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中の人が語るさくらインターネット 第9回

さくらのネットワークエンジニアが北海道の地震で見た「モノのつぶやき」

2019年01月29日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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 プロトコルから物理インフラまでネットワークにどっぷり浸かったさくらインターネットの若手エンジニア川畑裕行氏。IoTの可能性を探るべく、自ら設置した石狩市の河川水位測定センサーは、あの北海道胆振東部地震のさなかでもきちんと「つぶやいていた」という。

さくらインターネット 技術本部 ネットワークグループ 川畑裕行氏

田中社長の人柄とビジョンに惚れて、就活もさくら一本槍

 大学時代、「データセンターネットワークでのOpenFlow活用」を研究していたという筋金入りのネットワーク屋である川畑氏は、2015年4月にさくらインターネットに新卒で入社した。「大学3年生のときに石狩データセンターを見学する機会に恵まれまして、働くのはここしかないと思いました。懇親会の会場で社長の田中に名刺を渡して、ここで働きたいとお願いしました。就職活動もさくらインターネット1本で、落ちたらプー太郎やろうと思っていました(笑)」とのことで、さくら愛も半端ない。データセンターがかっこよかったのもあったが、なにより田中社長の人柄とビジョンに惚れ込んだ結果だという。

 そんな川畑氏は入社後は都内のデータセンターに所属。研修終了後の半年間はデータセンターの運用チーム、続いてネットワークの運用チームに配属され、sakura.ioを開発するIoTのチームに移った。「2016年4月にIoT推進室室長として山口が着任し、社内IoTチームのメンバーを公募していたんです。通信やネットワークという点で役に立てたらと考えたのと、IoTのように下から上までフルスタックで仕事ができる環境ってあまりないなと思い、応募しました」(川畑氏)。

 IoTチームではMVNOのつなぎ込みやイベント展示で使うアプリケーション開発などを担当していたという。また、「さくらのセキュアモバイル コネクト」の基盤となるフルMVNOのシステムの開発や、総務省との法的交渉に携わり、モバイルネットワークの知識も身につけることとなる。今では電気通信主任技術者(伝送交換・線路)のほか、第一級陸上無線技術士の資格も保持している。

 そして、LoRaのフィールド試験のためにたどり着いたのが、さくらのデータセンターがある北海道石狩市だ。石狩市とさくらインターネットはプログラミング教育プロジェクトも共同で進めており、肝胆相照らす仲である。石狩市のIoTプロジェクトに携わったきっかけについて川畑氏は、「LoRaモジュールを作ったはいいけど、やっぱりIoTは使ってもらってなんぼ。ちょうど石狩市の防災関連の部署から『国交省が管理していない一級以外の河川で過去に氾濫して被害が出た河川の水位を測れませんか?』と相談いただいたのがきっかけでした」と語る。

 南北70kmと縦長な石狩市には複数の河川が日本海へ流れ込んでいるが、いざ大雨や台風、雪解けが起こると、市役所や支所の職員は車に乗って、川の量水板を直接見に行っていたという。この河川の遠隔監視をsakura.io搭載の水位センサーを使ってリモートから行なえるようにしたのが、今回のプロジェクトだ。

手作りの子機(センサー局)とゲートウェイを手作業で設置

 プロジェクトは2017年11月からスタート。まずは石狩市から対象となる河川のリストをもらい、LTEの通信状況やセンサー設置の可否、電源の有無などを現地で調べた上で、監視ポイントを6箇所に絞り込んだという。橋の下に各種センサーやsakura.ioモジュールを搭載した水位センサーを子機として設置し、親機のゲートウェイ経由でsakura.ioに監視したデータを蓄積するという構成だ。

 蓄積されたデータはsakura.ioのAPIから抽出し、インターネット上にあるWebアプリで可視化される。水位センサーは現地調査を経て、イチから基板を起こしたものだ。「製作に取り掛かったのは2月初旬でした。3月の設置に向けて時間がない中、耐久性とコストを重視した構成は、同じIoTチームのメンバーが今までのものづくり経験がなければ実現できませんでした。子機はバッテリで動くので、寒い中でも、熱い中でも、とにかく動き続けるものを作りました」と川畑氏は語る。超音波で上から物体までの距離を測る仕組みなので、水面だけでなくタンクの中の燃料やサイロの飼料の残量を調べることもできるという。バッテリ寿命としては、屋外用のゲートウェイが約1~2ヶ月、水位センサーは約1年、動き続けるという。また、石狩データセンターの3号棟には-25℃まで冷やせる冷蔵庫が用意されていたため、ゲートウェイと水位センサーをその中に入れて動作検証できたという。

 2018年3月には、石狩市内の6箇所で本番用のゲートウェイや水位センサーの設置作業を開始した。必要な用具はホームセンター等で購入し、すべて手作業で作った。「毎朝、データセンターから出発して設置作業を行なうのですが、とにかく日本海の寒風が強くて、手も動かない。もちろんこんな工事の経験はないのですが、知恵を振り絞るしかなかったです」(川畑氏)。

橋の下に水位センサーを設置(以下、撮影:川畑氏)

必要な用具はホームセンターで調達し、設置も手作業

親機となるゲートウェイを介して、データを転送する

 LPWAというと、隠れ端末問題や利用周波数帯の混信などさまざまな課題があるが、都会に比べて電波クリーンな石狩はLPWAに適した環境だったという。一方、苦労したのは設置よりもファームウェアだった。「今回はオリジナルのファームウェアを使っているのですが、設置してから1日後に水位のデータが飛んでこないとか、省電力機能がうまく動作しないとか、ハングしてしまうといった事態が起こりました。結局、出張の最終日までファームウェア担当が調整を続け、なんとか安定稼働までこぎつけました」と振り返る。

 こうして設置した河川の水位計測システム。「基本、石狩市の要望を忠実に実現した感じなので、かなり満足いただきました」(川畑氏)とのことで、今後はIoTプログラミングの実地教材としても活用していくという。

石狩の河川センサーはあの日も動き続けた

 こうしたセンサーの可能性を感じさせた出来事が2018年9月6日に起こった北海道胆振東部地震だ。地震当時、長野に旅行中だった川畑氏は、「朝Slackを見たら、なんだか大騒ぎになっていて、TVを見たら北海道が全土で停電になっていました」と振り返る。

 石狩データセンターを擁するさくらインターネットでは非常時でも各自がそれぞれの役割を果すという体制が徹底されており、今回の地震でも社長含め役員陣は、BCP(事業継続)のため、東京・石狩に分散して指揮を執り、石狩や東京のファシリティチームは電力の利用量から燃料の使用量を割り出し、燃料を継ぎ足しながら、発電機をメンテナンスするための輪番停電計画などを練っていたという。川畑氏自体は担当するサービスのネットワークオペレーターとして、石狩のトラフィックを東京側に寄せるといったメンテナンスをリモートから行なっていたという。「各自がそれぞれの役割を果していました。傍から見ていても、感動するくらいの連携でした」と川畑氏は語る。

 そして、さまざまな情報が錯綜する中、石狩の電力事情を正確に伝えたのは、川畑氏らが設置したゲートウェイだった。川畑氏のブログ「大停電から見えてきたモノのデータの有用性」によれば、商用電源から給電されていた5箇所のゲートウェイは地震が発生した3時7分にグラフは途絶し、バッテリ給電だった床丹川の屋外ゲートウェイだけはその後8時間もデータを送り続けたという。携帯基地局も商用電源の供給が停電したものの、蓄電池で動き続けたのではないかと川畑氏は推測する。

 データセンターが動き続けられるかという危機的な状況ながら、今回の地震はsakura.ioが想定した「モノがつぶやく」という点では非常に有用性の高いデータをとれる状況だった。「確かに電気が通っているか、通っていないかというだけの単純なデータなんですが、被災した状況と照らし合わせることで正確な状況把握ができるはず。これは絶対にブログに書かなければと思いました」と語る。

 石狩市との取り組みは今後も続く。「小学校にWBGT(暑さ指数)のセンサーを設置してデジタル風見鶏として利用したり、特に体育など夏場の外出警告を出したり、各種センサーが取り付けられたデジタル風見鶏を置いたり、スマート電灯をやりたいという声もあります。とにかく石狩市からは『石狩の大地をテストベッドとして使っていい』というお言葉をいただいているので、いろいろチャレンジしてみたい」(川畑氏)とのことで、エンジニアとしてまさに試される大地としての石狩に期待している。「そのうち自社で衛星を飛ばしてみたい。地上のデータと衛星からのデータを重ね合わせることで、どんなものが見えるのか興味があります」(川畑氏)と野望は尽きない。

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(提供:さくらインターネット)

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