このページの本文へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第81回

厚木のリフォーム会社がチャレンジした「儲かるkintone」

「ファミリーカーのkintone」でSFAと同じエリア分析は実現できるか?

2020年06月23日 10時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2020年6月18日、サイボウズはkintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo 2020」をオンラインで開催した。トップバッターとして登壇した神奈川県厚木市のリフォーム会社サンエキの花園雄一氏は、Salesforceからkintoneへの移行、そして本格SFAのようなエリア分析へのチャレンジを語った。

kintone hive tokyo 2020に登壇したサンエキの花園雄一氏

売上は右肩上がりなのに、紙書類や残業が多かった4年前

 2月の名古屋を皮切りに、仙台、福岡、大阪、松山などで開催されてきたkintone hive 2020も、今回の東京でのオンライン配信が最終となる。

 イベントの司会は、インターン経験でしっかりkintoneにはまってしまったというオーストラリア出身の渡邊義氏が担当。まずはkintoneのアイデアを共有する「kintone hive」というイベントの趣旨を改めて説明し、kintoneのメリットとして業務アプリが簡単に作れる「手軽さ」、プラグインやJavaScriptによる「拡張性」、そして業務や用途にあわせて「工夫できること」などをアピールした。

サイボウズ 渡邊義氏

 トップバッターは神奈川県厚木市にあるサンエキの花園雄一氏。去年のkintone hiveに参加し、ライブハウスで登壇ってめちゃくちゃ気持ちよさそうだなと思って、エントリしたという。花園氏は、「オンラインになって、『やっぱりライブハウスでやりたかったな』という気持ちが9割、『ダイエットしなくて済んだな』とちょっとほっとした気持ちが1割」とコメントし、セッションを開始した。

 「親切・丁寧・誠実」を掲げるサンエキはリフォームや塗装、不動産、ガスなどおもに住環境にまつわるビジネスを手がける地域密着型の中小企業だ。花園氏は住宅設備メーカーの営業や人材系ベンチャーなどを経て、4年前にサンエキに入社し、経営管理部の責任者として経営財務、人事労務、総務、営業推進などを担当している。キャリアとして注目したいのは、人材系ベンチャーの在籍時にSalesforceを用いたインサイドセールスのシステム運用や開発に携わっていたという点だ。

 花園氏が入った4年前、サンエキは顧客との緊密な関係性を重視した営業スタイルで業績を伸ばしていた。「家のことで困ったことがあったら、まずはサンエキに電話しようと思っていただくような関係性を目指してきた」とのこと。お中元やお歳暮、誕生日に花を贈るなど、まさにウェットな営業活動を進めてきた結果、リフォームの顧客数は1200件、ガスの顧客も約3000件を超え、売上的には右肩上がりだった。その一方で、紙書類や残業が多く、社員の定着があまりよくないという課題があり、そろそろ手を打つ必要があったという。

売上は右肩上がりだが、紙の書類や残業が多かった

「これってSalesforceでやることなんだっけ?」からのkintone

 そんなサンエキに入社した花園氏がまずやったのは、前職でヘビーに使っていたSalesforceの導入だった。当時のサンエキは、顧客がすべて別のExcelファイルで管理されており、リフォームの顧客、ガスの顧客、家電販売の顧客、お誕生日のお届けリスト、お中元・お歳暮の送付リストなどが散在していた。混沌の原因がこれらDBやリストの散在だと考えた花園氏は、Salesforceで顧客DBを統合管理することにしたという。

 Salesforceによる顧客DBの統合は無事成功。こうなると、いろいろ活用したくなるのは当然の話で現場からも要望が上がってくる。「顧客ごとの訪問履歴をチェックしたい」「販売履歴や売上金額をみたい」などはともかく、「日報のクラウド化」「立て替え経費の集計」「発注書の作成」「小口現金帳の作成」などの要望になると、もはや営業支援サービスであるSalesforceの範疇を超えてくる。「こういうのってSalesforceでやるべきことなんだっけ? このままSalesforceを使ってていいのかなという感じになってきた」(花園氏)という状況に陥ったという。

 大企業での業務経験を持つ花園氏からすると、大企業と中小企業ではITツールのニーズや使い方が異なるという。大企業であれば業務に応じた専用ツールを入れたほうがいいが、規模の小さな中小企業では専用ツールはスケールメリットが出ないため、さまざまな用途に使えるツールの方がよい。「スポーツカーやトラック、バスのような用途に特化した車ではなく、なんでも使えるファミリーカーのような車のほうがよいのではないか」ということで、万能ツールのkintoneを選んだという。「いい意味で尖ってないなというのが私のkintoneに対しての感触」(花園氏)だった。

 2019年6月にサンエキはSalesforceからkintoneへの移行を実施し、1年弱でかなりのアプリが立ち上がって運用されている。新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が必要になったため、手が付けられていなかった見積もりや発注などのワークフローもkintone化したという。

Salesforceからkintoneへ

 アプリ化においてはアナログの業務を無理にデジタル化しないというのもポイントだった。ファイル送付はVPN経由、ミーティングはHangout、ワークフローはkintone、捺印もPDF化を進め、考えられる限り業務はデジタル化したが、「建設業ではFAXがばりばり使われていて、職人への発注は基本的にFAX」(花園氏)とのことで、最終的にはkintoneからFAX送信するプラグインも利用した。

ファミリーカーのkintoneで峠を攻めてみた話

 kintoneへの移行話が短いなと感じたが、実際ここまでの話はまだ序章で、花園氏が語りたかったのは「儲かるkintone」だ。「一般企業にとってみると、儲かることはとても重要。儲からないと会社は存続できない」と語る花園氏。「儲かる=利益を出す」ためには、基本的には売上を増やすか、費用を減らすかのいずれかの方策しかない。しかし、kintoneイベントの登壇やネット記事の多くは後者の費用を減らす事例が多かったので、今回は売上を増やすという事例を紹介しようというわけだ。「SFAのようなスポーツカーでしかできなかったことをkintoneでやってみました。要はファミリーカーで峠を攻めてみた話」とは花園氏の弁だ。

 具体的には「Salesforceからkintoneへの乗り換えで、どうせシステムの作り替えが発生するなら、エリア別にデータを分析できるようにしたいと考えた」という。中小企業が大企業に勝つための経営理論として有名なランチェスター戦略を採用するサンエキとしては、特定エリアへのフォーカスがきわめて重要だった。「ただ全体の売上が20%伸びてもあんまりうれしくない。『●●町は40%伸びているけど、▲▲町は10%下がっている。なんでだっけ?』まで見えて、意思決定や行動につながる議論までつながると思っていた」(花園氏)。直感に頼る経営からファクトに基づく経営に移行するためのツールとしてkintoneを組んでいきたいというのが花園氏の思惑だった。

 しかし、実際やってみると、エリアの分析は難しかった。そもそも住所の表記はユーザーの入力によってばらつきが激しく、分析に耐えうるデータにならなかったという。そこでkintoneでやったのは、ルックアップ機能とTiSの「アプリ間レコード更新プラグイン」を組み合わせて、住所の登録を正規化しつつ、複数アプリでつねに最新の情報に更新されている状態を実現した。

住所のデータはばらつきが多い

 具体的には、kintoneの顧客リストアプリに新規入力する際、エリア指定に住所の一部を入れると、住所候補をリストアップするようにした。郵便番号、都道府県、市区群、市町村などを選択できるので、あとは番地や部屋番号を入力すればよい。

 仕組みとしては町丁マスタアプリに4000以上ある神奈川県の町丁をすべて登録しておき、これを顧客リストアプリからルックアップするようにした。また、案件管理やLPガス案件、活動履歴などの各アプリは、マスターレコードとなっている顧客リストアプリを参照するようになっているので、データはつねに最新に保たれ、売上や活動履歴がエリアごとに集計できるようになった。ちなみに町丁アプリの元データは日本郵便の郵便番号一覧から持ってくると容易。また、データ作成は国勢調査の客観データと照らし合わせられるため、丁目単位まで作るのがオススメだという。

顧客マスターの設計にこだわる

 こうして町ごとに集計できるようになると、「この町は売上は伸びたが、高価格な商材の受注が少ない」とか、「この町で数値落ちたのは、競合他社ができた影響ではないか」といった細かい分析と仮説構築ができ、具体的な施策の方針まで可能になる。加えて、こうして決まった施策の方針に従った活動を営業マンが行なっているのかといったモニタリングも実現する。具体的には、活動履歴アプリを更新すると、顧客リストアプリの最新訪問日が更新されるようになっているので、これらをExcelに落として分析する。「そのエリアは3ヶ月以内に訪問する」というアクションがどこまで実施できたか数値で把握できるようになるだけではなく、未訪問の顧客もすぐに抽出できるわけだ。

 サンエキはkintoneによるデータ分析と他の施策を組み合わせることで、売上高を向上させることに成功した。「kintoneを使い始めたことで、経営のPDCAが回るようになってきたことを実感しています。使い方によっては営業の成果をダイレクトに押し上げることができるのではないか」と花園氏は語る。まさに「儲かるkintone」だ。

LPガスの販売基幹システムをkintoneで作ってみた

 花園氏の野望はとどまることを知らない。次のターゲットは保守期限の切れそうなLPガスの販売基幹システムのkintone化だ。

 現在使っているLPガスの販売基幹システムは、社内にサーバーを置く必要があり、外からアクセスするためには別途サーバーが必要になる。画面も20年前なのにも関わらず、見積もりをとってみたら、初期導入コスト、カスタマイズ、保守までがっつりコストがかかるという。「今時そんな感じなんですか?という話が多くて、こんなシステムに何百万円も払うは大丈夫かと思った」(花園氏)とのことで、kintoneへの移行を考えた。

 では、実際にLPガスの販売基幹システムがなにをやっているかというと、LPガスの検針データを数千件取り込み、請求データを作成し、請求書発行や会計システム連携を行なっている。サンエキでは、これらLPガスの販売基幹システムをkintoneとプラグインの組み合わせで実現した。具体的には請求データの作成はkrewData(グレープシティ)、請求書発行はRepotoneU(ソウルウェア)、入金管理と会計システムの連携はfreee for kintoneを使うことにしたという。「ざっくり1/8のコストでできそうで、実は修羅場の先月から本番環境で動かしている」とのことで、次のセッションのネタになりそう。早くも次回が楽しみだ。

すでに動き始めているkintoneベースのLPガス販売基幹システム

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事