ハードウエアの着想とポストボックスの連携と一貫性は優秀
日本語入力環境の今後に期待
最後に、筆者ももっとも期待したトラベラー本体の日本語入力環境だが、現時点ではとても快適とは言い難い悲しい対応状況だ。どうも中国語、日本語、韓国語の3ヵ国の言葉や入力仕様を詳細に理解しインプリメントできるエンジニアがいないような気がする。
操作方法は比較的洗練されており、左newキーと右Shiftキーの同時押しで日本語入力モードになり、かな漢字とカナ漢字の切り替えをTabキーでする。そして日本語かな漢字入力モード内での英数字入力と復帰の切り替えは左上のチルドキーのトグルだ。
初代フリーライト登場時のメッセージは、敢えてSNSやメール、ウェブサーフィンなど、人間の思考と文書作成の邪魔をする現代の様々なサービスを遮断する目的で一般的なネットには接続しない文書入力専用機という哲学でデビューした。
繰り返しになるが、とにかく脳内で溢れるように生まれてくる文書やアイデアをドラフト的な形で、もっとも早く文字化するということだけがコア・コンセプトの製品だった。そのコンセプトをどこでも持ち歩いて……という方向に加速したのが今回のトラベラーだ。
肝心の日本語入力さえ完成すれば、向かうところ敵なしの“クラウド型テキスト入力マシーン”だ!いつになるか分からないバージョンアップに期待して、しばらくはアクロバティックなキー操作でも原稿のドラフトを書き続けてみよう
なので、文書の体裁を整えることや清書はフリーライトの仕事ではなく、それらはポストボックスに自動アップロードされた間違いや修正すべき文字なども含む生々しいドラフト文書をパソコンなどで成形することで実現できれば良いというのがコンセプトだ。なので初代モデルであるフリーライトにはカーソルキーすらサポートされていなかった。昨今では珍しい極めて頑固な設計思想の製品だ。
しかしさすがにそれはやり過ぎだと思ったのか、2代目のトラベラーを望むバッカーの要望が強かったのか、今回のトラベラーにはnewキーと、W、A、S、Dの各キーの組み合わせでカーソルが上下左右に動作してくれるようになった。
残念ながら日本語入力モードでは極めて動作が不安定だ。けっきょくカーソル移動を行う時は英数字入力モードに切り替えて使用することになる。入力ミスや思い直しの多い筆者はその操作の行き来が面倒だ。やはり間違いも敢えて訂正せず、その場の訂正注釈の追加で済ませ、正誤の区別が判断できれば生のドラフト文書に意義と価値があるという基本哲学に立ち戻るべきなのかもしれない。
海外では熱狂的な支持者の多いトラベラーだが、全体の製品コンセプトはどれほど素晴らしくとも、日常的に漢字を使う日本を含むダブルバイト圏では、実際の文字入力の不完全さだけが目立ち、文書作成の専用機としてはとても万人には推奨できない状況だ。
しかしひとまず現状の不完全な日本語処理を忘れるなら、ハードウエアの着想とクラウドサービスであるポストボックスとの連携と一貫性は、極めて切れが良く、安定しておりネット時代のテキスト入力専用機が目指すべき製品とサービスのツボは間違いなく押さえている。
一方、日本国内に目を向けてみれば、日本人の得意な個体のハードウエアはこじんまりとまとまってはいるが、設計思想や哲学は整合性に欠け、ネットワークを介した情報共有時代のテキスト入力専用機としての視点で見直してみると余りにもピント外れの残念仕様だ。
ぜひともフリーライトの生みの親であるアストロハウスには、日本語処理に強い国内には大勢いるいずれかのパートナーとチームを組んで、ダブルバイト圏はもとより世界に通じる次世代最強のフリーライトを創ってほしいものだ。

今回の衝動買い
アイテム:Astrohaus「Freewrite Traveler」
・購入:Indiegogo
・価格:本体344ドル、専用ケース45ドル(いずれも2018年10月当時)
T教授
日本IBM社でThinkPadのブランド戦略や製品企画を担当。国立大芸術文化学部教授に転職するも1年で迷走。現在はパートタイマーで、熱中小学校 用務員。「他力創発」をエンジンとする「Thinking Power Project」の商品企画員であり、衝動買いの達人。

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