このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 次へ

新清士の「メタバース・プレゼンス」 第75回

商業漫画にAIが使われるようになってきた

2024年08月12日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

漫画制作でAIの活用機会が増えてきた

 漫画制作において、AIの活用機会はじわじわと増えてきています。

 たとえ『南緯六〇度線の約束』を連載中のうめさんは、写真をStable Diffusionで2値化(白黒化)し、AI着彩サービス「Copainter」で整えることで背景の下絵を作る試みを紹介しています。

 『ケンガンアシュラ』で作画担当のだろめおんさんは、ラフで描いたキャラクターから、i2i(画像→画像)生成機能を複数組み合わせて画像を作り出し、モブシーンの土台として作画されていると明かしています。

 集英社の漫画投稿サービス「ジャンプルーキー!」では、オキヌケ船長さんのAI作画の漫画「JKになったおっさんがファミレスで駄弁る話」が登場し、「月間ルーキー賞」で6月期の10位に入ったということが話題になりました。

 生成AIは、プロの漫画家が使うには、まだまだ完璧ではない部分も多々残っていますが、支援ツールとして部分的に使える可能性について、様々な人が実験を始めつつあります。ウェブマンガの登場によって、漫画家がデビューすること自体のハードルが下がっているため、優秀なアシスタントを見つけにくい状況が生まれており、そこを補うことへの期待という面もあるようです。

 筆者は、普段ゲーム開発の仕事をしているため、漫画ほど様々な表情を求められるような画像を作成する機会はほとんどありません。当然、「子育てに疲れた母親」といったという表現などやったことがありません。一方で、実際に着彩作業を試みてみると、オリジナル版『児童福祉司一貫田逸子』が魅力的なセリフ運びと作画によって支えられているのかということに気が付かされました。疲れた母親は、微妙な表情とその体つきで、その日常生活を情報として一瞬で感じさせるほどの情報量が込められているのだなと。まだ、リメイク版には、そこまでの魅力にまでは達していないようには思えます。それでも、リメイク版が読まれていることは、ウェブ電子コミック時代に変化が訪れていることが感じられます。

 古くなった漫画作品を、新しく注目を集めて、また読んでもらう方法として、このAIリメイクという方法は一般化していく可能性が十分にあるでしょう。そして、AI技術の発展も続いているため、よりオリジナル作品の魅力を引き出すような方法の開発も行われてくると考えられます。

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

前へ 1 2 3 4 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ