのアクセスがスムーズになり、大量の情報に触れやすくなることです。ただ、人間は情報だけでは満足しません。デジタルで良質な情報を提供できれば、「リアルにアクセスしよう」とする動機付けが強まる。結果として、実際の街においても、これまで見過ごされていた場所に人が動くような新しい可能性が広がるはずです。
玉置: 文化庁としてもアーカイブには力を入れてこられましたよね。凸版印刷や大日本印刷、そして現在は国立アートリサーチセンター(National Center for Art Research(NCAR))が引き継いでいますが、この「アートのアーカイブ」をやり切るのは並大抵のことではないと感じます。
林: 仰る通り、現場は本当に大変です。最大の問題は、アーカイブを行う活動単体では「収益性がない」ということです。しかし、これは国としての「資産」を作る作業。そこにどれだけ投資できるかが問われています。
コンテンツホルダーの壁と、公共の役割
玉置: データの更新も不可欠ですし、何よりコンテンツホルダー同士の壁が厚いですよね。KADOKAWAもアニメツーリズム協会などで苦労していますが、各社が自社のコンテンツを抱え込むドメスティックな市場構造がある。
林: 民間同士の連携は、利害調整が難しい面がどうしてもあります。そこを繋ぐ触媒の役割を果たすのが文化庁の役割なのですが、人事異動で人が替わるとどうしても勢いが止まってしまう面があります。
玉置: ある種の「織田信長」のような、万勇(ばんゆう)して突き進む人間がいないと進まないんですね。ただ、この15年ほどで「パブリックなものには協力すべきだ」という空気感は醸成されてきたように思います。国立情報学研究所の「ジャパンサーチ(Japan Search)」のような成果も出ていますしね。昨日も文化審議会でデジタルアーカイブの課題が議論されていたそうですね。
林: ええ。例えばNHKアーカイブスのような素晴らしい資産は、公開はされていますが、もっと活用できる幅が大きいと思います。これらをうまく活用することができれば、将来的に大きな経済的価値を生むはずです。
玉置: どうすればもっと使ってもらえるか。メタ観光地図のような取り組みも含め、アーカイブが「街を歩く楽しさ」に直結する仕組みをどう作るか、これは我々の大きな宿題ですね。
林: 本当にそうですね。答えがすぐ出るなら誰も苦労しませんが、あらゆる側面を見ながら、様々な角度で考え続けていくしかないと思っています。
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