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松村太郎の「アップル時評」ニュース解説・戦略分析 第89回

LiDARスキャナ時代にあらためて考える:

なぜアップルはiPhoneに「ノッチ」をつけたのか

2020年04月09日 09時00分更新

文● 松村太郎 @taromatsumura 編集● ASCII

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●3D顔認証「Face ID」とノッチの誕生

 ノッチは確かにデザイン上の妥協でしたが、一方で新世代のiPhoneのアイコニックな意匠にもなりました。つまり、デザイン上の特徴として、人々が受け入れているという意味です。

 実はノッチ付きのスマホはiPhone Xより前に発表・発売されたEssential Phoneが最初で、こちらはカメラ部分だけの小さな丸い穴でした。受話スピーカーは上部エッジに上手く仕込み、ノッチを最小化していたのです。

 その後iPhone Xが登場し、AndroidスマートフォンがiPhoneのノッチを追随し、画面の切り欠きのデザインが急速に広まったことも後押ししました。こうして、スマホの画面の切り欠きは、モダンなスマートフォンのデザイン要素として容認された、と考えています。

 長方形で慣れ親しんできたスマートフォンのディスプレーを縦長のデバイスサイズいっぱいまで拡げます。この段階で、ホームボタンなど、ディスプレー以外の要素がiPhone前面からなくなります。

 しかし指紋認証の代わりとなる生体認証を導入しなければなりません。その方法として、TrueDepthカメラを用いた3D顔認証、Face IDを搭載します。このカメラ部分を搭載するため、画面の半分以上の領域を切り抜くノッチが必要となりました。

 ちなみに、非常に精度が高く高速化が可能なFace IDは当時アップルしかなしえない技術でした。

 2011年に3DセンシングのPrimeSense、2015年にカメラモジュール技術のLinX、2017年にはAI顔認識技術のRealFaceといったイスラエル企業を買収。また2016年に米国企業Emotientも買収しました。

 さらにアップルは、TrueDepthカメラモジュールの大幅な小型化を実現する垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)の製造に取り組むFinisarに3億9000万ドルもの投資をして、年間1億台を上回る規模の3D顔認証の部品供給を実現してきた経緯があります。

 こうして研究開発に力を注いできたFace IDを、新世代の象徴としてのiPhone Xに搭載する際に、問題となるノッチが生まれたのです。

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