昨年来より「カーボンニュートラル」とか「脱炭素社会」という言葉を、頻繁に耳にするようになりました。クルマもその例外ではなく、電動化待ったなしといったところ。というのも、東京都は2030年以降、純ガソリン車の販売ができなくなるから。ですが、その流れよりもはるか前から、自動車の電動化に取り組む企業があります。その名は三菱自動車。今回はそんな同社の最新モデルであるエクリプス クロス(PHEVモデル)をチェックしてみたいと思います。
三菱自動車と電動化の歴史は50年以上にわたる
三菱自動車が電動化に取り組み始めたのは、1964年のこと。他社に先駆けて2009年に世界で初めて量産電気自動車である「i-MiEV」の製造・販売を開始しました。さらにパラレルハイブリッドに充電機能を持たせたPHEVシステムを開発。2013年に「アウトランダーPHEV」の販売を開始しました。自ら充電できるPHEVシステムは、V2H機器につなぐと一般家庭で最大10日分の電力を生み出すことができるのも注目点で、地震や台風などの災害時において、テレビ画面などで、アウトランダーPHEVが活躍する姿が紹介されたりしました。そんなPHEVの最新ユニットを搭載したのが、今回のエクリプス クロスPHEVとなります。
エクリプス クロスが誕生したのは、2018年のこと。当初は1.5リットル直列4気筒ターボのガソリンエンジン仕様のみでしたが、2019年に「デリカ D:5」にも採用されている直列4気筒2.2Lクリーンディーゼルターボエンジン搭載モデルが加わりました。となると、エクリプス クロスはPHEVとガソリン、そしてクリーンディーゼルの3本立てなのか、と思いきや、残念ながらクリーンディーゼルはPHEVと入れ替えで廃止に。一時期力を入れていたクリーンディーゼルエンジンは、ミニバンのデリカ D:5のみとなりました。
エクリプス クロス(PHEVモデル)が搭載するPHEVユニットは、直列4気筒2.4LMIVECエンジンの「4B12」型に、前後1基ずつの高出力モーター、13.8kWhの大容量駆動用バッテリーを組み合わせたもの。モーターの出力は前82PS(60kW)/後95PS(70kW)で、最大トルクは前137N・m/後195N・mというもの。
エンジンは通常、シリーズハイブリッド車のように発電用として稼働するのですが、負荷状況によっては駆動に参加しながら発電もするというパラレル走行モードに対応。バッテリーのみでの走行も可能で、その場合は最大約57km走行できるので、車庫に電源設備がある方なら、普段の買い物などはバッテリー駆動で走れば、ランニングコストを抑えながら車が使えます。ちなみにチャージモードを使ってエンジンのみで充電する場合、停止時で45分ほどアイドリングすれば8割程度まで充電できるそうです。
PHEV化でボディーそのものが変わった
エクリプス クロスが登場した時から、PHEVモデルの投入はアナウンスされていました。ですので、ガソリンエンジンを取り外して、PHEVのシステムを搭載しただけなのかと思いきや、そう簡単な話ではなかった様子。なんと、ボディーそのものを変えてきたではありませんか。
三菱自動車のアイコンであるダイナミックシールドデザインは深化され、フロントマスクは眼光鋭いデイタイムランニングライトが印象的で迫力十分。ヘッドライトは通常のSUVとは異なり、普通乗用車並みの下側に縦位置で配置。視覚的特徴のみならず、対向車や歩行者の眩惑防止に効果があるとのこと。
側面から見ると、前後オーバーハングが140mm伸長され、アウトランダーPHEVに近いボディーサイズへと大型化。これはバッテリーやモーターの搭載に依るものなのですが、従来のエクリプス クロスと比べて室内が広くなったというメリットも。
リアの意匠も変化。より力強さを全面に出したデザインとなっています。ちなみにバックドアはパワーゲート非対応。ボディーサイズがアウトランダーPHEVと近いとなると、気になるのはお値段の違い。アウトランダーPHEVは436万4800円からスタートするのに対して、エクリプス クロス(PHEVモデル)は384万8900円からと、少しだけリーズナブルな設定となっています。ちなみにエクリプス クロスのガソリン車と比べてると、PHEVモデルは130万円ほどアップしています。
室内はアウトランダーPHEVと比べてカジュアルな印象。ところどころに設けられたシルバーの加飾パーツが、視覚的に広がりを見せ、スポーティーな印象を与えてくれます。試乗車のシートはメーカーオプションの本革張り。写真はブラックですが、ほかにライトグレーも用意されているとのこと。基本はファブリックもしくは、スエード調素材と合皮の組み合わせになります。
室内でイイナと思ったのは夜間のイルミネーション。ボタン類がアンバーオレンジに統一されていること。オレンジが最も視認性が高いように思います。こういう使い勝手はとても大事。
お楽しみである走行モード切替は、シフトレバーの近傍に設けられています。エクリプス クロス(PHEVモデル)には、「ターマック」という走行モードが加えられました。これは三菱自動車の伝統四輪駆動制御技術「S-AWC」の制御であったり、アクセル応答性を変更するもの。その種類は、「グラベル」「スノー」「ノーマル」と合わせると、なんと4種類! そんなに多くてどうするの? と思うのですが、多く用意するのがラリーなどに参戦してきた三菱自動車らしいとも。
そんな三菱自動車の伝統は、操作ボタン類の多さにも表れています。センターコンソールに設けられたPHEVシステムのモード切替をはじめ、各所に機能切替のボタンがいっぱい。なんでもできる反面、クルマ好きでもマニュアルを精読しないとわからないかも。
ステアリングコラムからはパドルが取り付けられていました。近年パドルシフトはステアリングホイール側に取り付けられることが多いですが、三菱は一貫してコラム側に取り付けられています。変速機がないのになぜパドルがついているのかというと、これは回生ブレーキ量の調整用とのこと。エンジンブレーキ調整にパドルシフトを使うように、回生ブレーキを使うというわけです。回生量は6段階で、左パドルで回生量は強め(数字が大きくなる)、逆に右パドルで回生量は弱く(数字が小さく)なります。
操作系で気になったのは、シフトレバー。いわゆるジョイスティックタイプなのですが、レバーが大きいため、パーキングのボタンがちょっと押しづらい場所に。個人的にはレバーでPモードに入れるか、レバーにPボタンを設けた方が使い勝手がよいと思いました。
USB端子は2系統を用意されているのはうれしいところ。ドライバーと助手席の人が同時に充電できます。残念なのがスマホトレイで、iPhone 8サイズを横に入るとピッタリサイズなのですが、最近の大型スマホ(6型以上)を横に入れることができませんし、iPhone 8とてケーブルを着けたら入れることは不可能。結局、縦にして入れることになるのですが、今度は浮いてしまって納まりが悪い……。もっと大きく、そして奥行きを深くしてほしいですね。さらに申し上げるならQi充電に対応しているとなお良しです。
Apple CarPlayに対応するナビシステムも少し残念。まずフリック入力に対応していません。イマドキ女子はフリッカーなので、そちらの方が入力が早いばかりか、オッサンでも小さな文字を探すより数回タップした方が早いことが多いです。そして走行ルートと高速道路の色が近似しているので、走行ルートが分かりづらいということも。写真は上に首都高が通る246を走行中で、桜新町へ行く様子を写したのですが、ルートと高速道路の色が似ているため、誘導表示がないと、ちょっと分かりづらい。さらにナビを途中で中断する方法が結構階層の深いところにあり、できればルート表示画面の中に「ナビ中断」ボタンがほしいところ。
後席は足元が広く、文句の1つもない仕上がり。ホイールベースが伸長された恩恵は十分で、くつろぎの空間が待っています。
さらに荷室も十分すぎる容量を確保。そして100Vのコンセントも用意されています。これは走行中でも利用可能なので、たとえば後席で電気毛布を使うことだってできます。後席を倒せば車中泊も……と思ったのですが、大柄の人間にはちょっと辛そう。ちなみにアウトランダーPHEVはフルフラットになるので、車中泊に適しているとのこと。
エクリプス クロスPHEVのお値段は、今回試乗するグレードPの場合、447万7000円税込。CEV補助金が22万円なので427万7000円。ですが、本革シート20万9000円をはじめとするメーカーオプションが合計70万4000円、さらにディーラーオプション14万3242円が加わり、乗り出しは550万円前後となり、なかなかプレミアムなSUVです。
そんなエクリプス クロスPHEVですが、走行性能はどうでしょうか? 走ってみましょう。
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