VIAの子会社Centaurが
x86互換プロセッサーを開発
この連載でVIAのCPUロードマップを最後に取り上げたのがいつだったかと思ったら、なんと2009年7月だった。
長らく新製品を「コンシューマー市場には」投入しなかったVIA Technologies、というか同社のCPUデザイン子会社であるCentaur Technologyであるが、同社はいまだに健在である。
一部では中国Zhaoxinに買収されたかのような報道もあったが、実際にはそんなこともなく、引き続き新製品のデザインを継続している。買収騒ぎは、単にVIA Technologies経由でCentaurからZhaoxinにIPを提供したというのが事実だそうだ。またその際にVIA Technologiesの物理設計チームがZhaoxinに協力したとのこと。
ただ、VIA Technologiesそのものは、もうx86というよりもArmのSoC(それも昨今ではQualcommのSnapdragonシリーズがかなり多い)をベースにした組み込み向けソリューションに半ば専念している。
昨年のCOMPUTEXではスマートフォンベースの自動運転ソリューションのデモを行なったり、最近では監視カメラソリューションなどを相次いで発表。この4月にはISO-26262(自動車分野で必須となる機能安全に関する認証)を取得したりと、かつてのx86互換ソリューションをPC向けに広く提供していた面影はまったくない。
ただ、それはそれとして引き続きCentaur Technologyはx86ベースのプロセッサーを開発し続けている。これはCentaur Technology CEOであるGrenn Henry氏の情熱でもあり、VIAの側も「彼に言うことを聞かせられる奴なんていないよ(笑)」(*1)ということで、Centaurが現在もCPU設計チームを維持して新製品を開発していることは間違いない。
ところがその方向性は、昨今の状況を反映して多少変わってきた。VIA Technologiesは前述の通り、ここ数年はAIベースのビデオ解析を利用したソリューション(自動運転だったり監視システムだったり)に注力しており、結果としてより高いInference(AIの推論処理)性能を持つプロセッサーやコプロセッサーが求められている。
こうしたニーズが届いた(*2)のだろうか? Centaur Technologyは2019年11月に新製品のプレスリリースを出すとともに、同月ニューヨークで開催されたISC(International Security Conference & Exposition) EAST-2019において、新しいx86 SoCベースの監視カメラソリューションを展示している。

新しいx86 SoCベースの監視カメラソリューション。ただしVIA Technologiesもここにブースを出してVIAの監視カメラソリューションを展示しており、その一角にこれが置かれたという感じに見える
ポイントはこのデモが、新SoCの実シリコンで動作していることであり、単なるペーパーローンチではなく、実際に稼働する製品を見せていたことだろう。
このSoCであるが、もともとCentaurはCHAという名称のx86 SoCを開発しており、このCHAに新たにNcoreと呼ばれる機械学習用のアクセラレーターを追加したのが、昨年11月のデモである。
Centaurはいまだにこの製品全体の名称を明らかにしてないので、とりあえずCHA+Ncore(仮称)とする。Ncoreはあくまでも機械学習用アクセラレーターの名称である。
このCHA+Ncore、2019年12月にLinley Microprocessor Reportで最初に情報が公開されたのだが、今年4月6日から9日まで開催されたLinley Spring Processor Conference 2020で、CentaurのParviz Palangpour博士(Senior Engineer, AI Software)とGlenn Henry氏(こちらは質疑応答のみ)により、CHA+Ncoreの紹介が行なわれた。前置きが長くなったが、今回はこのCHA+Ncoreを解説しよう。
(*1) 以前Richard Brown氏(VP Marketing, VIA Technologies)が来日した際の雑談で出てきた発言。たしかにGrenn Henry氏に物事を指図できる人間はそういないだろう、とは思う。余談ながらGrenn Henry氏は2019年2月に社長職を降りて、現在は元社長兼Chief AI Architectというポジションに就き、社長職にはSenior EngineerだったAl Loper氏が就いている。
(*2) メテオフォール型開発における「祈り」みたいなものかもしれない。

この連載の記事
- 第610回 Ice Lake-SPが発表、前世代より大幅に性能が向上したというが…… インテル CPUロードマップ
- 第609回 市場投入が早すぎたAdaptivaのEpiphany AIプロセッサーの昨今
- 第608回 第3世代EPYCとThreadripper Proで猛攻をかけるAMD AMD CPUロードマップ
- 第607回 Rocket Lakeが14nmプロセスを採用した本当の理由 インテル CPUロードマップ
- 第606回 Samsungがついにメモリー内にプロセッサーを統合 AIプロセッサーの昨今
- 第605回 Radeon RX 6700 XTのダイは6800 XTの6割程度の大きさ AMD GPUロードマップ
- 第604回 累計1000万個の出荷を記録したvideantis AIプロセッサーの昨今
- 第603回 チップ売りからソリューションに切り替えたETA Compute AIプロセッサーの昨今
- 第602回 デジタル信号処理の市場で生き残ったCEVA AIプロセッサーの昨今
- 第601回 高性能から汎用向けにシフトしたArmのEthos AIプロセッサーの昨今
- 第600回 CezanneはRenoirをZen 3に置き換えただけでなくあちこち再設計されている AMD CPUロードマップ
- この連載の一覧へ