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なぜモビリティサービス事業者はAWSをインフラパートナーに選ぶのか、AWSが説明会

トヨタ、ゼンリン、小田急も ―国内でも加速する“MaaS on AWS”トレンド

2020年08月27日 07時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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小田急電鉄/ヴァル研究所のMaaSアプリ「Emot」とデータ基盤「MaaS Japan」

 前述したように、MaaSというインダストリレイヤでは複数のプレイヤーがそれぞれの強みを活かしながら、さまざまなサービスを連携させていくことで、ユーザの利便性を向上させる。そして、MaaSエコシステムにおいて中心的な役割を果たすのが各社のデータ/サービスを集約するデータプラットフォームだ。本説明会では、小田急電鉄とヴァル研究所によるMaaSプラットフォーム「MaaS Japan」への取り組みが紹介された。

 小田急電鉄の西村氏は、同社が「2018年3月に50年来の悲願であった複々線を完成させたことを受け、現在では"新しい小田急"への変革を進めており、既存のリアルな事業とデジタルな顧客接点の融合を図っている」と語る。人口減少時代と事業環境の急激な変化を鑑みれば、小田急電鉄のような運輸事業者がMaaSに参入するのは「必然的な流れ」であり、生活/観光サービスには必ず移動が伴うことから、「手のひらにあるスマホを通して、顧客のライフスタイルに応じたさまざまな提案をしていく」(西村氏)という。

 こうした「提案」のひとつとして、小田急電鉄では2019年10月から「EMot(エモット)」というMaaSアプリを提供している。

 EMotでは、電車やカーシェア、タクシーなどを複数の移動手段を組み合わせた複合経路検索や、沿線周辺の飲食サブスクリプションチケット、箱根エリアなどの観光施設を優待料金で周遊できる電子チケットなどがスマホから利用でき、小田急沿線はもちろん、全国各地への移動やその地での体験が豊かになるよう、現在も多くの機能拡張が図られている。MaaSプレイヤーとして、最初から異業種を含む多くの企業と連携している点も特徴のひとつだ。

小田急電鉄が提供するMaaSアプリ「EMot」による複合経路検索の画面。電車による経路検索はもちろん、Japan Taxiや日本航空など他社との連携により、カーシェアやタクシーなどを組み合わせた経路検索が可能。将来的には海外のMaaS事業者と提携し、コロナ収束後のインバウンド需要の取り込みも見込んでいるという

EMotのもうひとつのメインサービスである電子チケット機能は、箱根エリアなど観光地と提携し、温泉や観光施設などのスポットを優待料金で利用可能にする。小田急電鉄は現在、電子チケットをベースにした観光型MaaSや生活型MaaSの実証実験を複数実施している

 そしてEMotの基盤となっているデータプラットフォームが、ヴァル研究所と共同で開発した「MaaS Japan」である。日本で最初に提供が開始された乗換案内サービス「駅すぱあと」エンジンの開発で知られるヴァル研究所だが、クラウドサービスに関する知見も多く、経路検索や駅情報、鉄道路線図などの機能をAPIとしても提供している。

 ヴァル研究所の見川氏はMaaS Japanを構築するにあたってのポイントとして以下の3点を挙げている。

・機能単位で疎結合 … 各機能の結合度を下げ、今後の拡張を容易にする
・サーバレス(AWS Lambda)でファンクション単位に切り分け … アプリケーション固有の実装に集中する
・極力、PaaSを利用 … 運用コストの低減を図る

 とくに重要なポイントは、将来的な拡張や外部サービスとのAPI連携を想定し、疎結合なマイクロサービスアーキテクチャを徹底したことだろう。

 MaaS Japanでは、BFF(Backends For Frontends)、認証、アカウント情報管理、通知、チケッティング、決済といったそれぞれの機能を個別のマイクロサービスとして実装しており、システムとしての結合度を下げている。また、シンプルな機能群としてプラットフォームを構成したことでフロント実装の複雑性も低下、さらにPaaS利用を推進したことで「Amazon EC2ベースの環境に比較すると、運用負荷を低下させることができた」(見川氏)という。なお、チケッティング部分にはコンテナ(AWS Fargate)も使われている。

 「MaaS Japanは独自実装ですべてを解決するのではなく、外部のサービスと積極的に連携することを前提にしているのでAPI連携が基本。MaaS Japan自体もAPIを公開し、外部サービスから利用されるケースも想定している。API連携により、サービス価値の向上や新たな市場開拓も期待できる」(見川氏)

MaaS Japanで使われているAWSサービス。各機能をLambdaをベースとしたマイクロサービスとして設計し、機能間の疎結合を図り、結合度を下げている。またチケッティングなどある程度の作り込みが求められる機能は、コンテナサービス「Amazon ECS」のオプションであるAWS Fargaeteが使われている

 続けて見川氏は、AWSをMaaS Japanのコア技術に選んだいくつかの理由を紹介挙げた。

・ビジネスの速度優先であったため、もっとも実現したいものをもっとも速く作れるプラットフォームが必要だった
・今後の変更に柔軟に対応できる
・ビジネスが伸びたときにスケールできるプラットフォーム
・ヴァル研究所にとって最も使い慣れたクラウドであり、知識と経験が社内に蓄積されている

 なお、今後は複数社間をまたいだAPI連携に加え、データレイク連携も検討しているという。

* * *

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、運輸業界の事業環境も厳しさを増しており、多くの事業者がビジネスの転換点に立たされている。しかし西村氏は、移動に対する制限が多い現在だからこそ、MaaSを通じて幅広いパートナーと連携しながら次世代のモビリティライフを生み出していく必要があると強調する。

 「コロナ禍がいつ収束するかわからないからこそ、顧客との接点を電子化することが、安心して気軽に外出できる新しい移動サービスへとつながっていく。人は移動を通じて人生を豊かにしていく。移動が都市や人々を支え、移動によって人々が都市のサービスを享受できる社会を作っていきたい」(西村氏)

 刻一刻と事業環境が変化するからこそ、移動というすべての人々にとって重要な行動を支えるサービスは、柔軟に、スピーディに生み出されて、変化していくことが望ましい。AWSがMaaSプレイヤーからの支持を急速に拡大している背景には、MaaSのニーズを満たすインフラとエコシステムを確立し、現在もそれらを拡大していることが挙げられる。圧倒的なインフラリソースとコロナ禍でも止まらないイノベーション、グローバルに拡大するエコシステム――。 MaaS on AWSの流れはこれからも止まりそうにない。

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