佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第97回
IACの「Chiline TR-X」
MEMSスピーカーを採用した完全ワイヤレスイヤホンが2022年3月に登場
2021年10月18日 13時00分更新
前回、Faunaオーディオグラスの発音体として紹介した新時代のドライバー「MEMSスピーカー」だが、完全ワイヤレスイヤホンの次世代ドライバーとしての可能性も模索されている。
MEMSスピーカーは従来のダイナミック型ドライバー、バランスド・アーマチュア型ドライバーなどに次ぐ新しいドライバーとして捉えることができる。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、さまざまな機能をシリコンチップに集積したものだが、SoC(System on Chip)のようにデジタル回路だけではなく、物理的に動く部分を集積している点が特徴だ。MEMSスピーカーは圧電素子によって空気振動を起こす「シリコンドライバー」とも言える。
Faunaオーディオグラスは中高域にMEMSスピーカーが使われ、低域は従来のダイナミック型ドライバーが採用する「ハイブリッド形式」で設計されていた。これは低域の出にくさをカバーするためのようだ。
さて、超小型で省電力なMEMEスピーカーの特徴を生かせる分野は完全ワイヤレスイヤホンだ。ハウジングの容積に制限のある完全ワイヤレスイヤホンには福音となるだろう。
FaunaのオーディオグラスにMEMSスピーカーを提供しているUSound社もこの点に着目して完全ワイヤレスイヤホンの応用例を示している。下図のように従来型ドライバーと比べた場合には比較にならないほど小型化できる。USound社は完全ワイヤレスイヤホンの製品化へ向けて提携先などを探しているようだ。
一方で先週、世界初をうたう完全ワイヤレスイヤホンの製品化が発表された。スタートアップ企業のxMEMS社が台湾TSMCと共同で「Montara」というMEMSスピーカーを開発し、それがInventec Appliances Corp(IAC)社の「Chiline TR-X」という完全ワイヤレスイヤホンで採用されるのだ。Chiline TR-Xは2022年3月の発売を予定している。
Montaraは振動部も駆動回路もシリコンで出来ている。能率も高く再生周波数帯域は20Hzから20kHzということだ。チップ自体がIP58相当の防水仕様であるため、汗などにも強い。また、製造公差(精度などのバラツキ)が従来型ドライバーよりも大幅に小さいので、ドライバーのマッチングを取る際にも有利だ。左右の位相が揃った再生ができれば、立体感の向上といったメリットとして現れるのではないだろうか。低電力特性は再生可能時間を引き上げるだろう。こうしたMEMSスピーカーの特徴は、完全ワイヤレスイヤホンの設計を大きく変えるだろうし、完全ワイヤレスイヤホンを新たなステージに到達させるだろうと期待できる。
この連載の記事
-
第275回
AV
ソリッドなステンレス筐体とK2HDサウンド、iFi audioの「Go bar 剣聖」 -
第274回
AV
いよいよSpotifyもロスレス配信か、Redditに解析情報 -
第273回
AV
ソニーが米国で展開し始めた、重低音新シリーズ「ULT POWER SOUND」とは? -
第272回
AV
自然な文章でプレイスリスト作成をうながせる、Spotifyの新機能 -
第271回
AV
音楽生成AIの進化速度に舌をまく、無料でも試せるStable Audio 2.0を使う -
第270回
AV
耳をふさがないイヤホンで高音質を追究したい人に、Cleer Audioがいいぞ!! -
第269回
AV
期待が高まる「Fokus Triumph」の音、NobleのMEMSスピーカー搭載イヤホン第3弾 -
第268回
AV
XPAN技術やWi-Fi 7、UWBなどをAIで統合した、クアルコムのFastConnect 7900 -
第267回
AV
K2HDに対応、個性的な機能備えたiFi audioのスティック型USB DAC「GO bar剣聖」 -
第266回
AV
日本とは異なる趣を持つ、ドイツのヘッドホンイベント“The World of Headphones” -
第265回
AV
Apple MusicとSpotifyの争いが飛び火? 欧州委員会がアップルに制裁金 - この連載の一覧へ