「Oracle CloudWorld 2023」での最新発表やCohereとの提携もふまえた記者説明会を開催
オラクルのクラウドERP、今後の生成AI活用や他社との差別化ポイントは
2023年10月30日 07時00分更新
日本オラクルは2023年10月26日、AIを含めたクラウド・アプリケーションの最新動向に関する説明会を開催した。同社のSaaS型ERPスイート「Oracle Fusion Cloud Applications」における最新動向や今後搭載されるAI/生成AI機能、他社SaaS ERPとの差別化ポイントについて解説した。
オラクルのクラウド・アプリケーション事業の重点施策
最初に登壇した日本オラクル バイスプレジデント アプリケーション統括 武藤和博氏は、SaaSの最新動向と同社のクラウド・アプリケーション事業の重点施策について説明した。
武藤氏は「ERPのSaaS市場規模の推移と予測」「国内AIシステムの市場規模の予測」の2つのグラフを示し、今後はSaaS市場とAI市場が飛躍的に伸びていくという見解を示した。
「SaaS市場は、今後4年間で2倍に伸びると予測されている。SaaSの特性である最新の機能が常にアップデートされ続けるという強みが社会に認知されて来ており、すでに成長のモメンタムも来ているのではないか。またAI市場についても、およそ4年間で2倍のビジネスになるとされており、すでにサプライチェーンやマーケティングなどの分野で採用が始まっている。オラクルでは“SaaSとAIの掛け算”で新たな社会における価値を創出できると考えている」(武藤氏)
SaaS市場、AI市場の大きな成長をにらみ、日本オラクルでは2024年度のクラウド・アプリケーション事業の重点施策として「事業環境変化に向けたモダナイゼーションのためのSaaS」、そして「AIで業界全体のDXを推進し、日本社会の生産性を向上」の2つを掲げている。
「事業環境変化に向けたモダナイゼーションのためのSaaS」は、これまで国内ではパッケージまたは作り込みを主体としてシステム化して来た結果、それが大きな障害になり、新しい時代の流れに追随できなかったという反省があるため、今後は日本社会を立ち上げ直していくために、SaaSの価値を提供して社会に貢献していくことを指している。
一方の「AIで業界全体のDXを推進」は、AIがB2Bソリューションに実装されることによって社会変革に活きるため、AIで業界全体のDXを推進していくという。
武藤氏は、SaaSビジネスでは日本オラクルはすでに10年の歴史があり、新しいテクノロジーやセキュリティをどんどん取り入れて来ており、それが自社の強みだとアピールした。
オラクルがSaaSとして提供するERPスイート「Oracle Fusion Cloud Applications」(以下、Oracle Fusion Apps)について武藤氏は、シングルデータモデルでインフラが統一され、インスタンスも集約されているところが非常に大きな強みだと説明する。また、四半期ごとに自動アップデートされる点も根本的な強みで、これによってAIや最新のセキュリティなど、技術革新の価値を常に享受できるメリットが生まれると語った。
「Oracle CloudWorld 2023」で発表された生成AIの活用
続いて登壇した日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 善浪 広行氏は、9月に米ラスベガスで開催されたプライベートイベント「Oracle CloudWorld 2023」における生成AIに関する発表について説明した。
善浪氏はまず、現在2500万以上のユーザーを持つOracle Fusion Appsの強みについて、「アプリケーションとその下にあるクラウドインフラ(OCI:Oracle Cloud Infrastructure)が(自社提供のかたちで)統合された、唯一のプラットフォームで動いている」ことだと説明した。「このあたりが今後、AIが搭載されていくにあたって効いてくるだろう」とも述べる。
AI領域に関してオラクルでは今年6月、生成AIのCohere(コヒアー)との提携も発表した。同社は今後、Oracle Fusion Appsにおいて、下図のようなユースケースに生成AI技術を適用していくことを明らかにしている。オラクルのSaaSに生成AIが搭載される意義について、善浪氏は次のようにコメントした。
「もともとOracleのSaaSは“データオリエンテッド(データ中心型)”に作られている。ここにCohereのテクノロジーが加わることで、企業向けのAIを加速させていきたい。企業向けAIとして顧客データを活用していくためにデータの信頼性、セキュリティを担保し、それらをスケールするクラウド(OCI)の上に載せる。これからさまざまなSaaSベンダーが生成AIの話をすると思うが、『どれだけスケールできるか』が重要なポイントになると考える」(善浪氏)
Oracle CloudWorld 2023では「Oracle B2B」の提携拡大も発表された。これは、オラクルのERP SaaSとバンキング、ロジスティクスといった提携企業(サービスベンダー)のサービスを連携させ、支払処理や運送の手配といった各種処理を自動化するもの。
Oracle B2Bは昨年のCloudWorldで、J.P. MorganやFedexとの提携を発表していた(当時の名称は「Oracle B2B Commerce」)。今年は新たにMastercardとのパートナーシップを追加し、組込み型バーチャルカードペイメントの仕組みが発表された。この仕組みをHSBCが導入したという。
また今年のCloudWorldでは、次世代のデータ分析AIプラットフォームとして「Fusion Data Intelligence Platform」も発表された。善浪氏は「単純なダッシュボード、レポーティングの機能だけでなく、アクションやリコメンデーションも搭載していく」と説明する。
Oracle Fusion Appsの差別化ポイントは
最後に登壇した日本オラクル 執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 ソリューション戦略統括 塚越秀吉氏は、Oracle Fusion Appsを支えるテクノロジーについて説明した。
塚越氏は、エンタープライズがAIを活用するうえで必要となる4つの要素について触れた。「高パフォーマンスのAIインフラストラクチャ」「堅牢なセキュリティ」「高いデータアクセシビリティ(データの扱いやすさ)」「AIが組み込まれたビジネスプロセス(業務)」の4つだという。
4つ目の「AIが組み込まれたビジネスプロセス(業務)」について塚越氏は、AIの組み込みによって「われわれ(オラクル)においてはシステムの変化、お客様においては業務の変化が生じる」と述べた。Oracle Fusion Appsは、OCIやCohereとの提携を通じてそうした変化に対応できるベースデザインを備えており、年に4回のアップデートリリースを通じて「最新のテクノロジーをいち早く利用できるメリットが生まれる」とする。
さらに塚越氏は、今後はCohereの技術がSaaSに組み込まれてくることも大きな差別化ポイントになると強調した。
「先ほど挙げた、エンタープライズがAIを活用するうえで必要な4つの要素を実現するモデルが、(Oracle Fusion Appsでは)もうアーキテクチャとして出来上がっている。いろいろなところでAIが活用され始めているが、それを活用するための“足回り”が整っていないと、必ず壁にぶち当たる。(オラクルでは)これが組み込まれて、どんどん改善されていく。これをベースにした、AIを活用したビジネスプロセスをお客様に提供することが、大きな差別化戦略となる」(塚越氏)