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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第57回

日本発のリアルタイム画像生成AIサービスが熱い 大手にとっては“イノベーションのジレンマ”に

2024年03月18日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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生成AIが「イノベーションのジレンマ」に?

『テクノロジーの世界経済史ービル・ゲイツのパラドックス』(日経BP)

 イノベーションのジレンマに関連して、オックスフォード大学フェローのカール・B・フレイ氏の『テクノロジーの世界経済史──ビル・ゲイツのパラドックス』(日経BP)は、技術革新がどのように社会受容されたかを論じた良書です。

 本の中では、重要な技術革新を「補完技術」と「代替技術」に分けており、どちらと認識されるかによって、社会の反発が異なることが説明されています。新技術が既存の仕事を置き換える代替技術と感じられた場合は、代替される労働者の仕事の将来に直結するため、必ず強い反発や抵抗にあったとされます。ただし、国際間競争や企業間競争が繰り広げられているときは、抵抗があっても、新技術の導入に社会的にストップがかかることはなかったという側面もあったそうです。

画面内の特定の画像を削除したりするのに便利なPhotoshopの「生成塗りつぶし機能」。前述の画像から林だけを選択して削除した

 画像生成AIの世界で言えば、クリエイティブツール大手のアドビが、リアルタイム生成と似た機能をPhotoshopなどに実装することは、技術的にはそれほど難しいこととは思えません。しかし、アドビは慎重に生成AIは「補完技術」であるとのアピールを続けているように見えます。不要な画像を削除したりする「生成塗りつぶし」機能はその代表格と言えるでしょう。現状は、既存顧客の反発を小さくしながら、生成AI技術を浸透させるように動いているように見えます。

 その点、スタートアップは過去の縛りがなく、新たな生成AIを利用する前提の顧客に向けてサービスを提供するため、新技術を取り込むのが早いです。新規ユーザーを対象とするため、既存顧客のリスクとぶつかることもありません。リアルタイム生成機能はまだ登場したばかりの技術で、現段階なら、どの生成サービス提供元もそれほど差がありません。それでもスタートアップは他社との差別化のためには、貪欲に新規技術を導入していく必要があります。

▲Akuma.aiは、リアルタイムキャンバス用にOpenPoseを使った新機能を研究中であると明らかにしている

 リアルタイム生成は、思い通りの絵を出すのがなかなか難しく、ユーザー側にも使用上のノウハウが求められる、まだおもちゃのような段階です。とはいえ、最初期がおもちゃのように見えるのは何でも同じです。初めは大したことのない技術でも、時間経過により、他社が簡単に追いつけない技術やノウハウに変わりはじめます。

 今は解像度も低く、性能もまだまだなので、各社はこうした環境をいかに安価に使いやすく提供できるかの競争になっていくでしょう。

 今後リアルタイム生成系サービスが発展していくことで、かつてお絵描きツールがパソコン向けからスマホ向けに移行して新市場が生まれたときと似たことが起きる可能性はあるのではないでしょうか。

   

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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