コミュニティーが離れる
翌日の18日、comfyanonymous氏やmcmonkey4eva氏を中心とした8名のComfyUIや関連技術の開発者によって、「ComfyUIのエコシステムをサポートする」という目的のComfy Orgという団体の設立が発表されました。「AIツールの進化と民主化」をミッションに掲げ、「オープンソースとコミュニティー主導であることを信じる」としています。
オープンソースを維持するために、ComfyUI自体からの収益は得ないが、Linuxで確立されたようなコンサルティングやエンタープライズサポートで将来的には稼ぐとしています。「私たちは、有料の壁やライセンスの後ろにソースの機能を隠したり閉じたりすることは決してありません」ともしており、有償のクラウドビジネスへのシフトが顕著になってきているAIサービスとは違うアプローチを取ることを鮮明に打ち出しています。このあたりも、有償のサービスへのシフトを進めていたStablity AIとの考え方のズレが顕著になっていたと言えるのかもしれません。

CivitAIのSD3関連モデル投稿を禁止するアナウンス
さらに同じ18日に、画像生成AIのモデルやLoRAなどを共有するプラットフォーム大手のCivitAIがSD3関連モデルの投稿を一時的に禁止しました。
CivitAIは今年3月時点で月間アクティブユーザーが約410万人を超える人気サイトです。著作権やアダルトコンテンツの問題もたびたび指摘されていますが、運営方針を修正しつつ、大手ベンチャーキャピタルの投資を受けてサービスの規模拡大を続けています。ユーザーがアップロードしたデータが利用された場合には収益化も可能にするクリエイタープログラムも展開しており、その利用者も1万人を超えているとされています。
SD3Mの登場後、数日内にLoRAやControlNetの投稿も登場してきている状況でしたが、やはりライセンスの疑問が解消されていないことを禁止の理由としました。22日にさらに詳しい理由を解説した投稿もされていますが、弁護士に確認したところ、懸念はより強まったとしています。
「(Stablity AIの)クリエイターライセンスは、Stability AIがSD3でトレーニングされたリソースだけでなく、その出力をデータセットに使用したリソースに対しても編集や削除の権限を持っていることを暗示しているようでした。(中略)SD3ベースだけでなく、多くのモデルがこの影響を受ける可能性があり、SAIがオープンソースの育成はもはや彼らの最善の利益にはならないと判断した場合、安定した普及コミュニティ全体が危険にさらされる」
データをアップロードするクリエイターの作品の収益化を積極的に支援する仕組みを整えている以上、現状のライセンスのままでは受け入れることが難しいという判断がされたようです。
CivitAIにアップロードされているデータは様々な問題を潜在的に抱えているとの指摘があるのは前述の通りです。現在もいわば「闇鍋」状態的な性質はありますが、Stable Diffusionを全世界の一般ユーザーに普及するドライバー的存在になっているのは間違いありません。そのCivitAIがサポートしないということで、SD3Mはコミュニティーからの支援を受けられないことが明確となり、急激に利用者が減る要因にもなりました。
そして、とどめとして出てきたのが6月25日に発表された「Open Model Initiative」です。
先ほどのComfy Orgと、画像生成アプリのInvoke、そしてCivitAIなどが連携。「オープンライセンスのAIモデルの開発と採用を促進する、コミュニティー主導の新しい取り組み」と方針と掲げ、オープンな状態を維持して、より競争力のある独自のオープンモデルの環境を整えていこうという団体のようです。今後は、コミュニティーイベントや関係者が集まっての会議といったものを予定しているとのことで、クローズドモデル化が進む動きへの対抗手段の一つになるかもしれません。

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