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実機レビュー

AirPods Maxのメリットはアップルユーザーのためだけなのか?

2021年02月17日 13時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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AirPods Maxのガジェット的な側面

 ガジェット的な側面を見ていこう。

 主に外観・使用感・再生自動切り替え機能、アクティブ・ノイズキャンセリング機能、空間オーディオ機能、iOSのヘッドフォン自動調整機能である。

 外観はアップル製品らしく、材質感を上手に出したもので、イヤーカップはアルマイト処理が施された、アルミニウム合金製で美しい。所有欲も満たしてくれる質感だろう。ただ、専用のケースは、少しデザインに見合わないように感じられる。ニットメッシュ素材を使ったキャノピー(ヘッドバンド)は、メッシュ構造が頭にかかる重さを分散するので、頭部への圧力が軽減される。やや重いのが難点ではあるが、装着感は良いので苦にはならないと思う。ヘッドバンドも良いが、側圧が適度なので全体によく頭にフィットする感じがある。

イヤーカップは簡単に取り外せる。別の色と組み合わせるのもおしゃれかもしれない

 「まるで魔法のような」使用感もアップル製品の特徴と言えるだろう。例えば、頭から外すと自動的に再生が停止する。ただ実際には頭からの装着をセンス(知覚)するのではなく、イヤーカップが両耳から外れた場合に、再生停止となるようだ。

 いろいろ試してみたが、片耳だけイヤーカップをずらしても再生停止しない。これは片耳モニターなどを考慮していると思われる。当初は頭から外すと停止するという噂から、U1チップで位置情報を得ていると推測されていたが、実際はU1ではない方法で実現しているのだろう。

接続後に簡単な操作説明が出るのも親切(ヘッドホンの色が異なるのは、今回の取材とは別機会に取った画面のため)

 アップル製品との接続は極めて簡単で、ペアリングモードにする必要もBluetooth設定を開くこともなく、専用ケースから出すと、範囲内にあるiPhoneやiPadに「接続しますか」と案内が出る。ヘッドホンの電源を入れる必要すらなく、専用ケースに出し入れするのが使用の儀式といえる。接続するとボタンとデジタルクラウンの簡単な説明の画面がiPhoneなどの画面に表示される。

 音楽の再生と停止は、デジタルクラウンのボタンを押し込むことで可能だ。デジタルクラウンのつまみを回すと音量が上下できるので、ボタンによるアップダウンではないアナログ的な操作感覚が楽しめる。デジタルクラウンでの音量調整はデジタルとは思えないほどスムーズに滑らかに行える。

 iOSの自動切り替え機能も効果的に機能する。例えば、iPadで映画を見ていた時に、iPhoneで音楽の再生ボタンを押すと、自動的にiPhoneの音楽がAirPods Maxから聞こえる。またiPadで再生すると映画の音声が聞こえる。こうした動作で従来必要だったBluetoothの切り替えは必要がない。

 AirPods Maxは、アクティブ・ノイズキャンセリングも優秀だ。

 時節柄、不要の外出を避け、屋外でノイズキャンセリングのテストはしなかったが、ステイホームでも十分役に立つことがわかった。部屋にいても、パソコンのファン音などを低減してくれるので、音楽を聴いている時は、ノイズキャンセリングをオンにした方が良い。ノイズキャンセリングのオン/オフに対する音質の影響はほぼないように思える。

 外音取り込みにおいては、ヘッドホンを装着して外音取り込みをしているときと、ヘッドホンをはずした時の違和感が少ない。またパソコンのキーを叩いている音が、外音取り込みではヘッドホンをはずしている時よりも鮮明に聴こえるのに驚く。こうした集音性能の高さはおそらくリモートワークにも役立つだろう。

目玉の空間オーディオ機能の実力は?

 AirPods Maxの目玉の一つは、空間オーディオ機能だ。コンテンツと再生機器が空間オーディオに対応している必要があるが、コントロールセンターのボリューム操作バーを長押しすると空間オーディオのオン/オフができる。

コントロールセンターの音量バーを長押しすると、空間オーディオのオン/オフやノイズキャンセル/外音取り込みの切り替えができる

さらに下の階層でノイズキャンセリングや外音取り込みの切り替えができる

 いままでもヘッドトラッキングのできるヘッドホンシステムはあったのだが、空間オーディオのポイントはモバイルでの使用を前提として、頭(ヘッドホン)だけではなく、スマホやタブレットが動いても、さらに頭もタブレットも動いても音像を動かせるということだ。

 機能を試すために、「Apple TV+」アプリで配信中の「グレイハウンド」を再生しながら、頭の周りでiPhone 12 Proをぐるぐる回してみた。iPhoneを固定して、頭を左右に動かすと、常に画面方向から爆雷の轟音やクルーの怒鳴り声が聴こえる。また頭を固定して、スマホを左右に動かしてもその方向から音が聞こえる。上下はやや厳しいがそれなりに上や下に動く。

 また、この原稿をパソコンで書きながら、右手にスマホを置いて横目で見ると、その方向から音が聞こえてきた。ただ、反対側が無音になるわけではない。なんとなくそちらから聴こえるという感じではある。空間オーディオをオフにするとスマホの位置に関係なく前から聴こえるようになる。

 映画を見る時は大体の場合、画面をまっすぐ見るものではあるが、左右に目一杯振るような意地悪なテストではなく、現実的に映画を見ていてちょっと右を向いて紅茶を飲むと言ったことはあるだろう。そのために振り向いても、音の方向は変わらないのは、とても自然でリアルな感じがする。iPadの両脇に優れたデスクトップスピーカーを置いて映画を楽しんでいる人も多いと思うが、空間オーディオはヘッドホンを着けていても、それに似た体験ができるといった方がわかりやすいかもしれない。

 もしかしたら、電車の中で映画を見る際に電車の揺れとも同期できるように思うが、そこまでは試していない。

イヤーパッド部

 また、ちょっと面白いのは、音楽を聴いた時でも、空間オーディオのオン/オフで多少違いがあるということだ。マニアックに言うと、なんらかのデジタルフィルターを適用したような音質変化があるように思える。

 音楽再生中に空間オーディオをオンにすると、音がやや柔らかくなるとともに、より滑らかな音場となり聴きやすくなる。オフにした方が音像はシャープだが、やや痩せて聴こえる。これは軽く(左右チャンネルが混ざり合う)クロスフィード・フィルターが適用されているようにも思える。おそらく空間オーディオを構成するアップルの「指向性オーディオフィルター」がクロスフィードと似た調整をしているのではないかと思う。

 そして、AirPods Maxの音質を一番左右するのは、iOS14から導入された「ヘッドフォン調整」機能だ。設定→アクセシビリティー→オーディオ→ヘッドフォン調整をオンにすると、劇的に音が変化する。これにはヘッドフォン調整の大項目と一番下の「メディア」がオンになっている必要がある。バランスの取れたトーンを中程度にすることでも音質は一変すると言えるほどだ。音はより広がり鮮明となる。またカスタムオーディオ設定をしていくつかの音楽を聴きながらカスタマイズすることもできる。

 いわゆる「デジタル処理を経た音」だが、正直言って、素の音よりもかなり好ましくなったと感じた。また映画を見ている時にもこの機能は大きく利くので、AirPods Maxを購入したらまずこの機能をオンにすることをお勧めする。

 空間オーディオはいまのところ対応機種も対応コンテンツも限られているが、自動調整はiOS14ならば手持ちのiPad 12.9(2nd)でも使用することができた。

総評

 発売時には「価格が高すぎる」と評されることもあったが、映画鑑賞とオーディオファイルの両方にアピールできる音質の良さと、空間オーディオといった機能、そして、質感の高いデザインなどガジェット的な魅力を合わせると価格ぶんの価値は十分にあるように感じた。

 電源スイッチがないとか、専用ケースが凝りすぎていると感じる面もあるが、全体に割とそつなく作られている。初めてヘッドホンを出したメーカーの完成度ではないようにも思える。ほかのヘッドホンメーカーにいた技術者が協力しているのかもしれない。

 アップルのエコシステムにいるユーザーは、価格に見合った製品となるだろう。空間オーディオ対応の最新機種を持っていると、さらに魅力は高いかもしれない。エコシステムにいないユーザーでも、高音質のワイヤレスヘッドホンとして魅力的だが、価格に見合うかは、そのデザインと質感に魅力を感じるかの判断となるだろう。

 この記事では別軸で分けてみたが、実のところオーディオ的な視点とガジェット的な視点は交わるところがあり、それがコンピュテーショナルオーディオになると思う。そういう意味では今後も楽しみな製品である。

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