「BS12スペシャル『村本大輔はなぜテレビから消えたのか?』」(BS12 トゥエルビ)が、「第11回 衛星放送協会 オリジナル番組アワード」のドキュメンタリー部門で最優秀賞を受賞した。
同番組は、ウーマンラッシュアワー・村本大輔への密着取材を通して、テレビというメディアを見詰め直す意欲作。2013年に「THE MANZAI 2013」で優勝後、テレビの出演数が急増した村本だが、原発や沖縄の基地問題などを漫才のネタにし始めた頃からテレビ出演が激減し、2020年のテレビ出演はたった1本。テレビで見なくなった彼は、ジャーナリストさながら福島や沖縄などに足を運び、被災地の人々の生の声を聞いて回り、それらを“笑い”に変え続けていた。村本の活動を追いながら、テレビというマスメディアの存在意義と課題を浮き彫りにし、放送業界のタブーに切り込んでいる。9月11日(土)の深夜に同局で再放送される(無料放送)。
今回、同番組の佐々岡沙樹プロデューサーにインタビューを行ない、受賞した喜びや番組制作のきっかけ、番組に込めた思いなどを語ってもらった。
――最優秀賞受賞おめでとうございます。受賞を聞いた時の感想は?
「この番組はさまざまなご批判を覚悟して制作させてもらいましたので、まず純粋によかったなと思いました。また、うちが関わる前から他局の番組として制作会社のドキュメンタリージャパンさんが取材をされていて、とても思い入れのある作品でいらっしゃったので、こういった賞をいただけたことは本当によかったなと思いました」
――業界にとってセンシティブなテーマに向き合った作品が評価されたという点においてはどう感じられましたか?
「こちらの企画趣旨がきちんと審査員の方にも伝わったのかなと思って、そこは本当にうれしかったです。この番組は元々、村本さんがアメリカのスタンダップコメディに挑戦するという村本さんのドキュメンタリーとして制作されていたもので、それが急きょ放送できなくなったということで、何とか放送できないかというお話をいただいたのが最初でした。ただ、『BS12 スペシャル』が、芸能人の方を取り上げるドキュメンタリーの枠として立ち上げたものではないこと、社会問題を中心に制作をしてきたということから、そのままの作品だと弊社の枠にはまらないからちょっとだけ考える時間をくださいという返事をさせていただきました。
出しどころがない中でも取材を続けてらっしゃったので、なんとかして放送できる術はないものかと考えている中、いろいろ企画を検討する上で村本さんの独演会に足を運んだんです。その時に、世間で言われている村本さんのイメージと独演会で話されている内容にすごく差を感じまして…。被災地に自ら足を運んで取材したものを笑いにしてらっしゃったのですが、村本さんがされていることと今まで自分が取材をして報道系のドキュメンタリーとして放送するということは、表現の仕方は違えどやっていることは同じなのではないかと感じ、帰り道に『そもそも、なんで村本さんって放送できないのだろう?』という素朴な疑問が出てきたんです。
そういったことから、制作会社さんに『ドキュメンタリー番組が放送できなくなったことも含めて“なんでテレビで放送できないのか?”という視点で取材し直しませんか』とご相談をさせていただいたというのがきっかけです。ただ、先方から最初に返ってきた答えが『そんなことしてもいいんですか?』というものだったのですけど(笑)」
――社内の賛否などは?
「もしかしたら社内で一番迷惑を掛けるかもしれない広報宣伝部長に、最初に相談しました。『放送業界にいる者として、原点に立ち返って放送法の成り立ちも含めて一度考え直してみたいと思って、こういう企画をやりたいです。ただ、たくさん迷惑を掛けてしまうかもしれないのですが…』と相談すると、『いいと思います!』と快く背中を押してくださいました。その後で社内のいろいろな方に相談して、最終的に社内会議に掛けました。影響力がとても大きい地上波さんだと難しい企画だと思いますし、BSの端っこの局であるうちだからこそできるというのはあるのですが、放送業界で働いている人が感じている感覚について、番組を通して少しでも考えるきっかけになればという思いで制作しました。また、SNSの発達によってすごく社会が変わって、そういった部分でテレビ業界の方でなくても何かしら感じる部分があるのではないかなと」
――そういった思いは以前から感じてらっしゃったのでしょうか?
「前に制作もしながら考査も兼務していた時期がありまして、(行き過ぎた表現を)止める側にいましたので、どちらの気持ちも分かるというのはありました。政治的な発言や社会問題について発言する時に、放送法に付随して放送基準などさまざまなことを念頭に置いて慎重に判断しなくてはいけないのですが、そういった部分での難しさを普段から感じていたが故に、『村本さんの発言がそれほど問題視されるものではないんじゃないか』と(独演会に足を運んだときに)個人的に感じたというのが出発点にありました。
また、地上波さんの番組を拝見していますと『10年前はここまでぼかしを入れてなかったな』と思うことが多くて、デパートのような雑感(映像)にもぼかしが入れられていて『それだけクレームが入っていらっしゃるのだな』と。テレビ番組って“制作者だけではなく視聴者さんも含めて、みんなで作っているもの”という側面もありますので、視聴者の方々がどこまで許容してくださるのかというのは常に考えなければいけないところではあるのですが、SNSの発達によってクレームがより文字として分かりやすく入るようになってきたので、それをどこまで対応すべきなのかという“気にしなければいけないこと”は制作する上でも考査でも10年前よりは増えている気がします」
――番組の中で特に注目してほしいポイントは?
「放送業界に限らないのですが、(禁止の)マニュアルを作る時は禁止事項の範囲より大きい範囲で規制する必要があって、その(規制と禁止の)間にあるものはマニュアルに則って考えることをせずに切り捨ててしまう。効率化と均一化による弊害なのですが、『考えたり方法を模索すれば本来できることを、自分たちで狭めてきてしまった部分はあるのかな』と自分でもこの番組を制作しながらすごく反省するところもあったので、ものづくりをされている方は特に同じような思いをされているのではないかなと。
また、制作会社さんと方向性についてご相談させていただいた時に、『村本さんを通してテレビというメディアについて考える』と『コメディアンと社会風刺』という2つの視点で取材をしてほしいというお願いをしていました。日本では家庭で政治的な話や議論をあまりしないという文化であるからこそなのでしょうが、“芸人さんが社会風刺として政治的な発言をする”という欧米ではけっこう行なわれていることが、日本では『それはお笑いではない』と思われる風潮がある。でも、それは日本でやってきたお笑いではないかもしれないけど、海外では普通にやられていることなので、お笑いということに関しても『いろんな表現があっていいんじゃないか』という思いがあり、そんな固定概念を崩すきっかけになればいいなと思っています」
――この番組を拝見させていただき、放送業界に限らず視聴者をも巻き込んだ社会全体への問題提起にも感じられたのですが、この問題に対する自分なりの答えは?
「この番組を制作して行き着いたところは、すごく当たり前でシンプルなのですが『悩み続けるしかない』ということです。『制作者たる者、楽するな!』メディアにいるからこそ毎回悩みながら楽せずに作るしかないという自分自身への戒めが私の答えです」
――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
「放送前はネットなどでけっこう叩かれたりもしたのですが、放送後に好意的な意見をたくさんいただきまして、SNSの発達によって視聴者の方もいろいろ思う部分がおありになるんだなと強く感じました。番組をご覧いただいて『好き』『嫌い』というのはあると思いますが、何かしら考えるきっかけになればうれしいです」
【放送情報】
BS12スペシャル「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」
放送日時:9月12日4時~
チャンネル:BS12 トゥエルビ(無料放送)
※放送スケジュールは変更になる場合があります