「ミッションクリティカルのクラウド化が加速」日本オラクル三澤社長が今後のクラウド事業戦略を説明
NRIが“自社データセンター内のOracle Cloud”に金融機関向けサービスを移行
2021年11月08日 07時00分更新
日本オラクルは2021年11月5日、野村総合研究所(NRI)が自社データセンター内に導入した「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」上に、同社が提供する投資信託の窓販業務ソリューション「BESTWAY」を移行し、2021年7月より稼働開始したことを発表した。BESTWAYは金融機関における投資信託販売をサポートする共同利用型システムで、銀行や生損保会社、投信会社など110社以上が採用するミッションクリティカルな金融SaaS。
同日、Oracle Cloudの事業動向説明会に出席した日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、レガシーシステムのモダナイズとクラウド移行の促進を図る国内戦略を紹介しながらこのNRI事例に触れた。ミッションクリティカルかつ大規模な金融機関向けサービスがOracle Cloud上で稼働開始したことは「非常にエポックメイキングなサービスイン」であり、「今後、ミッションクリティカルシステムのクラウド化が加速していくことになると思う」と発言している。
自社データセンター+フルマネージドIaaS/PaaSのメリット生かす
Oracle Dedicated Region Cloud@Customerは、顧客データセンター内に設置され、オラクルがフルマネージドで「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の全サービスを提供する“顧客専有リージョン”。2020年7月の提供開始時には、NRIが世界で初めて同ソリューションを採用したことも発表されていた。
今回NRIでは、OCIが提供する「Oracle Exadata Cloud Service」などを活用して、BESTWAYのクラウド移行を実施した。この移行においては、従来NRIがオンプレミスで運用していた「Oracle Exadata Database Machine」からExadata Cloud Serviceへのワークロード移行が必要になったが、「Oracle Database」関連のアーキテクチャ変更を行うことなく移行することができ、プロジェクト期間の短縮を可能にしたという。
またBESTWAYをOCIに移行したことで、従来環境よりも優れたパフォーマンス、高可用性や暗号化といったセキュリティレベルの維持、ビジネスニーズに応じたシームレスな拡張なども実現する。加えてNRIのデータセンター内で運用されることから、これまでNRIがSOC2やFISCなどを基準として金融業界向けに整備してきた高度な統制の下での管理を維持し、アプリケーションのレイテンシに関する厳しい要件も満たすとしている。
さらにこれまで自社プライベートクラウドに費やしてきた運用保守などのリソースを、DXなどの戦略領域に投入可能となることから、NRIではローコード開発によるアプリケーション開発手法の研究、コンテナ技術を活用したアプリケーション基盤など新技術の導入を積極的に行い、提供する金融サービスのさらなるビジネス価値向上を目指すとしている。
Oracle Cloudによるリフト&モダナイズ、「5年以内には5割を超える」
同日の記者説明会において三澤氏が語ったのは、まさにこのNRI事例が例示するようなレガシーシステムのモダナイズ過程を支援していく、日本オラクルのクラウド戦略だった。
「ミッションクリティカルシステムのクラウド化事例は、そうしたシステムを数多く支えてきたわれわれから見ても、まだまだ少ない」と三澤氏は語る。企業や政府機関の事業の根幹を支えるレガシーシステムは、ヒト/モノ/カネの膨大なデータを「集中処理」する仕組みをとっており、分散型のクラウドネイティブなアーキテクチャへと全面的に更新することは現実的ではない。そのため、従来のアーキテクチャのままクラウドへ移行=「リフト」するチャレンジが行われているが、「一般的な汎用クラウドでは性能が出ない、可用性が落ちる、アプリテストにとてつもないコストがかかる」(三澤氏)といった課題が明らかになったと語る。
「やはりミッションクリティカルシステムのモダナイズ、およびクラウド化というのは非常に難しいのではないか、というのがこのところの論調だと思う」
こうした課題に対し、オラクルが提案するモダナイズのロードマップもまた、他のパブリッククラウドベンダーと同様に「リフト&モダナイズ」である。ただし、OCIはクラウドの後発組であるメリットを生かした“第2世代”のアーキテクチャで構成されており、高速なネットワークとコンピューティング、超高速なストレージ、セキュリティの自動化といった特徴を持つ。そのため、前述したような他社クラウドの課題をクリアし、「ミッションクリティカルなシステムをそのままリフトし、モダナイズしていくことができる」と三澤氏は強調する。
レガシーモダナイゼーション、ミッションクリティカルシステムのクラウド移行に取り組む顧客をテクノロジー、コンサルティングの両面から支援するサービスも、パートナーと共に展開していく計画だという(詳細は近日発表予定)。ここでは単純なシステムのクラウド移行にとどまらない「データドリブンなビジネスへの変革=DX」を志向し、企業のレガシーシステムに蓄積されたデータ資産の価値を解放すること、ビジネス環境の変化に追随する即応力を獲得することを目指すとしている。
「『どこからモダナイズに着手すればよいかわからない』という顧客も多くいる。そうした場合は顧客のインベントリを調査させていただき、『このエリアからクラウド化していくのが良いのでは』と提案する。あるいはすでにクラウド化したいエリアが決まっている顧客には、われわれがクイックにリフトをしてみせる。また顧客社内に蓄積されたデータをひもとき、関連づけてDWHのようなものを構築していくなど、データ活用およびクラウド化のテクノロジーサービス、コンサルティングサービスの両方を提供していく」
なお、Oracle DBを使ったミッションクリティカルシステムのクラウド化動向について、三澤氏は「5年以内には5割を超えると考えている」と述べた。
「ハードウェアのEOSL(サポート終了)を迎えたタイミングで、ほぼすべての顧客が(オンプレミスではなく)クラウドでの更改を考えている。したがってハードウェアのEOSLがモダナイズのチャンスになる。これまではクラウド移行してもコストが下がらない、ベネフィットがあまりないという問題があったが、ベネフィットをもたらせるクラウドがやっと提供できるようになった。さらにはNRIのようなミッションクリティカルサービスのモダナイズも可能だと、事例として示せるようになったので、必ずその動きは来ると実感している」