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大谷イビサのIT業界物見遊山 第37回

ホワイトカラーの労苦を取り去るオルタナな選択肢

B級テクノロジー「RPA」が働き方改革に悩む日本企業を救う

2019年07月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

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 先週、国内最大級のRPAイベント「RPA DIGITAL WORLD 2019」に登壇してきた。エンジニアやコンサルからはあまり好意的に見られないRPAだが、主要RPAベンダーが設けていたデモブースには現場部門の人たちが食い入るように画面を見つめていた。

画面を食い入るようにのぞき込むRPA DIGITAL WORLDの展示会場

「RPA」は過渡期のソリューションか?

 RPAほど賛否両論の多いテクノロジーは珍しい。昨年末、TECH.ASCII.jpの編集部でメディア記者と読者を招いた忘年会をやったのだが、もっとも印象的だったのが参加者との間で行なわれたRPAの議論だ。テクノロジーに明るいエンジニアやビジネスコンサル、情シスなどから見ると、コピペとクリックのGUI操作を人間の代理として作業するRPAはある意味、業務フローや運用保守コストの問題を先送りにする「B級テクノロジー」にしか見えないらしい。

 2017年から始まったブーム以来、RPAはつねに多くの批判にさらされてきた。「Excelマクロと同じ悲劇をまた繰り返すのか」「現場でメンテできない野良ロボットが増えるなんて地獄」「導入したけど、すぐ止まってしまうし、効果が見えない」「5年後に生き残るRPAベンダーはあるのか?」などなど、タイムラインで見かけるRPA記事へのディスりはおおむね激烈だ。四半世紀にわたってレガシー資産に悩まされてきた層から見れば、RPAは警戒すべきテクノロジーに見えるらしい。正直、RPA業界の方には申し訳ないが、「蛇蝎のごとく嫌われる」という表現は、こういうところで使われるのかと思う。

 そもそもRPAの市場は、AIやクラウドを標榜する大手IT企業がほとんど手を出さないきわめて特殊な市場だ。現在では30~40近くあると言われるRPA製品だが、シェアのトップ5を占めるのはSIerと国産・外資の新興企業。GAFAMはもちろん、IBMやOracleなどの外資ITも不在だし、国内メーカーもRPAを本気で扱っているのはむしろSI子会社の方だ。現在AIをメインストリームに構成するIT企業からすれば、RPAはブームに過ぎず、いったん導入後したらあとから面倒になる過渡期のソリューションとみなされている節がある。

 その一方、RPAの導入により、数千~数万時間/月という大幅な労働時間の削減を実現する事例が現れているのもまた事実だ。みずほ銀行(WinActor)、サントリー(Automation Anywhere)、住友商事(Blue Prism)、日本生命(BizRobo!)など名だたる企業がRPA導入で大きな効果を挙げている。RPAが本格的なブームになったのはこの数年なので、体感的にはクラウドよりもはるかに速く日本市場に受け入れられていると言える。

 もちろん、即効性があった事例ばかりではなく、失敗プロジェクトが累々と重ねられたところもある。実際、RPA DIGITAL WORLD 2019では、現場の生々しい失敗談や改善ノウハウなどが共有されていた。しかし、人手不足を横目に働き方改革を推進しなければならない経営者にとって、労働時間の削減はのどから手が出るほどほしい指標のはず。文句を言わずに、24時間働いてくれるロボットは経営者としては投資効果が高い。バイトテロや労務問題が企業の大きなリスクとして浮き上がる昨今、「人間を雇わないで済むなら、ロボットにお願いしたい」というのは経営者の本音ではないだろうか。

経営者だけでなく現場からも期待されるRPA

 経営者だけでなく、現場からの期待が高いのもRPAの特徴と言える。先日、参加したRPA DIGITAL WORLDもまさにRPAへの期待がにじみ出るような参加者の熱気が感じられた。なにより、RPAベンダーごとに設けられたデモブースでの参加者の食いつき方が半端ない。単なる情報収集フェーズを超え、自社業務のどの部分でRPAが使えるのかを探っているようだ。各ブースから聞こえる質問内容も具体的な業務の自動化に踏み込んだものも多く、正直AIを冠した展示会よりも参加者のレベルは高いように感じられた。

 RPAとセット販売しているSaaS事業者が現れているという点も面白かった。つくづく考えていることなのだが、最近のSaaSって高機能化しすぎて難しくなっていないだろうか? 1990年代の業務アプリケーションがWebブラウザ化し、クラウド化・モバイル化したことで身近になったのは事実だが、自分の経験上UI/UXが抜本的に変わったとは思えない。そのため、SaaSとともに、入力を省力化するRPAのボットを提供するというのはある意味合理的な提案だ。

 RPAを取り巻く状況は変化しつつある。昨年末、SAPはRPA市場への参入を発表。ERPの入力業務の効率化を実現するという。先日はAutomation Anywhereがマイクロソフトと提携し、Azure上でボットの実装を容易にすることを発表した。RPA DIGITAL WORLDでも、大手のRPAベンダーはこぞってAIや基幹システムとの連携を強調していた。過渡期のソリューションではなく、RPAはAI時代、デジタルトランスフォーメーションの入り口というのが彼らの主張だ。

 しかし、RPAの美点はITリテラシの高くないユーザーにとっつきやすい点、教えられたこと以外やらない点だ。個人的には、あくまでAIとは別路線で、コピペとクリックというシンプルなGUI操作を引き続き洗練させていくべきだと思う。「B級グルメ」という言葉が決してディスりではないのと同じく、RPAはAIとは異なるオルタナな選択肢として、ホワイトカラーの労苦を取り去ってほしいと思う。

 いずれにせよ、理想だけがやたら高くて現実味のないデジタルトランスフォーメーションより、目の前の手作業を高速にこなしてくれるロボットがほしい。これが人手不足で業務をこなしきれず疲弊した現場の声ではないだろうか? そこにAIやロボットに仕事をとられるという危機感はない。少なくとも毎日残業して帰ってくる事務職のうちの妻は、「ロボットが早く私の仕事を奪ってくれればいいのに」とよくこぼしている。

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