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「オラクルがクラウドで差別化するのはまずSaaS」、事業戦略説明会で強みと課題を語る

日本オラクル三澤新社長「ビジネスとIT、社会のデータドリブンな変革を」

2020年12月15日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本オラクルは2020年12月14日、同月1日付で新社長に就任した三澤智光氏による事業戦略説明会を開催した。

 日本IBMのクラウド事業責任者を経ておよそ5年ぶりに日本オラクルに戻った三澤氏は、その間の「Oracle Cloud Applications」(SaaS)や「Oracle Cloud Infrastructure」の進化に「驚いた」と語る。新たに掲げた“Be a Trusted Technology Advisor”という日本オラクルのビジョンを紹介したうえで3つの事業戦略について説明、今後の課題についても語った。

日本オラクル 執行役 社長の三澤 智光氏

日本オラクルの戦略として、顧客企業のビジネスとITの変革、そして社会基盤の変革を支援していくことを挙げた

オラクル自身のビジネス変革「Oracle@Oracle」のノウハウと成果を顧客にも広める

 三澤氏はまず、就任後に新たに設定した日本オラクルのビジョンを紹介した。“Be a Trusted Technology Advisor”という言葉には、テクノロジーベンダーとして顧客企業のクラウドジャーニーをナビゲートしていく義務があり、それと同時に顧客と共にDXを実現していきたい、という想いがこめられているという。

日本オラクルの新たなビジョンとして「Be a Trusted Technology Advisor」という言葉を掲げる

 日本オラクルの事業戦略としては「自社実績をふまえた顧客DX支援」「ミッションクリティカルなハイブリッドIT環境の提供」「社会インフラ領域におけるDX推進」の3つを挙げた。これはそれぞれ、顧客企業における「ビジネス」と「IT」の変革、そして「社会」そのものの変革を支援していくという意味だ。

 まずビジネス変革、つまりDXについては、とくにオラクル自身がグローバルで取り組むデータドリブンなビジネス変革「Oracle@Oracle」のノウハウと実績を、日本の顧客企業に広めていく姿勢だと説明した。

「Oracle@Orcle」の取り組みを通じて、オラクル自身がビジネスモデルの大がかりな変革に取り組んできた

 Oracle@Oracleではビジネス環境の変化へ即応できる企業を目指し、「オンプレミスからクラウドへの移行」「さまざまな業務データのシングルデータモデル化」「AI/ML(機械学習)活用による業務自動化」という3つにフォーカスして変革を進めているという。

 「オラクルは8年ほど前から、ソフトウェアとハードウェア主体のビジネスからサブスクリプションビジネスへ、ビジネスのモデルチェンジを行ってきた。そうしたビジネス変化にすばやく追従することができたのは、オラクルが“クラウドネイティブなシングルデータモデル”を実践してきたからにほかならない」(三澤氏)

 Oracle@Oracleによるビジネス変革の成果は、すでに幅広い業務で出ている。たとえばグローバルでは、受注業務の70%を完全自動化できた。日本オラクルにおいても、1年前は8%だった契約書の電子化率が92%まで高まり、3カ月間で600件あった契約書への社判捺印業務は1件となった。会計や人事の業務でもそれぞれ大きな成果が生まれているという。

 こうした日本オラクルにおけるデジタル化をさらに加速させるとともに、そこで経験したチャレンジやポイント、成果といったものを社外発信していく役職として、同社 取締役執行役 副社長 最高執行責任者(COO)の湊宏司氏を「デジタル改革担当役員」に任命したことも紹介した。

オラクル自身のビジネス変革「Oracle@Oracle」のフォーカス領域と実績。コロナ禍における全社在宅勤務状況のなかで、四半期決算を昨年度より3日間短縮することもできたという

Oracle Cloudの進化に「驚き」、フルスイートのエンタープライズSaaSに自信見せる

 事業戦略の2つめであるIT変革の支援については、Oracle Cloudサービスの特徴をあらためて紹介した。Oracle Cloudは、ビジネスアプリケーション(SaaS)群を提供するOracle Cloud Applicationsと、クラウドインフラを提供するOracle Cloud Infrastructureの各サービス群で構成されている。

 まずCloud Applications、SaaSのビジネスについて、三澤氏は「このエリアはすごく行ける(商機がある)と思っている。われわれは結構良いビジネスを展開しているのでは」と自信を覗かせる。CRMがクラウド化してきたように、今後はバックオフィス業務がクラウド化していく流れも必然であり、その中でエンタープライズグレードのフルスイートを持つのはオラクルだけだと説明する。

 「5年ぶりの日本オラクル復帰でまず驚いたのは、SaaSの進化だ。米国ではSaaSビジネスが絶好調で、一番と言うと語弊があるかもしれないが、最大規模のSaaSプロバイダーになっていることは間違いない。僕がいったん退職した(2016年)ころは、まだそんなレベルではなかったが、現在は完成度も上がり、大企業でも使えるフルスイートのSaaSが提供できている」(三澤氏)

 Oracle Cloud Applicationsの大きな特徴については、Oracle@Oracleの説明にも出てきた「シングルデータモデル」の言葉を強調した。ERP Cloud、CX Cloud、HCM CloudといったオラクルのSaaSは、単一/共通のデータモデルを利用するよう設計されており、それによって効率的な業務プロセスや高度なAI/MLによる自動化が可能になっていると説明する。

 「現在の典型的な企業ITは、それぞれの業務システムがバラバラで柔軟性に乏しく、データも分散していて非効率的な状態にあるのではないか。一方でOracle Cloud Applicationsは、ERP/HCM/CXをクラウドネイティブな形で新たに開発した次世代のSaaSだ。シングルデータモデルによるプロセス効率化と全体最適化されたAIによる自動化、オープンテクノロジーに基づく拡張で非効率なアドオン開発の極小化、そしてクラウドインフラの利用による大幅なコスト削減、という3つの特徴がある」(三澤氏)

DXに向けてデータやAIの活用を図るうえで、現在の分散化したシステム/データはその阻害要因となると指摘。オラクルのSaaSにはシングルデータモデルのフルスイートという強みがあると説明した

 またOracle Cloud Infrastructure(OCI)については、「第1世代クラウドで実装できなかったものを、第2世代クラウドとして新たに実装しなおした」として、大きく4つの特徴を紹介した。スケーラビリティやレイテンシの課題を解消するリーフ&スパイン型ネットワーク設計、オフボックスネットワーク仮想化によるテナント分離やコンパートメントで実現するミッションクリティカルワークロードへの対応、高度な自動化とデフォルト暗号化などによりヒューマンエラーを防ぐセキュリティの提供、そしてOracle Cloudを顧客データセンターに展開できる「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」による“真の”ハイブリッドクラウド環境、という4つだ。

 「この4つの特徴も(日本オラクルに復帰して)驚いたポイント。OCIも、5年間ですごく進化したと感心した」(三澤氏)。さらに理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」のバックエンドとしてOCIが採用された事例を紹介し、今後はこうした事例をさらに増やしていきたいと語る。

“第2世代クラウド”であるOCIの特徴をいくつか示した

 上述したビジネス、ITの変革に加えて掲げるのが、「社会そのものの変革」に対する貢献だ。三澤氏は、オラクルの製品は非常に多くの社会インフラにおいてバックエンドを支える存在であり、そうしたミッションクリティカルなシステムを「守り続ける」と同時に、「進化させていく」責務もあると強調する。「社会基盤を支えるベンダーとして、社会に貢献していく」(三澤氏)。

企業がクラウド移行に失敗するのは「オラクルがしっかりしていないから」

 クラウド市場(SaaS、IaaS)における競合他社との競争について、三澤氏は「オラクルがクラウドで差別化するのはまずSaaS。本当の大企業利用に耐えうるフルスイートのSaaSを、クラウドネイティブで提供できるのはわれわれしかない」と強調した。

 「ラリー・エリソン(米オラクル会長兼CTO)が何度も言っているが、オラクルは、ビジネスアプリケーションレイヤーとそれを支えるインフラレイヤー、この2つのレイヤーを完璧に持っているたぐいまれなるベンダーだと考えている」(三澤氏)

 ただし、それと同時にやるべきこともまだまだ山積していると三澤氏は語る。たとえば三澤氏がこれまで目にしてきたプロジェクトの中には、オンプレミスで稼働してきたOracleのシステムをAWSなどへ移行したものの、高度なデータの一貫性や信頼性を求めるシステムの移行は「やはり無理だった」とオンプレミスに戻すケースもあった。

 「なぜそんなことが起きるかというと、それは僕たち(オラクル)がしっかりしていないからだと思う。『この仕組みなら、このアプリケーションならOracle Cloudのほうがいいんじゃないですか』と、われわれが明確に示していく必要がある」「社会インフラを進化させていくときに、顧客に過ちを犯させてしまうのは、われわれのFault(失敗)だと思う」(三澤氏)

 また、新たなビジョンとして“Trusted Technology Advisor”を掲げるものの、「顧客やパートナーから本当にTrust(信頼)いただけているのか」という点もしっかりと見定め、ひとつずつ改善していきたいと語った。

 「多くの顧客やパートナーからすると『オラクルは物足りない』と感じる点もたくさんあると思う。そこは一歩一歩改善していきたい。その逆に、多くの顧客やパートナーから『色々あるけど信用できるよね』と言ってもらえるようになれば、われわれは競争力の強い製品やサービスを持っているので、必ず成功できると考えている」(三澤氏)

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