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第10回 and SORACOM

「飼料の残量がわかるんだったら、食べている量もわかるよね」

宮崎のブランド豚「観音池ポーク」を支えるIoT すべては豚の健康のために

大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ソラコム

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 1つの豚舎は複数のブロックに分割されており、全体では330~360頭ほどの豚が飼育されている。ブロックごとに1つの自動給餌器があるため、飼料の減り具合を見ることで、どのブロックに不健康な豚がいるが、おおまかに把握できる。坂元氏は、「今までは、完全に経験と勘でしたが、可視化したデータを見て、安心して豚舎に入るのと、食べない豚がいるはずと疑ってかかると、見え方が違います。風邪をひいている豚は、咳ですぐわかるし、床の糞や吐瀉物を見れば下痢も把握できます」と語る。山元氏も、「見た目だけで豚の健康や調子がわかって、治療や環境の変更などの次のアクションに移れるのが一番いいですね」と語る。

1ブロックごとに1つ配置されている自動給餌器

豚舎に設置されたリピーターでセンサーデータをゲートウェイに

養豚場の横にある事務所のゲートウェイからクラウドにデータを送信

スマホはもちろん、事務所のPCからもさまざまな可視化データを確認できる

3年前、同じシステムの見積もりは5000万円だった

 IoTの導入は、養豚場での働き方も大きく変えた。以前、自営業者だった馬場氏には休みがまったくなかったが、会社組織の設立後は、従業員がきちんと休めるように、ひたすら業務の効率化を進めてきた。「設立して4年目ですけど、今は16時半に仕事が終わります。うちの働き方は炊きたての米よりもホワイト。そろそろ透明になりそうですよ」と馬場氏は笑う。そんな馬場さんは仕事が終わった育ち盛りのお子さんたちと食卓を囲む。もちろん夕食は健康でおいしい豚肉だ。

 昔、製造業での品質管理活動に携わっていた西村氏にとってみると、萩原養豚の取り組みは、製造業での取り組みに近いものを感じるという。「品質を平準化し、期間内に投入した資材分の100%を欠品なく出荷できたらベストですよね。こうした工業製品の歩留まり改善や品質向上の取り組みは、実は豚もいっしょ。出荷日齢の180日がさらに短くできたら、飼料の節約というだけでもかなりのインパクトが出てきます」と語る。

 飼料残量管理が便利でも、あまりに高価だと農家にとってはほど遠くなってしまう。「3年前に同じ仕組みを他社に見積もりお願いしたら、5000万円と言われました」と馬場氏は笑う。その点、今回の事例はコスト面でも妥当だったようだ。「イノセントのセンサーは、精度面では高価な製品におよばないが、顧客のやりたいことを考えれば、コスト的に妥当だったと思います」と西村氏は振り返る。

 こうしたコストの最適化の一端を担っているのがSORACOMだ。松永氏は、「今までIoT向けの通信回線も、1ヶ月5000円だったのが300~500円でスタートできる。これこそテクノロジーの民主化。自分たちもこういう方向性で進まなければならないと思いました」と語る。西村氏も、「IoTの通信にもいろいろな選択肢がありますが、お客さまの要件を聞いていくと、SORACOM以外に選択肢がない。SORACOMがないと、IoTビジネスがそもそも成り立たないんです」と力説する。

 その大きな理由はコスト。「一次産業系のお客さまからは、『Wi-Fiってうちにはないんだよね』と必ず言われます。でも、農場にWi-Fiを敷設すると、けっこうなコストがかかるので、SORACOMを提案します」と西村氏。もちろん「うちはケータイは入らない」という農家もあるが、3キャリアで試すとだいたいどこかは入るという。一次産業系IoTを多く手がける同社の切り札がSORACOMだ。

養豚IoTのベストプラクティスとは? 垣根を越えた連携が未来を作る

 現在、システムフォレストと萩原養豚は定例会議をなくし、「IoT研究会」という形で養豚のIoTを研究している。豚の健康を保つにはどうするかデータに基づいて研究し、ベストプラクティスを生み出すのが目的だ。「こういう話ができるお客さまって初めてです。わたしたちにとっても、萩原養豚にとっても、飼料の残量管理はすでに当たり前で、その先の価値をITでどうやって提供できるのかの方が重要です。その意味で、わたしたちもお客さまに育ててもらっています」と西村氏は語る。

 松永氏も、「打ち合わせもありがちな数値の確認じゃないので、馬場さん、坂本さん、山元さんといろいろなアイデアを話しているだけで面白いんです(笑)。将来を見据えて、なにが必要なのかを前向きに議論してもらえている」とうれしそうだ。

 次のテーマはやはりデータの活用だ。馬場氏は、「飼料の残量を飼料会社からも見られるようになれば、先々の飼料の発注の予測が立てられる。飼料会社も人手不足なので、うれしいだろうし、飼料代をディスカウントしてもらう交渉材料にもなりますよね」とアイデアを打ち明ける。

 山元氏は次のステップとして、自動化の夢を見る。「うちは16時半に仕事に終わるのですが、裏を返せば16時半から翌日の8時までは誰も豚をケアしていません。だから、その間の環境をシステムで自動的にコントロールできるようにしたい。人と機械で分担し、24時間管理できるようになったら、どうなるのか楽しみです」と語る。作業の時間を削減できれば、人間はもっとやりたいことに専念できる。萩原養豚の場合は、観音池ポークを多くの人に食べてもらえるよう営業したり、認知を図ることだ。

 まさにIoT(Internet of 豚)とも言えるデータを活用した安全でおいしい豚作り。萩原養豚の観音池ポークが、養豚の未来をどのように変えていくのか? 興味は尽きない。

(提供:ソラコム)

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