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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第566回

マルチメディア向けからAI向けに大変貌を遂げたMovidiusのMyriad 2 AIプロセッサーの昨今

2020年06月08日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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Hot Chipsで初めて発表された
AIプロセッサー

 この連載でも何度か取り上げているHot Chips。サブタイトルは“A Symposium on High Performance Chips”で、IEEE Technical Committee on Microprocessors and Microcomputersがメインスポンサーとなって毎年8月くらいに高性能プロセッサーに関するシンポジウムを開催している。

 Hot Chipsの対になるのがCool Chipsで、こちらは“IEEE Symposium on Low-Power and High-Speed Chips and Systems”で、主に省電力プロセッサーに関するシンポジウムである。

 どちらもIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子技術者協会)が主催するイベントであり、最新プロセッサーの発表の場の1つでもある(他にもISSCCでたまに取り上げることもあるほか、Linley Microprocessor Forumなどが最近は人気)。

 さてそのHot ChipsでAIプロセッサーが初めて取り上げられたのは2015年のHot Chips 27である。ただこれは発表ではなく、モントリオール大のRoland Memisevic准教授による、“Deep Learning: Architectures, algorithms, applications”というタイトルの、午前中一杯を使ったチュートリアルのセッションである。

 チュートリアルといっても参加するのは情報技術系の研究者とプロセッサー関係エンジニアということもあり、いきなりDeep Diveだったりするのだが、それはおいておく。なお、このセッションそのものはYouTubeで見られる。

 その翌年、2016年のHot Chips 28では最初のAIプロセッサーの発表がいくつか行なわれた。今回紹介するのはその発表の1つであるMovidiusのMyriad 2である。

マルチメディアプロセッサーSHAVE爆誕
命令長が可変のキワモノ

 Movidiusは2005年にサンマテオで創業した小さなベンチャーである。サンマテオは、当時はまだシリコンバレーとして理解されている範囲の北、と認知されていた場所で、サンフランシスコ国際空港のそばである。ちなみにほんの数マイル南下するとOracleの本社があり、これが当時はシリコンバレーの北限とされていた。昨今ではサンマテオもシリコンバレーに含まれている。

 Movidiusの最初の数年間は、携帯機器向けの2D/3Dコントローラーや動画エンコーダー/デコーダーの類を出しているだけの、良くありがちなメーカーだった。

2011年2月の同社のProductsページ

 ただそのMovidius、2011年のHot ChipsでSHAVE(Streaming Hybrid Architecture Vector Engine)と呼ばれる新しいマルチメディアプロセッサーを発表する。

マルチメディアプロセッサーのSHAVE。これだけで言えば単に「キワモノ」扱いなのだが……

 どの辺がRISCとDSP、VLIWとGPUなのかという説明が下の画像だ。チップそのものは65nmプロセスで製造されている。先にVILW風という説明があったが、10種類の実行ユニットがあり、しかも命令長が可変という、デコーダーが死にそうな構成になっている。

RISC-styleとVILW-styleが矛盾しているが、実はこれは別のコアである。Streaming operationもGPU-styleというよりはDSP-styleな気がする

2011年と言えばもうDDR3 SDRAMがPCでは使われている時代だが、コストあるいは省電力性のために、あえてDDR2 SDRAMを採用していた模様(メモリーチップ自身の消費電力はDDR3の方が低くなるが、SoC内部の帯域を増やすとその分消費電力が増えるため)

 この命令セットでInstruction Predication(次命令の予測)をどうやってやったのか、けっこう謎である。上の画像のSHAVEプロセッサーが1コア相当になり、システム全体では8コア構成として、それに周辺回路を組み合わせて1つのチップとなる形だ。

2次キャッシュは8コアのSHAVEコア共有で128KBなのだが、いくらなんでも少ない気がする

 ダイサイズなどは発表されていないが、SoCは16MBのDDR2 SDRAMを積層する形で搭載され、FP32の場合で17.28GFlops/0.35Wとなり、効率は49.4GFlops/Wを達成したとしている。

65nmプロセスではあるが、16MBのDDR2 SDRAMよりやや大きい程度だとすると、80平方mm程度だろうか?

 アプリケーション的に言えば、RISCコアが各SHAVEコアに仕事を割り振ったり、周辺I/Oの制御などを行なったりして、アプリケーションそのものは各SHAVEコアがVILW/Vector的に処理を行なうというシナリオのようだ。

 このSHAVEコアを利用することで、さまざまなアプリケーションが動作可能になるというのが同社の説明である。例えば1080iのH.264のデコードだけなら3コアで行けるし、動画キャプチャ→H.264のデコード→エフェクト追加まででも8コアで足りる、という具合だ。

コアごとに処理を分割することで、さまざまなアプリケーションを効率よく動かせる、という図式はメニーコアのSoCではありがちな図式ではある

 ちなみにMovidiusは、これを28nmに移行させコア数を倍にし、効率を10倍に引き上げたFragrakプラットフォームの構想も2011年に発表している。プロセス微細化にともないCMX(128KBのSRAM Tile:おそらくTCM的な使い方を想定していると思われる)の容量も倍増、L2も512KBまで増やしている。

Fragrakプラットフォームの構想。28nmくらいまではまだプロセスを微細化すれば消費電力が減り、動作周波数がなんとか上がるぎりぎりの所ではあったから、動作周波数をむやみに上げなければ450GFlops/Wは現実的な数字だろう

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