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夢の技術! 自動運転の世界 第36回

自動運転の基礎 その30

AI運行バス+自動運転技術の可能性とは? 日産がドコモと実証実験を実施

2021年07月31日 12時00分更新

文● 鈴木ケンイチ 編集●ASCII

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 日産が、この秋にドコモと共同で行なう実証実験の内容を発表した。それは神奈川県横浜みなとみらいと中華街エリアにおいて、2021年9月21日~10月30日までの期間でオンデマンド配車サービスを実施するというもの。日産は自動運転車両を使う交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」、ドコモはオンデマンドの交通システム「AI運行バス」という、2社の持つ技術を組み合わせることで、未来の交通サービスの実用性を検証するという。

公共交通機関がない地域の救世主になるか!?
自動運転を使った交通サービス「Easy Ride」

 日産の「Easy Ride」は、日産とDeNAが共同開発する新しい交通サービスであり、すでに2017年より2度の実証実験をしてきた。内容は、専用アプリを使って自動運転レベル4(システムがすべての運転を行う)相当の車両を呼び出し、目的地まで運んでもらえるというもの。言ってしまえば、アプリで呼ぶことのできる自動運転タクシーだ。車両を日産、アプリをDeNAが担当している。

 ただし、今年のドコモとの実証実験では、車両は自動運転レベル4ではなく、運転手が必要なレベル2相当のものを使用する。リリースに掲載された写真を見ると、車両は多人数乗車できるミニバンとなるらしい。過去の実証実験の積み上げというよりは、「AI運行バス」という新たな技術とのマッチングや利用客の反応を見たいというのが、本来の狙いであろう。

専用アプリのイメージ

 では、日産として新たな相棒となる新技術「AI運行バス」とはどのようなものなのか。まず、この技術は、2019年4月からドコモより、商用提供が始まっている。ある程度、完成されている技術なのだ。

 その内容は、「AIが車両(バスやタクシー)の配車とルートを算出する」というもの。乗合バスやタクシーのベストな配車とルートをAIが瞬時に行なうというサービスだ。

 具体的には、ユーザーが乗りたいときに乗りたい場所で、アプリを使って車両をリクエストする。そうした複数のリクエストを、サーバー上に設置されたAIが受け、瞬時に最適の配車と走行ルートを算出、通信機能を使って車両(バスやタクシー)に伝える。車両のドライバーは、AIからの指示に従い、ユーザーをピックアップして、目的地まで指示されたルートで走る。これにより、ユーザーは好きな時間に好きな場所に行けるし、運行側は必要なときだけ車両を出せばよい。時間とルートの決まった路線バスよりも、効率的にユーザーを運ぶことができるのだ。

サービスエリアのイメージ

 さらに専用アプリを、運行する地域の店舗や施設と連携することで、地域の活性化にも貢献できる。2019年3月のサービス開始前に行なわれた実証実験では、のべ9万人もの輸送実績を誇る。ドコモが提示する利用料金は、1営業区域あたり初期費用50万円、月額18万円から。公共サービスとしては非常にハードルが低い金額設定ではないだろうか。

 では、こうした「AI運行バス」と自動運転技術を組み合わせると、どのようなことができるのか。まず、日本において期待できるのが、ドライバー不足に悩む地方の移動手段としての利用だ。人口が減少している地域では、定まった時間・定まったルートを走る路線バスの維持が難しくなっている。しかし、自動運転可能なミニバンと「AI運行バス」であれば、低コストで移動サービスの提供が可能となるのだ。

 また、海外で普及するライドシェア・サービスのひとつであるカープール(相乗り)にも「AI運行バス」は有効だ。ライドシェアは、一組の客を運ぶことが基本となるが、そのバリエーションとして、カープール(相乗り)のサービスも人気が高い。カープール(相乗り)は、目的地が同じ方向の複数の客を、ひとつのクルマで送迎するサービスのこと。料金を安くできるが、他の客の乗り降りがあるなど、目的地までの走行距離や時間は長くなる。日産とドコモの今回の発表では、海外展開には触れられていないが、もしも海外展開するのであれば「AI運行バス」のような配車・ルートを担当する技術は、当然必要になるだろう。

 ドライバーなしでも走れる自動運転車を作るということは、その利用法やサービスも考えなくてはならないもの。今回の実証実験は、そうした将来を見据えたものなのだ。

2020年のデモンストレーション ※筆者撮影

2020年のアプリデモンストレーション ※筆者撮影

 ちなみに、日産とドコモによる実証実験は、一般モニターを200名募集している。気になる方は、8月15日までに下記のウェブ経由で申し込みを。未来の交通システムを体験できるチャンスだ。

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 

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