この連載で動向をウォッチしてきたMEMSスピーカー。MEMSスピーカーを搭載した世界初のIEMがいよいよ製品として登場した。Singularity Audioの「ONI」である。
MEMSスピーカーは、“シリコン・ドライバー”とも言うべき新しいデバイスで、シリコンウエハーから切り出す点ではICチップなどと同じである。MEMS技術では電圧をかけることでシリコンの一部を可動させ、空気を動かすことで音の振動にするとができる。発音体としてはピエゾ・ドライバーと同じ原理である。通常のダイナミックドライバーのようにパーツを組み合わせて作るものではなく、基本的にシリコンチップ単体なので極めて小型で低消費電力の上に、製造誤差が皆無に近くイヤホン用のドライバーで問題となる、左右のマッチング誤差がほぼないというとても優れた特性を持っている。詳しくは関連記事を参照して欲しい。
高級IEMとして販売、付属もしくは専用設計のアンプで駆動
ONIの米国価格は初期ロットで1500ドル(20万円超)。高価な部類のハイエンドIEMだ。初めの100個が売れたら次は1800ドル(24万円超)になるようだ。
xMEMS社のMEMSスピーカーである「Montara」を2基使用するデュアルドライバー機である。
Webサイトの解説では、既存のドライバーに比べて100~150倍も早く音楽信号に追従できるとある。これにより、自然な音楽再生が可能になるという。これはMEMSスピーカーが極めてインパルス応答に優れているからだと考えられる。ドライバーは3Dプリントされた樹脂のコアに埋め込まれていて、振動にも強いということだ。
ボディーは、5軸CNC加工で切削したチタン素材になっている。重さ5g、長さ19mmと極めて小型軽量な点もMEMSスピーカーらしい。ドライバーにはベント穴が設けられていて完全にはシールされていないとあるが、これはダイナミックドライバーに似た設計だと考えられる。
また、MEMSスピーカーは駆動に高い電圧が必要なために昇圧が必要となる。このためONIでは、ドングル型のUSB DACが付属している。USB Type-CまたはLightningに対応しているということだ。さらに、専用アンプがあればMMCXケーブルを使用して駆動ができるとしている。
この専用アンプとは、具体的に言うと、iFi audioがMEMSスピーカー用に開発した「Diablo X」のことだろう。iFi audioは2月にHead-Fiが開催したイベント「CanJam NY」に、この組み合わせをデモ出展していた。Diablo Xにはバイアス電圧を供給する仕組みがあると考えられる。過去に執筆したxMEMSの取材記事では「イヤホン内にも昇圧の仕組みが設けられる」と担当者が語っていたが、製品化に際しては専用アンプの方が確実なのだろう。
ちなみにDiabloは日本でいう鬼のような存在だ。ネーミングもONIと合わせたのだろうと思う。4月末に開催予定の「春のヘッドフォン祭 2023」では、xMEMSの日本支社が出展する予定があるようだが、国内でもそうしたデモの機会があることを期待したい。
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