なぜモビリティサービス事業者はAWSをインフラパートナーに選ぶのか、AWSが説明会
トヨタ、ゼンリン、小田急も ―国内でも加速する“MaaS on AWS”トレンド
2020年08月27日 07時00分更新
AWSジャパンは2020年8月19日、報道陣向けに「MaaS分野の最新動向に関する記者説明会」を開催し、国内でも注目度が高まるMaaS(Mobility-as-a-Service)のトレンドやAWSを活用したMaaS事例の紹介を行った。
本説明会の前日である8月18日には、AWSとトヨタの間でモビリティサービスプラットフォーム「MSPF」における提携が発表されており、MaaS領域におけるAWSの存在感は日に日に大きくなっている。とくにトヨタのMSPFは、これまでMicrosoft Azure上での実装が強調されてきたところに、新たなインフラパートナーとしてAWSが前面に出てきたインパクトは非常に大きい。
なぜモビリティサービス事業者はAWSをインフラパートナーに選ぶのだろうか。本稿では説明会に登壇したAWSジャパン 執行役員 技術統括本部長 岡嵜禎氏、ゲスト登壇した小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダー 西村潤也氏、およびヴァル研究所 執行役員 CTO 見川孝太氏によるプレゼン内容をもとに、MaaSという新たなインダストリレイヤにおける“AWSの強さ”を見ていきたい。
MaaSの要点は複数プレイヤー間の“連携”
MaaSとは何か。国土交通省では以下のように定義している。
「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの」(国土交通省「日本版MaaSの推進」Webサイトより)
つまり、鉄道や旅客機、バス、タクシーなどモビリティ(移動)そのものを提供する交通運輸事業者はもちろんのこと、自動車メーカー、チャージステーション、ユーザの移動先にある商店やレストランを含む観光事業者、さらにそれらの事業者が発信するデータを集約してユーザーに検索/予約/決済といったサービスを提供するサービサーも、すべてMaaS市場を構成するプレイヤーとなる。これらの事業者のサービスが柔軟かつ相互に連携することによって、MaaSは「移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段」として機能できるようになる。
ここで重要なポイントとなるのが、複数社のサービスを“連携”させるというコンセプトである。
交通事業者や自動車メーカーはこれまで、自社が収集したデータをもとに渋滞/遅延情報の発信や自動運転技術の開発などを行ってきた。だが、MaaSにおいてはそうした個社によるサービスの拡充よりも、複数社のデータやサービスを有機的に連携させるこおとで、多様化するユーザのニーズに迅速に応えていくことが求められている。したがって、複数社のデータやサービスを一元的に集約し、それらを柔軟かつ疎結合に連携させ、アプリケーションのかたちをとったサービスとしてスピーディに開発/デプロイできるデータプラットフォームの存在がMaaSエコシステムのカギとなる。
そして、そうしたデータプラットフォームを中心とするMaaSのコア技術として、AWSの各種サービスが世界中で幅広く活用されているわけだ。AWSの岡嵜氏はMaaSプレイヤーのAWS活用事例として、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォーや前述のトヨタ、Googleマップなどに地図データを提供するゼンリンデータコムのユースケースを紹介している。
なかでもゼンリンデータコムの事例は、オンプレミスに配置されていた既存の仮想マシン1800台を「VMware Cloud on AWS」へと移行した大規模なリフト&シフト事例として非常に興味深い。岡嵜氏によれば、同社は「地図情報が静的な情報で終わってはいけない、リアルタイムな更新が必要」という強い思いからAWS移行へと踏み切り、車載カメラやドライブレコーダーから取得した画像に加え、道路交通標識や看板などを認識する“地図情報の自動更新システム”を構築しているという。また単なるクラウド移行にとどまらず、「Amazon SageMaker」を使った機械学習モデルや「AWS IoT Greengrass」をベースとするエッジコンピューティングなどの、クラウドネイティブなプロトタイプの構築も開始しているという。