スタートアップの「ものづくりトラブルあるある話」を一掃する契約ガイドラインが凄い
契約ガイドライン策定業務検討会 座長小林茂教授インタビュー
スタートアップの心強い味方
IoTが急速に進展するなか、スタートアップがものづくりにトライする機運が高まっている。そういったスタートアップのものづくりを支援するために経済産業省が展開している「Startup Factory構築事業」。スタートアップのものづくりを支援する拠点の構築や事業者の連携支援を行なっているこの事業において目玉ともいえる施策が、スタートアップと製造業者間のトラブルをできる限り回避し、スムーズに製品を作るための契約ガイドラインの作成だ。
このガイドラインは正式名称を「ものづくりスタートアップのための契約ガイドライン」といい、実際の現場で活用できるものを目指して作られている。スタートアップや製造業者にヒアリングし、起こりがちなトラブルや事例などを集めた上で、弁護士や大学教授といった有識者が条文を起草している。
今回は、その契約ガイドライン策定業務検討会の座長を務めた情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] の小林茂教授に、検討会の様子やガイドラインの内容についてお話を伺った。
様々な経験則の詰まった契約ガイドライン
前述の通りStartup Factory構築事業はスタートアップ向けの設備やプログラムの用意など、スタートアップ企業を支援するための施策だ。しかし、その事業を進める上でのヒアリングにおいて、スタートアップと製造業者の協業が必ずしも上手くいっていないことが明らかになった。そしてその理由は、両者の文化の違いに起因する考え方の違いにあるらしいこともわかってきた。
スタートアップはスピードを重視し、事業を前に進めていきたいと考えているが、ものづくりについての経験は不足していることが多い。対して製造業者は、これまでの経験から製造物責任などを重視することもあり、どうしてもスピードなどに対する考え方に差が生じてしまう。
とはいえ、大手メーカーが取り組んできた製品群と、スタートアップが作ろうとしている製品群はまったく異なるもので、製造業者にとっては新たなチャレンジと未知の分野が開拓できる絶好の機会であり、ひいては業界の活性化も期待できる。
また、グローバルな視点で見たとき、中国発をはじめとする優秀なスタートアップが登場しており、日本のものづくりはそれらと正面から競争しなければならない。
日本のスタートアップと製造業者がコラボレーションすることで、スタートアップは自分たちだけではできないことが実現でき、製造業者は新たな挑戦によって技術の更新が進められ、ゆくゆくは世界レベルで戦える企業への成長が起こりうるのではないか――。そのためにも両者をつなぎ、より有用な連携が取れる契約ガイドラインが必要である、というのが今回の施策の背景だ。
小林教授は、「必要のないガイドラインを国から押しつけられるような形では役に立たないし、誰も使わない。多くのスタートアップに使ってもらうにはどうすればいいだろうというところから話し合った」と語る。実際のヒアリングから出てきた内容について有識者で精査し、スタートアップと製造業者双方に有益な契約ガイドラインを目指したという。
法務部が存在する大企業であれば、きちんとした契約を結んだり、当該分野が得意な弁護士と契約していたりするが、そもそもスタートアップには法務部門がなく、製造業者側もいわゆる町工場のような規模となると法務担当はいないケースがほとんどだ。さらに言えば、海外から発注があった場合、契約手順からして理解できない、といったことも考えられる。
契約は双方にとって共通する課題であり、その道標となるのが今回制作されているガイドラインとなる。
量産化トラブルあるある:要求・要件定義編
■製造業者に試作前の相談を無料でお願いしていたら、詳細検討開始から数ヵ月経ってから「(うちでは)要求を満たすものが作れない」と返されて大幅な計画遅れが発生した。
小林座長のワンポイントコメント
製造業者は様々な案件を受けているため、これまでの取引での信頼関係や大口の発注といったものを優先する傾向はある。
スタートアップからの話が面白そうだと思い、受けてみたのはいいが、細かいところまで見ておらず、あらためて確認したら課題が見つかり、これはできない、ということが後になってわかるというケースもある。
こうしたことを避けるためには、最初の段階から製造業者に対してコンサルティングフィーを支払いながら相談に乗ってもらうことで優先順位を上げることが重要。費用はかかるが、時間をミニマムにすることができ、その業者で難しいということになったらすぐに他の業者を当たれるので、時間の浪費というスタートアップが最も避けたいリスクを防ぐことができる。