【JSTnews8月号掲載】NEWS&TOPICS 戦略的創造研究推進事業さきがけ/研究領域「植物分子の機能と制御」/研究課題「『擬態する花』に着目した昆虫操作の物質・遺伝基盤解明」
くさいにおいを作る「腐肉擬態花」のメカニズムを解明
2025年08月19日 12時00分更新
花の中には、腐った肉のようなにおいでハエなどの昆虫をおびき寄せる「腐肉擬態花」という奇妙な花が何種類もあり、代表例としてはラフレシアがよく知られています。しかし、いかにしてこのような臭さの成分を作ることができるようになったかはよくわかっていませんでした。
国立科学博物館の奥山雄大研究主幹らのチームは、山野草のカンアオイの仲間が臭さの成分であるジメチルジスルフィド(DMDS)を生み出す仕組みを解明しました。同チームは、アミノ酸の一種であるメチオニンからDMDSを生合成する酵素活性がカンアオイの仲間の一部の種の花に存在することを実験で確認。その中でDMDSを花のにおいに含む種と含まない種とを30系統選び、それぞれの花で全遺伝子の発現状態を比較解析しました。その結果、DMDS生成に関与していると思われる2つの遺伝子、MGLとSBPを見つけました。その後、SBPで作られる酵素でメタンチオールからDMDSが生成することを発見し、ジスルフィドシンターゼ(DSS)と名付けました。同チームはさらに、カンアオイ属の進化の系統においてSBPに遺伝子の変化が起きたこと、またメタンチオールからDMDSを作らずに分解する酵素MTOXが祖先であり、そこからDSSが派生し、両者の機能の違いはたった3アミノ酸の違いで決まっていること、ザゼンソウ属とヒサカキ属でも同様の派生が起こっていることも突き止めました。
つまり、「臭い花」への進化の道筋は限られており、3つの植物群は全く同じプロセスを経て全く同じ物質を作るようになったということです。これは異なる生物種が同じような環境に置かれた結果、独立に同じ機能を獲得したという収れん進化を分子的に解明できた貴重な成果と言えます。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第106回
TECH
ファンタジーの魔法使いのような人工知能に夢を見た。日本語のニュアンスを捉える自然言語処理を研究 -
第105回
TECH
次世代エレクトロニクスデバイスの性能向上のために重要な、有機薄膜の自己組織化メカニズムを解明 -
第104回
TECH
子宮内での胚の着床の分子機構を解明、不妊治療の発展に期待 -
第103回
TECH
異なる材料同士をつなぐ接着剤の高性能化を見据え、界面分子鎖の運動の観察に成功 -
第102回
TECH
生きた哺乳類の生体組織を透明化する試薬を開発 -
第101回
TECH
セラミックス膜を使った世界唯一の独自技術で超高純度リチウム回収、資源循環を目指す -
第100回
TECH
必要な支援決定がすぐ行え、子ども支援につながるスクリーニングシステム -
第99回
TECH
無数の微細な孔を持ち電気を流す! 「導電性ナノ多孔体」の合成法を確立 -
第98回
TECH
集団内の多様性と同調が、危機の回避に役立つ――ハエの行動から探る「集団の力」 -
第97回
TECH
酵素遺伝子の喪失がカギとなる、大腸菌がカメムシ共生細菌へ変化する仕組み -
第96回
TECH
カムチャツカ半島沖での25年の観測で、北太平洋西部亜寒帯域の変化が明らかに - この連載の一覧へ








