2018年11月8日、レッドハットの年次イベント「Red Hat Forum Tokyo 2018」に合わせて来日した米Red Hat 社長 兼 CEOのジム・ホワイトハースト氏が記者会見を開き、IBMによる買収について質疑応答した。米国時間10月28日に発表されたIBMによるRed Hatの買収は、まだ規制当局の承認を得ていない段階にあり、ホワイトハースト氏は「詳細はまだ話せない」としながらも、会見では本件についてRed Hatの見解を丁寧に語ってくれた。
Red Hatの業績は好調、OpenShiftのユーザー数は年率91%増
質疑応答に先立ち、ホワイトハースト氏はRed Hatの直近の業績を紹介。2019会計年度第2四半期(6~8月)の売上高は8億2300万ドルで前年同期比14%増、これで66四半期連続の売上増加を達成した。
製品別のユーザー数の年平均伸び率をみると、Kubernetesベースのコンテナアプリケーションプラットフォーム製品「Red Hat OpenShift」は91%、IaaS構成ソフトウェアのOpenStackディストリビューション「Red Hat OpenStack Platform」は34%、構成管理ツール「Red Hat Ansible Tower」は81%となっている。「KubernetesによるインフラのモダナイズのニーズでOpenShiftは引き続き好調。OpenStackも顧客数が500社を超え、特にエンタープライズの顧客に使われるようになった。また、Ansibleもエンタープライズの様々なシステムの自動化に使われるようになり、特にセキュリティの自動化、ネットワークの自動化に関心が高まっている」(ホワイトハースト氏)。
新製品として、米国時間10月30日にLinuxディストリビューションの新版「Red Hat Enterprise Linux 7.6」の提供を開始した。デプロイメントやリモート管理を自動化するAnsibleモジュールをまとめた「Red Hat Enterprise Linux System Roles」をサポートしたほか、RHELに含まれる軽量コンテナツールキットを拡張。コンテナツールキットは、Open Container Initiative(OCI)フォーマットに準拠するBuildah、Skopeo、CRI-O、および今回新たに追加されたPodmanで構成される。Podmanの導入により、ユーザーはデーモンを介在させる必要なしに使い慣れたコマンドインタフェースからコンテナやPodを実行できるようになる。
また、米国時間10月23日に、NVIDIAのGPU搭載ディープラーニング用スパコン「NVIDIA DGX-1」上で動作するシステSとしてRHELが認定された。RHELが認定システムとなったことで、Red Hat OpenShiftを含むRed Hat製品をNVIDIA-DGX-1にデプロイし、2社で共同サポートすることが可能になった。
IBMマネーでKubernetesの課題解決にもっと投資できる
以下は、IBMによる買収に関するホワイトハースト氏の主な質疑応答の内容。
- Red Hatの今があるのは、IBMが初期のLinuxに10億ドルを投資したからだ。IBMはオープンソースへの大きな貢献者であり、Red Hatを買収したのが投資会社などではなくIBMでよかったと思っている(なぜIBMだったのかという質問に対して)。
- この先、多くの企業のアプリケーションがクラウドへ行く。その中で、Red Hatのオープンハイブリッドクラウドを広めるためには、どのくらい多くのユーザーにデフォルトのアーキテクチャとして選ばれるかが重要になる。Red Hatの営業リソースは1000人ほどで影響できる範囲は限られるが、IBMは何万人規模の営業リソースを持っている。IBMと統合することで、Red Hatが今やっていることを拡大できる(業績好調なのになぜ買収に合意したのかとの質問に対して)。
- オープンハイブリッドクラウドを実現するために、我々はもっとKubernetesに投資をしたかった。Kubernetesの、ネットワーク、セキュリティ、アプリケーションのパフォーマンスにはまだ課題があり、この課題を解決していきたかった。信頼性、拡張性、安定性の向上にも投資をしたかった。IBMに買収されることで、そのようなオープンソースプロジェクトに投資できる資金を得た。我々はリーダーとしてオープンソースを守る。
- 今後、IBMはRed Hatの製品を販売することになるが、逆はない(Red HatがIBMの製品を売ることはない)。IBMは、Red HatがIBMのソフトウェア、ハードウェアを売ることに興味がないのを知っている。オープンハイブリッドクラウドで重要なのは、IBMのアプリケーションがハードウェアの種類、AWS、Alibaba Cloud、Azureなどクラウドの種類によらずどのプラットフォームでも動くことであり、そのためにRed Hatは独立した組織として、中立であり続ける。
国内でもクラウドパートナー各社との協業が加速
Red Hatのいう「オープンハイブリッドクラウド」とは、Linuxと、Linux上で稼働するOpenStackやKubernetesなどのオープンソースを使って、物理サーバー、仮想サーバー、プライベートクラウド、パブリッククラウドのどのプラットフォームでもアプリケーションが一貫して動くアーキテクチャのこと。ハードウェアベンダーやパブリッククラウドベンダーとのパートナーシップを前提とした構想であり、Red HatはIBM傘下になったのちも、これまでのパートナーシップを強化していくとしている。
国内でも、「クラウドパートナー(日本法人)各社との協業は順調に進んでいる」とレッドハット 望月弘一 代表取締役社長。また、国内企業がRed HatのOpenStackを基盤にOpenShiftのコンテナアプリケーション稼働環境を構築する事例が増えているという。富士通は、2019年3月にOpenShift on OpenStackの環境をマネージドでサービス提供することも発表している。