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業務を変えるkintoneユーザー事例 第75回

kintone導入で残業削減、売上と収益は向上したけれど

みんなで使った方が効果大!信幸プロテックにkintoneが根付くまで

2020年05月11日 09時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ 写真提供●サイボウズ

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 家業を継ぐと心に決めて育ったという信幸プロテック 取締役の村松 直子氏。結婚と共に入社したときには、会社にPCが1台しかなかったという。そのような状況からスタートして働き方改革に取り組んだ結果、増収増益を達成。しかしその後に待っていたのは波乱だった!? 気負いと思い込みから村松氏が解き放たれ、全社の意識がひとつにまとまっていくまでの物語がここにある。

36名の会社で4千件の顧客情報、1万件の危機情報をさばくためにクラウド活用へ

 村松氏は幼い頃から、「自分は会社を継ぐんだ」と確信を持って育ったと言う。高校卒業後、「旦那さんを連れて帰ってきます」と宣言して上京、大学卒業後に入社した会社で5年間勤務したのち、見事お相手をゲットして帰郷、信幸プロテックに寿入社した。16年前のことである。

 信幸プロテックの事業は、法人向け空調設備、水回り設備の点検、修理、取り付け工事が柱となっている。個人顧客向けには室内用塗料の販売や、キッチン周りのトラブルシュートを提供。また、DIYテクニックを教えるリノベーションワークショップなども開催している。村松さんは同社で4年前から専務取締役を務めており、総務、人事、経理、ITサポートとマルチに活躍中。本人いわく「PCが動かない、設定がおかしくなった、と言っては呼ばれるIT用務員です」とのこと。

信幸プロテック 取締役の村松 直子氏

 kintoneを知る前は、社内にサーバーを設置して顧客管理を行なっていた。しかし顧客情報4千件、管理機器情報1万件を超えたあたりから従来の管理手法に限界を感じ始めたという。社内にサーバを設置しているので、外回りのスタッフとの情報共有は電話などに頼らざるを得なかったという背景もあり、クラウドに目を向けた。

「Salesforceを一度は検討したのですが、システムはそのまま使い、システムに仕事を合わせるというスタイルが信幸プロテックには合わず、導入を断念しました。そんなときに、先行していた同業者からkintoneを教えてもらい、導入に至りました」(村松氏)

 同業他社と争うのではなく、有益な情報は共有してともに成功していくという素地が岩手県にはあるようだ。さらに、kintoneを業務のどのポイントから導入すればいいのかも、働き方改革を通じて明確になっていた。

働き方改革とkintone導入の両輪で達成した売上、収益増

「近年は働き方改革に取り組んでおり、2017年には岩手県働き方モデル企業に選定されました。続く2018年は、岩手県働き方改革アワード 個別プロジェクト賞を受賞しています。ルールや時短ありきではなく、スタッフが主体となって続ける効率化の取り組みが評価されたのだと思います」(村松氏)

 この受賞は、ITを導入したらうまくいったという単純なものではなかった。スキルマップや手順書の作成、実際の仕事を知るための現場同行、社員のスキルアップ勉強会など、複合的な取り組みが組み合わさって成果を上げたものだ。中でもスキルマップと手順書を作成することが、業務の棚卸しにつながったことが大きかった。それぞれの業務にかけている時間を書き出して共有したことで、できればやりたくない事務手続きにかなりの時間を割いていることが露呈したのだ。ここにITを投入して効率化すれば、大きな効果を得られることもわかった。

 まず作ったのは、物件情報アプリ、受付登録アプリ、進捗・履歴アプリ、機器管理アプリの4つ。中心となるのは顧客の基本情報を持つ物件情報アプリで、必要な情報が関連レコード一覧で表示される。新規の作業依頼がある場合にはアクションボタンを使い、受付登録アプリに作業内容を登録する。登録が完了すると社外で活動するサービスマンのスマートフォンに通知が届く仕組みだ。

 これにより、受付時間は2分30秒から約30秒にまで短縮できたという。一見小さな数字だが、なにせ件数が多いのでトータルでは大きな違いになる。実際、これらのアプリ群と見積書・請求書登録アプリを合わせて、年間27日分にもおよぶ作業時間を削減している。

「受付から訪問までがスムーズになり訪問件数が増加した結果、第2のボトルネックが発生しました。訪問件数に見積作成が追いつかなくなってきたのです。見積作成のノウハウがサービスマン各自に蓄積され、共有されていなかったことも課題でした」(村松氏)

第2のボトルネック発生

 見積作成の時間を短縮すべく、これもkintoneでアプリ化された。仕入れ先への問い合わせや注文の履歴を記録することで、他のサービスマンがどのようなものをどこに注文し、どのような対応を受けたかもわかるようにし、見積作成ノウハウを共有できるようにしていった。

「3年間にわたるこれらの取り組みにより、時間外労働が22%減少しました。その一方で依頼件数は増加し、売上は1.4倍、利益は8倍に向上しました。もちろんkintoneだけではなく、働き方改革すべてを合わせて得られた成果です」(村松氏)

 また、kintoneがあったからこそできたこととして、この頃に起きたあるできごとについて村松さんは語ってくれた。サービスマンとして活躍していたある社員が、脳腫瘍を患い、在宅療養を余儀なくされた。その社員が、療養中にも何かできることがあれば働きたいという強い意志を伝えてきたため、リモートワーク環境を構築。自宅からkintoneを通じて簡単な業務に就いてもらったという。

 後期にはログイン作業もおぼつかなくなり、仕事内容はごく単純な作業だけになっていったというが、働ける間は働き続けたいという社員の気持ちに応えることができたのはkintoneがあったからこそだと村松氏は振り返った。仕事があるということ、自分を必要とする場があるということが強いパワーになることを教えられたと言う。

「使いにくい」と言われ、凹み、冷静になり、自社なりの活用法にたどり着いた

 売上や収益も伸び、システムが定着したと安心していた頃、ある事件が起こった。社内でも優秀なサービスマンが、以前のシステムの方が使いやすかった、kintoneは通知が多すぎるし、使いにくいと村松氏に訴えたのだ。

 「システムを導入して成果も上がっているのに、こういう風に言われるなんて。ものすごくガッカリしました」(村松氏)

 しかしこの言葉をきっかけに、村松さんはある勘違いに気づくことができた。「会社が大好きでkintoneが大好きな自分が、一番使いやすいアプリを作れるはず」という勘違いだ。自分が一番わかっているという気持ちだけではなく、現場はIT活用などしてくれないだろうという思い込みもあった。しかし社内をよく見てみると、サービスマンは外回りから帰社した後にkintoneをなんとか使いこなそうとがんばっていた。

 「活用なんてしてもらえないだろう、ログインして情報をみてくれさえすればいい。そう思ってアプリを作っていたので、見てもらうだけという前提のつくりになっていました。しかしサービスマンはそこにある情報を意味のあるものにしようと、それぞれにトライしていたのです」(村松氏)

 見るだけという前提でアプリが作られているので、自分なりの使い方をトライしても失敗するのは当然だ。優秀なサービスマンほどkintoneを使いこなそうとトライと失敗を繰り返しており、イライラを募らせていた。その結果が、kintoneは使いにくいという言葉になったのだ。

 さらによく社内を見渡してみると、業務に必要なアプリを自分で作ったり、既存アプリを改善したりと、kintoneの活用は広まっていた。村松氏は「kintoneやプラグインについて勉強した自分がアプリをつくるべき」と思い込み背負い込んでいたが、その姿を見てkintoneの使い方を学んだ社員がアプリを作って活用し始めていたのだった。

「お互いに関心を持ち合い、改善、成長していくという信幸プロテックの良さと、kintoneの良さが出会い、たくさんのアプリとして花開いていました。信幸プロテックにとってkintoneとは、それぞれが改善を実践でき、仕事を自分の手で変えられる実感を得られ、ノウハウをみんなで共有できる最高のツールでした」(村松氏)

 これらのポイントは、働き方改革を通じて得た学びとまったく同じだったと村松氏はまとめた。

 このようにkintoneの活用が社内に根付いたので、今後は小さな改善を広く社員に任せ、村松さんはアクセス権やセキュリティチェック、プラグイン探しなどでサポートしていくつもりとのこと。並行して、深い知識がなければできないチャレンジは、引き続き村松氏が担っていく。

「kintoneとマネーフォワードを連携させて、請求から会計、月次決算までを一気通貫で処理できるようにしたいと考えています。そのほか、ARスマートグラスを使って現場作業を効率化したり、ベテラン視点での動画を撮りためて教育に使えないかと考えています。kintoneとboxを連携させているので、動画素材はそこに蓄積していくつもりです」(村松氏)

 思い込みからのすれ違いもあったが、そうしたつまずきがあったからこそ一度冷静になって周囲を見る余裕ができたとも言える信幸プロテックの事例は、多くの示唆に富んでいる。システム導入に成功して有頂天になっているIT担当者は、本当にいまのやり方がいいのか、みんなが求めているものなのか、冷静に客観的な視点で見直すことで次のステップに進むヒントを得られるかもしれない。

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