宮崎県都城でブランド豚「観音池ポーク」を生産する萩原養豚生産組合は、豚が食べる飼料の消費量を把握すべく、SORACOMをベースにしたIoTを導入した。その目的は商品力と売上に直結する豚の健康を知ること。導入を手がけたシステムフォレストとともに、養豚IoTの奥深い世界を紹介しよう。
飼料残量可視化サービスの導入で効率的な豚の育成を実現
畜産王国と呼ばれる宮崎県の荻原養豚生産組合(以下、萩原養豚)が手がける「観音池ポーク」は、都城の地名を冠したブランドポークだ。経済連のベンチマークでも優秀な成績を収め、昨年は農林水産大臣賞を受賞している。
豚の成育は飼料、水、環境の3つで決まると言われるが、萩原養豚はそのいずれにもこだわり抜き、臭みがなく、脂身の甘みを感じやすい豚肉を作り上げている。理事の馬場康輔氏は、「お客さまに聞くと『甘いお肉』『安い肉のような臭みがない』と言われます」と語る。
飼料には特にこだわっており、腸内環境を改善したり、肉の臭みを消す「ネッカリッチ」と呼ばれる炭や木酢酸を配合。肉の甘みを増すために「エコフィード」、近隣の竹をサイロなどで発酵させた「笹サイレージ」も加えているという。前述した農林水産大臣賞の受賞は、こうした環境負荷の低い飼料を使っていることも高い評価の理由になっている。
こうした手間のかかるブランドポークを効率的に生産するために用いられているのが、システムフォレストの飼料残量可視化サービス 「SiloMANAGER」になる。SiloMANAGERでは、SORACOM経由で収集したデータをMotionBoard(ウイングアーク1st)に集めることで、サイロの中にある飼料の量を可視化している。今まで完全に「勘と経験」だった飼料の補充タイミングが正確に把握できるようになっただけでなく、商品力と売上に直結する豚の健康管理まで行なえるようになったという。
養豚事業者にとって豚の健康管理はなぜ重要なのか?
豚の健康がなぜ商品力と売上に直結するのか? 今回のIoT導入の前提として、まずは養豚業者の豚の育成フローとビジネスモデル、そして健康管理がなぜ重要かを説明していきたい。
子豚が産まれ、成長し、食肉となるまでの期間(日齢)は、おおむね180日程度と言われている。この期間、萩原養豚は「繁殖農場」と「肥育農場」の2サイトで豚を飼育している。人工授精で生まれた豚は、養豚場の繁殖農場で3週間を母豚とともに過ごし、その後に同農場内の子豚舎に移動。その後、生まれて72日、重さで30kgを超えると、今度は肥育農場に移り、飼育を経て、一定の重さになると出荷される。出荷の目安は112~120kgだが、ここに至るまでの生育期間が短ければ短いほど、生産効率は高いことになる。
ここまでのサイクルは前述した180日が一般的だが、荻原養豚の場合は、出荷までの平均日齢が165日なので、生産効率はかなり高い。とはいえ、最短130日で出荷になる場合もあるし、170日の豚もいる。おしなべて短くするにはどうするかを考える必要があった。
もう1つ養豚業者が用いる指標が「飼料要求率」だ。これは1kg太るために、どれくらいの飼料が必要かといういわゆるKPIで、萩原養豚では2.7。つまり、1kgの食肉を作るために、2.7kgの飼料が必要になる。これをいかに下げるかが、養豚事業者の事業命題となる。「うちの場合、要求率が2.7から2.6に下がることで、900万円程度の利益を見込める」と馬場氏は語る。
このように養豚ビジネスでは、生産期間を短く、要求率を低く抑えることが成功の方程式と言える。そして、両者で共通して重要になるのが、豚の健康管理だ。豚は非常にデリケートな生き物で、病気やストレスが生育に大きな影響を与える。いくらいい飼料や水を用意しても、健康を損なっている豚は食べる量が少ないため、適切な環境設定が必要になる。萩原養豚の山元容幸氏は、「夜が寒くて、昼が暑いと、人間でも風邪を引きますよね。そうならないようにするため、カーテンやファンで管理し、温度差をいかに少なくするかが大事です」と語る。
一方で、健康な豚は飼料や水をきちんと消費するので、出荷可能な体重まで早く到達する。環境設定が正しければ、豚は健康さをキープできるし、食欲も旺盛だ。消費カロリー以上に飼料を摂取すれば体重が確実に増えるため、規定の日齢より短い日齢で出荷することができる。養豚農家は、食べた飼料を把握することで、豚の体調やストレスの有無を知ることができる。いわば飼料の量で豚とコミュニケーションをとっているわけだ。
そのため、「3時間以上空腹にしない」というのが萩原養豚でのルール。しかし、豚舎の外のサイロにある飼料の量をリアルタイムに把握するのは困難だ。また、豚舎には数多くの豚がいるため、どの個体が不健康なのか、食が細いのか調べるのは骨が折れる。「以前は、サイロを叩いて飼料の残量を調べ、減った量を日齢と頭数で割ってみて、飼料の量をあとから把握するという感じでした」と萩原養豚の坂本勇太氏は語る。
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