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業務を変えるkintoneユーザー事例 第73回

kintone hive初の無観客試合も登壇者の熱意は変わらない!

紙や口頭伝達からkintoneによる情報共有に進んだ社労士法人

2020年04月14日 11時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ 写真提供●サイボウズ

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 新型コロナウイルスの蔓延により、現地開催ではなくオンライン配信に切り替えられたkintone hive仙台。筆者は特別に、現場で取材できる機会を得た。今回の視聴者の中で唯一「仙台 Pit なう!」な重森が速報をお届けしたい。トップバッターの登壇者は社会保険労務士法人めぐみ事務所 原 和也氏。読み書きや情報整理が苦手という、筆者並みに社会人としてやばそうな方が、それを逆手にシステム化を進め、成功させた体験談だった。

無観客オンライン配信ながら盛り上がったkintone hive 仙台

苦手なことだから、やらなくていいようにデジタル化を推進

 kintone hiveといえばkintoneユーザーの体験談がメインだ。最初の登壇者である原さんはプレッシャーが大きかったのではないかと思うが、それをはねのけるかのようなトークだった。原氏が勤めるのは社会保険労務士法人めぐみ事務所、いわゆる社労士事務所だ。原さんが入社した6年前には、業務がアナログで時代遅れの事務所だったという。予定は朝礼で口頭共有、顧客の管理は紙でファイリング、しかも情報保管ルールが統一されていないので、従業員ごとにばらばら。引き継ぎも社員ごとにやりかたが違い、会社の財産となる情報を管理するデータベースもなかった。

社会保険労務士法人めぐみ事務所 原 和也氏

「そのような中で私はというと、読み書きが苦手、整理整頓が苦手、予定管理が苦手、メモ保管が苦手という、社労士事務所の職員としては致命的と言っていい欠点を抱えていました」(原氏)

 手書き書類が大嫌いで整理整頓が苦手な筆者としては共感しかない自己紹介。これはデジタル化待ったなしである。原氏は同期の社員からきっかけをもらい、苦手な業務をなくす方向でデジタルトランスフォーメーションの道に足を踏み入れた。書くことが苦手なので、システムを利用した電子申請を推奨した。整理整頓が苦手なので、ペーパーレス化を推進した。予定管理が苦手なので、グループウェアを導入した。

「グループウェアの導入だけは、失敗してしまいました。しかしある程度IT化ができて、これでよかったなと満足しかけていました。あとは時間をかけて進めていけばいいかなと」(原氏)

 しかし、他の社労士が開催したセミナーに参加して原氏は驚いた。時間をかけて、5年後くらいに実現できていればいいなと考えていたことが、その社労士事務所ではすでに実現されていたのだ。使っていたツールはサイボウズ社のkintone、独自に制作したテンプレートも販売されていた。原氏はさっそくkintoneを導入し、セミナーで紹介されたテンプレートも購入した。

 成功している社労士事務所で使われていたテンプレートとセットで導入したのだから、kintoneはすぐに業務に使えるだろうと期待されていた。しかし現実はそれほど甘くない。同業者とはいえ、仕事のやり方はそれぞれに違うものだ。原氏にデジタル化のきっかけをくれた同期の社員とともに、購入したテンプレートを解体しては作り直し、現場の声を聞いて反映。この作業を繰り返すこと、実に8回。これで使ってもらえるシステムになったと、満を持してkintoneは導入された。

情報共有の大切さを社員全員が痛感、kintone活用は一気に広まった

 事件は、約半年後に起きた。ともにデジタル化を進めていた同期の社員が、急に仕事を辞めてしまったのだ。kintoneの管理を任せていたので、社内は混乱に陥った。どこにどのような情報があるのかわからない、kintoneで検索しても見つからない。顧客のクレーム対応に時間を費やすばかりの日々が、数ヵ月も続いた。そして、驚くべき真実が判明した。

「kintoneのアプリはできており、社員に向けてリリースしていたのですが、ほとんど使われておらず、データが入力されていなかったのです。入力されていないデータが見つかる訳がありません。私は本当に、心の中でズッコケました。しかしチャンス到来だとも思いました」(原氏)

 思わず唖然としてしまう結果だったが、この経験を経て社員は情報共有の大切さを思い知った。それが、原氏の感じたチャンスだった。二度とこのようなことが起こらないよう、kintoneを使わなければならなかったのだと全員が理解し、kintone活用は一気に進んだ。そうして使われるようになったkintoneアプリの中から、案件管理アプリと顧客管理アプリの2つを原氏は紹介してくれた。

 案件管理アプリは、わかりやすく使いやすいことを第一とした。入力画面では随所に記入例などが示されており、新入社員でもすぐに使えるものを目指したという。マニュアルいらずどころか、アプリ自体が業務マニュアルになっているといってもいい親切具合だ。また色使いにもこだわり、緊急度合いに応じて一覧表示の背景色を変えた。これはサイボウズの条件書式プラグインを使ったもので、仕事の優先度が一目瞭然となり、業務の効率が向上したという。さらにExcelライクな操作にこだわる人に向けて、グレープシティが提供するkrewSheetプラグインを採用。複数案件のステータスを一度に更新できるようにした。こうして誰にでも使えるアプリとすることで、すべての案件の情報が入力されるようになった。業務量が可視化され、社員同士の助け合いも生まれ、残業時間削減につながったとのこと。

 顧客管理アプリでは、関連レコード一覧を使って顧客の情報を集約している。めぐみ事務所で使われている数多くのアプリから、その顧客に関連する情報をかき集めて、ひと目でわかるようにしたもの、と言えばいいだろうか。原氏はこれを「顧客カルテ」と呼んでいた。JBアドバンスト・テクノロジーのATTAZOOプラグインを使い、集約した情報を元に顧客に関わるすべての作業時間を集計、対応時簡単価が自動計算されるようになっている。顧客に費やしている時間=コストが可視化されたことで、顧問料が適正かどうかわかるようになったのだ。明確に数字として表れているので、これを材料にして顧問料の値上げ交渉も行なえるようになった。その結果、顧客間の顧問料適正化と売上向上とが同時に実現された。

顧客向けアプリもkintoneで提供、アイディアは尽きず改善は続く

 社内での情報共有ばかりではなく、顧客とのやりとりにもkintoneは使われている。kintoneに備わるゲストスペースを活用しているのだ。顧客企業からの依頼内容はさまざま。しかしkintoneであれば、顧客の要望を満たすアプリを作り、ゲストスペースで提供することができる。

「この取り組みは、いま私が一番力を入れている分野です。個別の要望に対して顧客専用のアプリを創れるkintoneならではの良さを活かしたサービスを提供しています」(原氏)

 一例として、社内の情報を集めて集計、分析するような依頼への対応が紹介された。このような案件において以前は、顧客企業の総務が社員から情報を集めて集計し、メールや郵送でめぐみ事務所に送付してもらっていた。この手順をkintoneアプリを使って簡略化するために、トヨクモのFormBridgeプラグインを導入、顧客企業の社員に直接スマートフォンから情報を入力してもらうことにした。入力されたデータはkintone上で集計され、結果はkintoneを通じて顧客企業の総務とめぐみ事務所の双方に届く。顧客企業側の総務は、社員への呼びかけや集計といった作業から解放され、めぐみ事務所は短時間でデータを入手できるようになった。

「ただし、kintoneでなんでもできるわけではありません。こういうことをやりたいのにと壁にぶつかることもたくさんあります。そんなときに助けてくれるのが、これまでにもいくつか紹介したプラグインです」(原氏)

 紹介された物以外にも、かなり多くのプラグインを使いこなしている様子だった。いまやかつての同僚ではなく、kintoneがデジタル化の相棒となっていた。そこまでやりこんでいても、「まだ6割」だと原さんは言う。これから先にやりたいことが、まだいっぱいあるそうだ。そんな原さんから、kintoneユーザーに向けて最後にアドバイスをもらった。

まだまだ6割だという原氏

「アイデアを思いついてアプリづくりに熱中すると、ついつい項目を詰め込んでしまいがちです。そういうときにはちょっと立ち止まって、この項目は本当に必要か?と考えてみてください。不要ならためらいなく削りましょう」(原氏)

 必要な情報をきちんと入力してもらうために、不要な項目をなくして入力の手間を減らす、画面をシンプルにする。それが、原さん流のkintone使いこなし術だ。

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