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鍵は現場部門と情報システム部、ベンダーとの連携

明電舎がRPA導入で作業時間を1/4へ 本丸は業務の洗い出しと改善

2018年08月03日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

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 121周年目を迎えた電気機器メーカーの明電舎は、昨年からRPA(Robotic Process Automation)を用いた業務改善に乗り出している。RPAにより単に作業時間を短縮するだけではなく、業務を棚卸し、改善につなげようというプロジェクトは、情報システム部と現場部門との強い信頼関係をベースに確実に成果を上げている。

実のある働き方改革のためにパイロットプロジェクトからスタート

 明電舎がRPAの検討を始めたのは、RPAが盛り上がりを見せてきた2017年だ。「働き方改革で労働時間の削減を謳っていても、業務自体を減らさず、時間を減らせというのは難しい。そんな中、RPAを当社でも使えないか、年間予算とは別に予算をとって、事業部に評価をお願いしたのがきっかけです」と明電舎 情報システム部 IT企画部長 天野純一氏は語る。

明電舎 情報システム部 IT企画部長 天野純一氏

 今回明電舎がRPA製品として使ったのは、国内で実績の高いRPAテクノロジーズの「BizRobo」になる。導入の背景について天野氏は「今回導入のコンサルティングをしてくれたリコージャパン(以下、リコー)様が導入で大きな効果を出していたのが1つ。あとは野良ロボなどの懸念があったため、今回はサーバー型のBizRoboを採用しました」と語る。実際使ってみたところ、集中管理ができる点やデスクトップ型RPAの機能が一部利用できるという点で評価も高かったという。

 RPAの有効性を評価するパイロットプロジェクトでは、まずは本社の定型業務のうち、4つの業務をロボット化してみたという。具体的には、財務部で行なっていた支払金額チェック、広報部による記事のクリッピング、技術情報の収集、IT部門でのシステムのマスター登録などをロボット化したという。

 本社と並行して工場でもパイロットプロジェクトを動かした。こちらは工場でのデータ加工、月次のシステムデータ処理、営業の入力した受注書の登録作業、調達する資材のリスト登録などの4業務をロボット化した。この結果、おおむね20~80%の業務時間の削減が見込めたため、さまざまな業務に展開することになったという。

煩雑や業務フローと人手不足が課題だった現場が手を上げる

 パイロットプロジェクトから積極的にRPA化に携わり、そのまま本番まで移行したのが、同社の資材グループになる。同グループがRPA化を推進した背景について資材グループの宮澤健氏は、「現状、国内に比べて海外部門は資材調達のシステムが追いついていません。書類や業務が煩雑で、決定的なのはスキルを持った人が少ないことです。こうした課題からRPAをうまく活用できないかと思い、手を上げさせてもらいました」と語る。

明電舎 資材グループ グローバル調達部 副部長 兼 グループ調達課長 宮澤健氏

 今回資材グループがRPA化を進めたのは、海外発注業務での注文書発行、社内システムへの書類登録、契約合意の確認の3つになる。

 たとえば、注文書発行のフローを見ると、価格や支払い条件の交渉や注文書の編集、上長決裁の承認などは人間でしかできないが、注文書へのサインやPDF化、海外取引先へメールなどはRPA化が可能だった。今までは上長がサインをし、注文書をPDF化して、メールするといった手作業だったが、RPAの導入により、担当者はPDFや文面を確認し、メールで送れば作業が完了するようになった。

 他の業務も決まっている手順が多かったため、かなりの行程でRPA化が可能だったという。2つ目の書類に関しても指定された共有フォルダーに格納すると、1日3回ロボがバッチ的に起動して、ファイル名を自動的に作成し、社内システムに登録してくれる。3つ目は、注文書発行依頼から10日経っても契約成立のサインが戻ってこない場合、未受領の注文番号を自動抽出してExcel表にまとめて発注担当者に送るという処理。「海外での受発注業務は、サインを確実に受領してから進めないと、契約合意に至らないので、この作業は非常に重要なんです。毎月第2、第4木曜日に実施しているのですが、RPAは作業を忘れないので助かっています」と宮澤氏は語る。

 明電舎の大崎地区で実施された今回のRPA検証では、1件あたり20分の作業が5分にまで短縮されることが実証された。他地区に展開することで、年間7200件・2400時間かかっていた業務が600時間にまで短縮されることになるため、横展開にも大きな期待がかかっている。

苦労はRPA自体の理解と業務内容の洗い出し

 今回のパイロットプロジェクトは資材グループがRPA化を進める業務をリスト化し、それを情報システム部やリコーと共有しながら、打ち合わせを重ねていった。資材グループでRPAプロジェクトを先導した大日向 知子氏も、情報システム部やリコーのメンバーとの打ち合わせや実際のプログラミングでRPAを理解していったという。「画面を見せて、操作をコマごと見せていき、日常業務のどこをRPA化できるかをレビューしていきました。こうして仕分けし、実際にプログラムしていくことで、RPAについて理解していきました」と大日向氏は語る。

明電舎 資材グループ グローバル調達部 グループ調達課 主任 大日向 知子氏

 初めてのRPA導入ということで、苦労もあった。まずは現場の人にRPA自体を理解してもらうこと。ITに関わる人間であれば、RPAについては一目置いているだろうが、多くのビジネスマンにとってRPAという用語になじみがない。「RPAとAIの区別もよくわからなかったし、ロボットが来て、一から十まで全部やってくれるイメージがありました」と宮澤氏は笑う。情報システム部も社内セミナーを実施していたが、ルールに従って、定型業務をやってくれるというRPAの役割は実際に手を動かさないと理解してもらえなかったという。

 一番大変だったのは、やはりRPAの手前の作業として、業務内容を洗い出していくこと。「頭では理解しているものの、それを文章に起こし、画面とともにマニュアル化するのはけっこうな労力がかかりました。しかも、そのプロセスがなぜ必要なのか、情報システム部や外部のリコー様にも理解してもらう必要がありました」(大日向氏)。

 しかし、どこまで人が担当し、どこまでRPAに任せるかは、試行錯誤を繰り返さないと難しいという。「やはりRPAは機械なので、どのような業務をRPA化しているか、きちんとマニュアル化しておく必要があります。処理に待ち時間が発生すると、エラーになってしまうこともあるので、情報システム部やリコー様と確認しながら、対処方法を考えました」(大日向氏)。

 こうした中、今回明電舎でスピーディなRPA導入が進んだのは、情報システム部とリコー、そして現場の資材グループが緊密に連携したことに尽きるようだ。「内線電話で気軽に相談して、エラー対応や優先度の高いタスクを仕上げてもらいました。非常に助かりました」(大日向氏)とのことで、情報システム部は専門のRPAチームを組織して現場ファーストを貫いた。

RPAのために業務を洗い出しすると、業務改善が進む

 一方で、RPA化に向けた業務の洗い出しを行なうと、業務改善につながるというメリットがあった。「今までこうやってきたけど、こうできるんじゃないという気づきを得られます。業務内容を再確認するいい機会になると思いました」(大日向氏)。情報システム部の天野氏も、「業務改善と手段としてのRPAを現場で実践してくれているということで、まさにわれわれの意図通り。ありがたい限りです」と語る。

「業務内容を再確認するいい機会になると思いました」(大日向氏)

 情報システム部としても、本丸はRPA導入ではなく、業務改善だ。現在、情報システム部は各部署のキーマンにRPAを全体として業務の洗い出しを依頼しており、どんなシステムを使っていて、どんな頻度で、どんなことをやっているかなどをリスト化している最中。こうして現場が業務を洗い出すことで、改めて要らない作業に気がついたり、RPAよりもシステム改修した方がよい業務をピックアップできるとのこと。また、RPA化を推進することで、結果的に詳細な業務マニュアルが作成されるため、結果的には引き継ぎにも活用できる。まさに一石三鳥くらいのメリット。「感覚的にはRPA化できる業務はざっくり3割。でも、RPAがトリガーになって業務改善にまで進めばいい」と天野氏は語る。

 今回のRPA導入は今まで乖離しがちな現場と情シスの方向性がきちんとマッチした希有な例と言えるかもしれない。「情報システム部が知らない業務もけっこうありましたし、手作業が多いのも意外でした。実際に現場にヒアリングすることで、業務への理解を深めることができ、ひいては基幹システムの改修などのヒントも数多く得られました」と天野氏は語る。

覚悟はいるけど、業務の効率化にはとてもいいツール

 現在、情報システム部では3チーム体制でRPAプロジェクトを進めている。天野氏は、「2チームは長時間露労働になりがちな工場を担当しており、1つの工場で作ったロボの横展開を進めています。目論んでいます。残りの1チームは本社、支社、支店を担当。各部門にヒアリングを進めながら、比較的RPA化が容易な業務、効果が大きい業務を優先に導入を進めています」と語る。

 今後の課題は本社や工場に比べてRPAの認知が進んでない支社・支店での対応、プロジェクトのスピードアップ、さらにはロボが増えた場合の管理の問題だ。「大日向さんくらいRPAに理解のある方をいかに各部門に増やしていくかが大きな課題です」と天野氏は語る。

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 RPAが実現するのは、あくまで既存のPC操作の自動化に過ぎない。そのため、「本格的なAI導入までの場つなぎ」や「RPAより本来改善すべきは業務プロセス」と言われたり、さまざまな意見があるのも事実だ。しかし、働き方改革を主軸にした今回の事例を聞く限り、ペーパーレス化や業務の棚卸しなどをスピーディに進める目的の1つとして、RPAはうまく機能しているように思える。ともすればコミュニケーションロスに陥りがちな現場部門と情報システム部、ベンダーがRPAを真ん中に対話を重ねているという点が個人的には興味深く感じられた。取材の最後、導入プロジェクトを現場で主導した大日向氏にRPAのメリットを聞くと、「ルールと手順を棚卸ししなければならないので、導入するのにはある程度覚悟が要りますが、業務の効率化を実現するためにとてもいいツールだと思います」と感想を語ってくれた。こうした現場の意見を情報システム部やベンダーは、無視すべきではないだろう。

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