このページの本文へ

「IBM THINK 2019」で討論、Linux FoundationやCloud Foundry Foundation、AT&Tなどが課題と取り組みを語る

オープンソースと「貢献」、ユーザー企業はどう取り組むべきか?

2019年03月01日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「IBM」と「オープンソース」の組み合わせは新しいものではない。だが、2018年秋に発表したレッドハット買収は業界を驚かせた。2月に開催された「IBM Think 2019」では、IBMの会長兼社長、CEOのジニー・ロメッティ氏が、Linux Foundationらオープンソース関連の非営利団体やユーザー企業などとパネルディスカッションを行い、エンタープライズとオープンソースをめぐる現状や課題について語り合った。

「オープンソース:エンタープライズにおけるイノベーションと未来の礎石」と題して開催されたパネルディスカッション

 この日パネリストとして参加したのは、Linux Foundation 執行ディレクターのジム・ゼムリン氏、Cloud Foundry Foundation 執行ディレクターのアビー・カーンズ氏、市場調査会社レッドモンクの主席アナリスト兼共同創業者のスティーブ・オグレディ氏、AT&TでAT&T Labsプレジデント兼CTOを務めるアンドレ・フーエッチ氏、モルガンスタンレーでリスクマネジメント部門執行ディレクターを務めるマルチェロ・ラブレ(Dr. Marcelo Labre)氏の5名だ。

オープンソースの現状――「良い循環」が生み出す収益

 セッション冒頭、IBM 開発者エコシステム担当SVPのボブ・ロード氏が登壇し、オープンソースに対するIBMの見解を簡単に説明した。IBMでは2000年、Linuxに対する10億ドルの投資を行ったのを皮切りに、Linuxをはじめとしたオープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトやコミュニティへの積極的な関与を続けてきた。そして“エンタープライズOSSベンダー”レッドハットの約340億ドルを投じる買収は、IBMのマルチクラウド戦略に向けた布石と捉えることができる。この買収は年内完了を見込む。

IBMでコグニティブアプリケーション&開発者エコシステム担当SVPを務めるボブ・ロード(Bob Lord)氏

 ロード氏は、エンタープライズがオープンソースプロダクトを利用することで得られるメリットとして「ベンダーロックインの排除、移植性、相互運用性、開発者のスキル確保、迅速なイノベーション」などを挙げる。特に「迅速なイノベーション」についてはオープンさが重要であり、「量子コンピューター、ブロックチェーン、クラウドなど、IBMの重要なイニシアティブはすべてオープンなテクノロジーを土台としている。オープンソース、オープンなデータ、オープンな標準、そして計画的にオープンなアーキテクチャを持たせている」と語る。

 パネリスト5名が登壇し、モデレーター役に就いたロメッティ氏も、「IBMでは、オープンソースにできるものはできるだけそうしたいと考えている」と、OSSに対する姿勢を説明する。

モデレーターを務めたIBM 会長件社長、CEOのジニー・ロメッティ(Ginni Rometty)氏

 ディスカッションの1つめのテーマは「エンタープライズにおけるオープンソース活用の現状」だった。Linux Foundationのジム・ゼムリン氏は、現状について「オープンソースは、最新のコンピューティングにおけるあらゆる側面での原動力となっている。そして、企業はオープンソースで儲けている」と断言した。クラウドファーストならぬ“オープンソースファースト”の動きもある。

 企業が積極的なオープンソース活用を図る背景には「良い循環」があると、ゼムリン氏は説明する。社内のエンジニアが顧客の要件を理解し、プロジェクトを改善すれば製品がよくなる。企業の収益は増えて、新しい市場をもたらす――。「この循環が拡大すると同時に加速している。これがオープンソースの現在だ」(ゼムリン氏)。

Linux Foundation 執行ディレクターのジム・ゼムリン(Jim Zemlin)氏

 オープンソースは、企業におけるテクノロジーの流れを「下から上へ(ボトムアップに)」に変えたと指摘するのは、レッドモンクのオグレディ氏である。「歴史的に、テクノロジーはトップダウンで採用されてきた。だが、エンタープライズにおけるオープンソースプロジェクトの成長から、ボトムアップの動きが起きている」(オグレディ氏)。IBMによると、企業のIT実装に開発者が影響を及ぼす比率は95%に高まっており、開発者の半数は製品導入の意思決定も行っているという。

 一方で、オープンソースは1950年代から60年代にかけてのソフトウェア共有の動きと似ており、「実は、オープンソースは古い歴史を持つものと言ってよいのでは」とも指摘する。「当時ユーザーグループと呼ばれていたものが“シェア(共有)”になり、ディストリビューション(ソフトウェア配布物)を作成するプロセスが“オープンソース”になった」(オグレディ氏)。その後、Windowsなどが台頭したことで「ソフトウェアはプロプライエタリなもの」という考えが一般的になったが、「開発者は常にオープンソースを選んできた」と述べる。

市場調査会社レッドモンクの主席アナリスト兼共同創業者のスティーブ・オグレディ(Steve O'Grady)氏

 ゼムリン氏によると、現在ではLinuxカーネル開発に参加する開発者の9割以上を、企業に雇用されている開発者が占めるという。

 こうしたことから、オープンソースのムーブメントは将来も続くと予想される一方で、オグレディ氏は「システマティックな問題を解決しなければならない」と指摘する。特に大きな問題は、次の3つだ。

(1)貢献:OSSを消費する(利用する)一方で貢献しないユーザー(企業)の存在をどう捉えるか。
(2)ライセンス:企業がライセンスを再定義したりぼやかすことで、オープンソースライセンスか否かの線引きが不明瞭になっている。
(3)ビジネスモデル:オープンソース利用についてのビジネスモデルが進化を妨げる課題を生み出している。

どうやってオープンソースへの貢献を促すか?

 今回のパネルディスカッションでは特に(1)の「貢献」について、参加者が意見を交わした。

 Cloud Foundryのカーンズ氏は、「オープンソースの素晴らしい点は、貢献に基づいてガバナンスが敷かれること。企業であっても個人貢献者であっても、時間をかけて貢献すれば、プロジェクトの方向性を左右できる」と語る。逆に言うと、貢献なしにはそのプロジェクトの将来は約束されないということになる。「コンスタントに、有機的かつ持続性のある貢献がないと、プロジェクトは最終的に停滞する」(カーンズ氏)。

 ひとくちに「貢献」と言っても、それにはさまざまな形がありうる。カーンズ氏は「コードを書くだけではない。たとえば(オープンソ-ス採用によるビジネス成功という)ストーリーを伝えて、ほかの人の参加を奨励することも『貢献』のひとつだ」と説明する。

Cloud Foundry Foundation 執行ディレクターのアビー・カーンズ(Abby Kearns)氏

 ユーザー企業側の取り組みはどうか。AT&Tのフーエッチ氏は、同社のネットワークはかつて大量のハードウェアで構成されていたが、数年前からソフトウェア中心へと大きな転換を図っており、企業文化も“ソフトウェア企業”へと変革している最中だと語る。そこにおいて中心となっているのがオープンソースだ。実際に通信/ネットワーク領域でも、Linux Foundationの「OpenDaylight」など多数のオープンソースプロジェクトが立ち上がっており、AT&Tもそのプロジェクトに参加している。

 AT&Tでは、こうしたオープンソースのコミュニティ組織と協業しながらコアとなるプログラムへの貢献(コントリビューション)を行っている。このとき、社内開発者の参加を奨励するために「コミット数」や「コード行数」といった評価指標に透明性を持たせていると、フーエッチ氏は説明する。

 社員参加を促すために用意したのが「バッチプログラム」だ。開発者個人のスキルや専門知識を認定するのが目的だが、会社ではなく個人のキャリアパスにも役立っているようだ。「オープンソースプロジェクトに参加する開発者が、自身のアイデンティティを確立できる。開発者は数年ごとに転職するのが常だが、雇用主が変わっても継続して(プロジェクトに)貢献できる」(フーエッチ氏)。

 また特定のプロジェクトに携わっているグループには業界を超えて参加するよう奨励しており、オープンソース関連のカンファレンスや集まりへの参加も積極的に促す。これは社内開発者の大きな後押しになっているという。

AT&TでAT&T Labsプレジデント兼CTOを務めるアンドレ・フーエッチ(Andre Fuetsch)氏

 多くの企業から「オープンソース企業になるにはどうすればよいか?」というアドバイスを求められるというゼムリン氏は、そのひとつの答えとしてIBMにおける取り組みを紹介した。

 「IBMでは最初、Linuxプロジェクトへの貢献を始めたとき、参加を奨励するために、開発者がIBMのビジネス要件にあうものを提出して最終的にLinuxカーネルに取り込まれたコードの量に応じて報酬を払うことにした。しかしこの方法はうまく機能せず、Linuxカーネルに取り込まれるコードはなかった。そこでIBMのマネージャーは考え方を変えて、IBM社員が書いたコードかどうかは関係なく、IBMが求める機能要件がプロジェクトに採用されることに対して報酬を支払うことにした。その結果、貢献は増えた」(ゼムリン氏)

 さらにゼムリン氏は、兼任でも良いので「オープンソースオフィス(オープンソース担当者、担当部署)」を社内に設けることも提案した。

 レッドモンクのオグレディ氏は、「なぜオープンにすべきか」ではなく「なぜクローズドでなければならないのか」と視点を変えることで、貢献が増えるのではないかとアドバイスした。「開発者は十中八九、オープンにしたいと考えているのだから」(オグレディ氏)。

 またカーンズ氏は「時間的な余裕」も鍵を握るひとつの要素だと指摘する。「グローバル調査によると、30%の開発者がオープンソースへの貢献活動を行っている組織で、時間に余裕が生まれると貢献する開発者は80%に増えた」(カーンズ氏)。仕事が終わった後の夜間や週末に貢献活動を行うことを期待するのではなく、企業は就業時間内に時間を与えることが必要だと主張した。

訂正とお詫び:記事掲載当初、パネリスト各氏の写真と氏名がずれて掲載されておりました(現在は修正済みです)。お詫びのうえ訂正いたします。(2019年3月1日)

カテゴリートップへ

ピックアップ