中の人が語るさくらインターネット 第16回
田中社長とレンサバ担当に聞いた激動の15年と次の一手
さくらのレンタルサーバが15周年 次はコンテナベースの新サービス?
2020年02月26日 09時00分更新
安定性と高速化のジレンマの中で戦ってきた15年
大谷:その後、さくらのレンタルサーバってどんな成長カーブだったんですか?
田中:2009年には20万件を突破し、今では45万件にのぼっています。
後藤:2004年の開始当初から使ってくれているアカウントも、まだ7000件くらいあるんです。こうしたお客様も、当初使えなかったSSLサーバー証明書も、無料で使えるようになっています。
田中:使えるストレージも、当初からすると10倍くらいになっています。同じ契約でも、使っているうちに機能や使い勝手はどんどん向上しています。価格も消費税分くらいしか上がっていません。
大谷:こうしたロングレンジのサービスを続けるにあたっての苦労はどんなところなんでしょうか?
田中:やはり後方互換性ですね。レンタルサーバーのビジネス自体がそもそも15年前のもので、システムのアーキテクチャもそのときと大きく変わりません。VPSや専用サーバーの場合は、環境をそのまま移行できますが、リソースを共有するレンタルサーバーは移行が難しい。お客様もOSやミドルウェアをあまり意識しません。だから、昔から使っているお客様の環境を動かせるようにしつつ、新しい環境に移行しなければなりません。これは長らくの課題です。
後藤:同じチームでVPSや専用サーバーもやっていたので、そちらの開発や運用に手を割かれ、レンタルサーバーは維持・管理に終始していたという時期もありました。
田中:さくらのレンタルサーバは速いこと以上に、安定性や後方互換性を重視しているので、とにかく過去のシステムが動かなくなるのを避けるようにしています。
2018年、WordPressの高速化を売りに、さくらのレンタルサーバもリニューアルしましたが、事業者側で勝手に高速化すると動かなくなる危険性があるので、なんだかんだお客様のワンアクションが必要です。でも、そこに行き着かないで、他社に乗り換えてしまうお客様もいます。高速化したいというニーズもわかるけど、レガシー環境も安定して動かさなければならない。これはジレンマです。15年前から連続して同じテクノロジーを使っているわれわれは宿命的に厳しいんです。
既存のお客様にいかに使ってもらうかがテーマ
大谷:パブリッククラウドも一般的になりましたし、レンタルサーバー業界も変革期ですね。
田中:さくらのレンタルサーバは今もユーザーが増え続けているのですが、正直伸びは鈍化しています。母数が増えると解約率も増えていますので、そこらへんは悩みどころです。ドメイン数自体が増えているのは間違いないんです。でも、うちがそこに乗りきれていないのは、なにかやり方が間違っているはずなんです。
うちのサービスは、コロケーション、専用サーバー、レンタルサーバー、仮想サーバー(VPS)、クラウドなどをやっているのですが、先ほど話しましたが、もともと物理は強いわけではなかった。だから、より上位のレンタルサーバーとクラウドをいかに強くするかが、プラットフォームビジネスの大きなテーマです。その中でレンタルサーバーは既存のお客様にいかに使ってもらうか、ということに注力しています。
大谷:確かに、サブスクリプションビジネスの流れで、いかに顧客満足度を継続して高めていくかが重要ですね。
田中:15年前、さくらのレンタルサーバに移行したときって、市場が拡大していたので、新規のお客様をとりにいっていたんです。でも、もはやレンタルサーバー市場は今の倍とか、3倍になりません。ですから、既存のお客様をいかに大事にするかが重要になっていて、どの会社もカスタマーサクセスを重視していますよね。
今までのレンタルサーバー業界のいけないところって、解約しにくいところでした。最近のスマホもそうですけど、解約させにくくして、新規顧客の開拓にお金を使うかを考えるのが、今までのストックビジネスでした。お客様に使ってもらっていることを意識させずに、契約を続けてもらう。「使わず、お金払ってくれるお客様が神」みたいなところがありました。
大谷:「寝た子を起こさない」というストックビジネスですね。先日、私の両親も使っていないISPの契約を、10年くらい毎月払っていたと話していました。
田中:でも、今のサブスクリプションはむしろ解約しやすくなっています。われわれもなるべくお客様とコミュニケーションをとったり、情報を発信して、お客様にいかに使ってもらうかに注力しています。次の契約更改のときも、喜んで更新してくれるようなサービスを目指しています。
たとえば、昨年はレンタルサーバーのコンパネも新しくなったのですが、多くのユーザーは新しいコンパネをまだ使ってくれていません。既存のユーザーに新しいサービスがよくなったと感じてもらう体験が圧倒的に足りてないんです。
大谷:具体的にはどういった施策を始めているのでしょうか?
後藤:実際にお客様がどう使っているのかヒアリングしています。たとえば、Webサイト作るには、本来はコンパネにログインして、ドメインとかの設定をしないといけないのですが、その作業を放置しているお客様もけっこういます。今まで全然調査してこなかったのですが、調べてみたら最初からつまづいている方も多い。使われないで放置されることも多いので、そういったお客様には個別にアプローチして使い方をご案内していたりします。
あとは最近WordPressの利用が多いので、やはりパフォーマンスを求められています。ここは正直他社に水をあけられている感じです。昨年リニューアルして性能も上がったのですが、まだ遅いというイメージをもたれているお客様も多いので、オウンドメディアのさくらのナレッジで高速化する方法を発信しています。
大谷:情報発信しつつ、お客様の声に耳を傾けているわけですね。
田中:ほかの業界でやっているカスタマーサクセスの流れをさくらにも取り入れてとにかく既存のお客様に満足してもらう施策を展開していくのが去年からのテーマです。
最近、お客様の声を聞いてなるほどと思ったのは、「長期利用ユーザーはさくらのイベント、優先的に入れないかな」という声でした。石狩データセンターの見学会にしろ、インターンにしろ、倍率が高いイベントに、契約の長いお客様は優先的に入れるとか。
大谷:あとはサービス同士の連携ですかね。以前、田中さんは「インフラのデパート」という表現してましたが、現状はテナントの独立性が高いまさに「デパート」で、サービスがサイロ化されている気がします。
田中:ご指摘の通りです。今の中期経営計画のテーマは「1つのさくら」。実はレンサバも一部クラウドの上で動いてますし、ネットワークも共通化されています。VPSとクラウドのチームが統一されてましたし、最近リリースしたサービスはすべてクラウドのコンパネから使えます。今後は、さくらのレンタルサーバ使っている方は、月額いくらかでさくらのサービスを試用できるとか、いろいろやっていきたいです。
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