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業務を変えるkintoneユーザー事例 第77回

現場ユーザーがJavaScriptを学んで業務改善を進めるkintoneの面白さ

ブラックな不動産会社に黒船kintone来る 草莽崛起で働き方改革を実現

2020年05月25日 10時30分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 今年の「kintone hive 2020」も、4月16日の福岡開催「kintone hive fukuoka vol.5」で3会場目だ。トップバッターである株式会社DLは北九州小倉に本社を持つ不動産会社で2年前からkintoneによる業務改善を推進。さらに担当者がJavaScriptによるカスタマイズを学ぶことで業務改善のレベルをさらに引き上げたという。

アナログな情報管理で残業続きだった不動産業務にkintoneを導入

 kintone hiveはkintoneのユーザーによる事例紹介や活用事例を発表する場で、kintoneを使いこなしている上級者から、これから導入しようと考えている企業まで、たくさんの参加者が集まるイベントだ。しかし、新型コロナウィルスの影響により、2会場目の仙台は会場での講演をライブ中継し、福岡からは全講演がフルオンラインとなった。

 トップバッターは株式会社DL 経営管理部の鶴田健吾氏。本社は北九州小倉、支店は福岡市中央区天神にある投資収益物件専門の不動産会社だ。

 不動産会社の業務では大量の書類を作成するが、必要な情報が揃っていないと仕事を進められないという特徴がある。また、月末の〆作業以外にも、契約や決済、オーナーへの送金、業者への支払いなど、さまざまな期限があって、いつも何かに追われているという。それなのに、以前はアナログで情報を管理していたため、書類を探す時間や電話の折り返し待ち、上司の判断待ちなどで、時間を無駄に過ごしていた。朝7時に出社しても、夜11時まで帰れないという状態だったのだ。

 2016年、ブラック企業が問題視され始めたころ、社内でも週休2日制と残業時間削減が重要課題として挙げられた。その時の外部コンサルタントによる提案がきっかけで、kintoneを導入することになったという。

 そんなkintoneを鶴田氏は黒船に例えた。

「私の経験上、大きな変化は外部圧力がある時の方がスムーズに進みます。最近のIT化、特にAIの登場で革新に向かっている現代は、黒船の登場から世の中が大きく変わっていった、幕末の世界観に似ているような気がします」(鶴田氏)

 kintoneの導入から2年が経ち、45個のアプリと12個のプラグインと社内のスマホで活用を進めた。契約書や重要事項説明書、業者支払いなど11項目の書類を作成しているのだが、そのうちの物件情報や入退去情報など8項目でkintoneアプリが利用されるようになった。そのおかげで、早朝から深夜までだった勤務時間が、夜8時頃には帰れるようになったという。

大量の書類作成業務があるのに非効率なフローのおかげで深夜まで残業が続いていた

担当者がカスタマイズまでこなせば、より高いレベルの業務改善が可能に

 kintoneを導入したことで、鶴田氏の中でIT導入に対するイメージが大きく変化した。以前は、完成度の高い統合型システムに業務の方を合わせたり、カスタマイズはプロに依頼したり、システム選定時点で勝負が決まってしまうというイメージを持っていたそう。しかし現在は、利用者を中心に、利用者に合わせたシステムを徐々に改善しながら作れるようになっている。kintoneのおかげで、ITが身近に感じられるようになったのだ。

「ITが身近になったおかげで、草莽崛起(そうもうくっき)が可能な世の中になっていくと思います。草莽崛起とは、志を持った一般の人々が立ち上がり、大きな物事を成し遂げよう、という考え方です。幕末に吉田松陰という人物がよく用いた言葉です。ユーザー企業の担当者が(kintoneアプリの)カスタマイズまでこなせるようになれば、より高いレベルで業務改善できるはずだと考え、(JavaScriptによる)カスタマイズに挑戦することを決意しました」(鶴田氏)

最初の2年間はJavaScriptでのカスタマイズは行っていなかったが、挑戦することを決意

 勉強のためにkintone university(現在のcloud university)が行っていた「アプリデザイナープラス編」を受講し、カスタマイズに取り組み始めた。

 最初は、稟議書の作成で過去の稟議データをコピーして再利用するようなアプリのカスタマイズにチャレンジ。普通にコピーすると、すべてのフィールドがコピーされてしまうので、「承認者記入欄」のように、コピーしてはいけない項目にも前回のデータが入ってしまう。そこで、「承認者記入欄」の項目を強制的に消すカスタマイズを行なった。簡単なプログラムだが、活用の場面は多いそう。

 記入項目に対するアラームもカスタマイズした。「承認者記入欄」など、後で入力される項目を必須にしてしまうと、申請する時点ではエラーになり保存できなくなる。必須にしないと、記入漏れが発生してしまう。そこで、承認時点で未記入の場合のみ、アラームを出すようにした。

 これらのカスタマイズの情報は「cybozu developer network」で収集した。わからないことがあっても、検索すれば自分で答えに辿り着ける。

「たとえば、部屋に飾る絵を上手に描けなくても、ジグソーパズルなら簡単に組み立てられます。高価な絵画を購入できなくても、ジグソーパズルなら手が届くというイメージです。個人的には、これからのkintone担当者に必要な能力はセレンディピティだと思っています。ことわざに例えると、犬が歩き回って「良い棒」に当たる能力。いかに、先行事例やサンプルプログラムからよいヒントを見つけられるか、ということです」(鶴田氏)

 不安や失敗を減らす工夫も必要だ、と鶴田氏はアピールする。アプリをコピーし、そのアプリを開発環境で使ったり、バックアップとして利用すれば、何かあっても利用中のアプリには影響を与えない。JavaScriptのバージョン管理アプリを作って保存しておけば、コピーできないような全体カスタマイズでも、改版の管理ができる。さらに、プログラムのバックアップに加えて、属人化対策、監査対策にもなる。

アプリのコピーを取ったり、JavaScriptのバージョン管理アプリを作っておけば安心してkintoneを活用できる

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