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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第66回

【JSTnews1月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業ERATO「山内物質空間テクトニクスプロジェクト」

あらゆる元素を扱う無機合成化学で新材料を創出し、社会問題の解決へ

2026年01月22日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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朝倉裕介。名古屋大学 大学院工学研究科 物質プロセス工学専攻 准教授。東京都出身。2015年早稲田大学大学院先進理工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。東北大学多元物質科学研究所助教などを経て、21年より早稲田大学各務記念材料技術研究所主任研究員/ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクトグループリーダー、23年より現職。25年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)イノベーション戦略センター主任研究員(クロスアポイントメント)。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 「説明できない」に挑む面白さ

 元々研究者を目指していたわけではなく、中学校で出会った化学の先生の影響で、同じように教職に就きたいと思っていました。その先生の授業は実験やレポートを重視するユニークなもので、テストは難しかったですが、とても面白かったです。化学を学べば世の中のいろいろな現象を理解し、説明できるかもしれない、という思いが化学の道に進む原点でした。

 大学の研究室に入ると、世の中にはいまだに解明されていない現象もたくさんあり、化学で説明できないことの方が多いという現実に直面しました。それでも、わからないことを自分のアイデアで解き明かし、新しいことに挑戦できる面白さに魅力を感じました。また、高校までの一方向の教育とは違い、教員と学生が双方向で学び合うことができる環境に惹かれて、研究と教育の両方に携わる大学研究者の道を選びました。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 無機物を組み合わせ新材料創出

 私が専門とする無機合成化学は、無機物質の組成・構造・形態を制御して新しい材料を生み出す学問です。従来、無機物質の合成では原料を混ぜて高温で焼いたり溶かしたりしていましたが、それでは組成・構造・形態を思い通りに制御できません。そこで、目的の材料を設計し、単純な構造から段階的に組み上げていく新しい合成手法の開発を試みています。


 ERATOでは、環境・エネルギー問題の解決に利用できるナノ空間材料を作製しています。ナノサイズの穴が開いた多孔体は1グラム当たり数百平方メートルもの表面積を持ち、触媒として優れた性能を発揮します。私たちは、さまざまな機能を持つ材料を精密に作って組み合わせることで、多様な機能を集積した新しい材料の創出を目指しています。

 最近では、水溶性の鋳型を使った新しい合成法を開発しました。実は、この発見は失敗から生まれました。以前、酸フッ化物の新規合成法を研究していた時、せっかく作った材料が水に溶けてしまいました。材料には使えないと落胆しましたが、数年後に水に簡単に溶けるなら鋳型として使えると気付き、ペロブスカイト型フッ化物のナノ粒子を鋳型に使う多孔体有機ポリマー合成法を見いだしました。発想を変えることで、専門である無機材料ではなく、新規有機材料創製へとつながりました。この手法で作った光触媒用の多孔性有機ポリマー材料は、従来法で得られる同組成の物質より高い活性を実現しています。

フッ化物を水溶性鋳型とするポーラスポリマー合成の模式図。フッ化物粒子の隙間で分子が重合し、フッ化物を除去することでポーラスポリマーを形成します。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 失敗の中に新しい研究の芽がある

 今年からNEDOでも勤務しており、やはり社会課題を解決してこその技術ではないかという思いが強くなっています。企業との共同研究では、一酸化炭素を常温で二酸化炭素に変える触媒フィルターの開発も進めています。災害用シェルターの換気装置に導入することで、人の命を守ることに貢献できるのではないかと考えているところです。

 研究では、自分が思い付いたことを実現し、世界で初めてのことに挑戦できます。失敗も多いですが、そこに新しい研究の芽があります。失敗をただの失敗で終わらせず、そこから発想を転換し、新しい道を見いだすことが大切です。

休日にはよく猫カフェを訪れ、癒やしの時間を過ごしています。

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