●プロジェクトの行方
話を戻すと、Apple Carはハードウェア担当役員からAI担当役員の手に渡った自動運転自動車のプロジェクト。そして各自動車メーカーとの不思議な「交渉→交渉停止」の報道の連続は、何を意味しているのでしょうか。
実際にフィジカルな自動車を作るのか、あるいはもっと異なる取り組みとなるのかを考える際、筆者は後者ではないか、と傾いています。
それはApple TVの事例があるからです。
アップルがテレビを作るという噂は確かに流れていました。当時既にApple TVは製品化され、セットトップボックスを内蔵したテレビを実際に発売するのではないか、と著名投資家のカール・アイカーン氏が予測して見せたのです。
しかし2015年5月に、「Appleがテレビ開発計画を1年前に断念した」との報道が流れました。2020年を見てみると、セットトップボックスとしてのApple TVのシェアはわずか2%に過ぎず、iPhoneよりも単価が安くなければ競争できないテレビ市場への参入は、不正解だった可能性が限りなく高かったかも知れません。
その一方、アップルは2019年3月のイベントで登場させたApple TV+を開始する際、ソニー、サムスン、LG、Vizioといった主要スマートテレビ、そしてRoku、Amazon Fire TVといった人気のあるセットトップボックス向けに「Apple TVアプリ」を提供し、デバイスとしてのApple TVの使い勝手をソフトウェアとして実現させました。
自動運転自動車のプロジェクトも、ハードウェアと連携するソフトウェアとして提供するのではないかという選択肢があり、先の人事を見ると、その可能性が強まっているのではないかと分析することができます。
アップルはすでに自動車とiPhoneを連携させるCarPlayを実現し、NFCやUWBでiPhoneやApple Watchを自動車の鍵にするCarKeyにも取り組んでいます。これらの機能を統合しつつ、自動車に新たな機能をソフトウェア的に加えて体験を構築する、そんな方法論が期待されます。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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