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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。
家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。2月に赤ちゃんが生まれて8週間の育休を取り、無事職場復帰して1ヵ月半になります。赤ちゃんは生後4ヵ月に入り、「アイ・ウェイウェイ~」と現代アート的言語を駆使するようになりました。明け方4時に目をさまし、20分ほどウェイ語でしゃべりつづけています。きみは誰かと交信しているのか。
先週Facebookで募集した「赤ちゃんビフォー・アフター」にはたくさんのメッセージをいただきました。ありがとうございます。すべてをとりあげたいのですが、中でも女性のAさんから教えていただいた「ベビーサイン」のエピソードがめちゃ面白く、響いたのでご紹介させていただきます。生後9ヵ月の頃、まだおしゃべりできない赤ちゃんと手話のようなサインを通じてコミュニケーションがとれたことで、育児の孤独感が激変したという話です。
まずはメッセージをご紹介しましょう。
「はっぱだね」の感動
はじめまして。コラム、楽しく拝見しています。うちの子は10歳長女と7歳長男。初めての赤ちゃんがもう10年前だなんて! 今さらながらに驚きです。長女の時は初めての子育てで、うちの両親にとっても初めての孫で、それはもう、上にも下にも置かぬ扱い(赤ちゃんだけ)でした。
私はといえば生後3ヵ月で腱鞘炎になり、自分の可憐さ、いえ、ひ弱さを実感しました。赤ちゃん暮らしで私がやってよかったのは、賛否あると思いますが、ベビーサインと、大学の赤ちゃん研究の被験者?です。ひっきりなしにじじばばが来るという環境では、孤独ではなかったのですが、いつも精神的にいっぱいで余裕なんかありませんでした。いつも空気の少ない水槽で泳ぐ金魚みたいだったと思います。ベビーサインは眼から鱗の体験もしましたし、そこから赤ちゃん研究にも興味がわき、お手伝いというか被験者に応募しました。どちらも世界を広げてくれました。
ベビーサインは、当時はまだ走りだったと思います。赤ちゃん雑誌の付録に薄い冊子が付いていましたが、こんなのがあるんだくらいに思って放っていました。赤ちゃんの認知能力的にもママの努力対効果的にも8ヵ月くらいからで大丈夫、と書いてあったので。その間、図書館で本をちらっと見たり、検索してメーリングリストを取ったりしていました。
7ヵ月を過ぎたくらいから、完母(※完全母乳育児)だったので、まずはおっぱいだろう、とそのサインから始めました。授乳するときに「おっぱい、飲もうねぇ」といいながらサインをしました。それを繰り返しました。ポイントは期待値ゼロで、です。本当に手話というか、合図のつもりで、です。9ヵ月くらいあたりから、「おっぱいだねぇ」とサインしていると飲みながら手が真似するように動きました。びっくりしました。ある日突然です。それからは「おっぱい」「おいしい」「痛い」……と少しずつサインを増やしました。
考えてみると、赤ちゃんを見て舌を出したら真似をする、それができるくらいから始めるということだったのかな、と思います。
「おいしい」のサインをしてくれるときの喜びとか可愛さとか、本当に昇天しそうでした。あと、「痛い」も使えました。ちょっと目を離したときに何かに打ったのか泣きながら「痛い」のサインをしたときは、「そっか痛かったか よしよし」とすぐにリアクションできましたから。
ベビーサインは手話、言語だと思っていたのですが、違いました。コミュニケーションツールでした。ただ泣いてるだけの赤ちゃんではなくて、コミュニケーションの取れる相手だとわかると、精神的な孤独感は変わりました。子育て、赤ちゃんと過ごす時間って、これが楽しいんだ、とわかった気がしました。
いくつかサインを覚えて「お散歩いこうね」とベビーカーで外に出た日があります。私は「あったかいね」とか「飛行機雲だね」と話しかけてましたが、娘は違うサインをしていました。何のサインかというと「はっぱ」でした。「はっぱだね はっぱ はっぱ」。考えてみたら、私の視点と娘の視点ではものの見え方が、あたりまえですけど、違います。背の高さが違いますから。それは、ショックというか、そっかぁ!と目から鱗でした。私が見てるものをっていう一方的な語りかけじゃなくて、娘が見ているものを教えてくれる、これって本当にコミュニケーションだ!と思ったからです。なんか、そのときの発見のうれしさを思い出して、ドラマ仕立て臭がしますが、本当に目から鱗でした。赤ちゃんって、いっぱい見て、感じて、伝えたいことたくさんあるんだな、と。
手話から始まったベビーサイン
メッセージはそんなものでした。AさんはもともとIT系メーカーにお勤めで、仕事に追われる日々だったといい、「仕事モード」から「親モード」に心をスイッチするきっかけになったのもベビーサインだったそうです。
「在職中は1週間休むのが怖くて、毎日走って生活してるような感じでした。育休中も始めは社会と断絶されるような気がして怖くて、それこそ、チャットで会社の後輩にアドバイスしたりPCを立ち上げていたことも多かったのですが、半年過ぎて、サインしだして長女と向き合うことができて、育休、満喫するぞっ!と思えました」(Aさん)
メッセージを読み終えたわたしはウオーと興奮。すごい! やりたい! と妻に速攻でLINEしました。行動派の妻はすぐ吉中みちるさんの『今すぐできるかんたんベビーサイン』(遊タイム出版)を見つけてきました。仕事が早いです。赤ちゃんは4ヵ月健診を終えたばかりでまだサインを始めるには早すぎるのですが、まあ調べるのに早くて悪いことはありません。
あらためてベビーサインとは、児童心理学者リンダ・アクレドロ博士とスーザン・グッドウィン博士(Acredolo, L. & Goodwyn, S)がアメリカで考案した育児法。1996年にサインの研究成果をまとめた本『BABY SIGN』が流行し、普及したものだそうです。
基本は、話しかけながら手ぶりをすることでまだ発話ができない赤ちゃんとコミュニケーションをとること。本では代表的なサインを教えていますが、「これでないとダメ」という厳密な取り決めはないようです。親と赤ちゃんの間の暗号のようなものですね。
埼玉学園大学 赤津純子先生の論文「象徴的身振り(ベビーサイン)の保育に与える影響Ⅰ」によれば、本物の手話も源だそうです。
“聴覚障害者を両親に持つ健常の乳児が手話を用いてその両親と話し言葉より早い時期からコミュニケーションをすることに注目したガーシア(Garcia, J.)の研究と、自分の娘がコミュニケーションの手段として言葉が話せるようになるよりも早い時期から自発的に身振りを使うことに注目したアレクドロ (Acredolo, L. P.)らの研究が始めであるといわれている”(引用)
なるほど。生まれつき耳の聞こえない写真家・齋藤陽道さんがツイッターで「こどもが初めて『おとうさん』と手話で言った。親指だけを立てることはまだできなくて人差し指でだった」と書いていたことを思い出して感動しました。赤ちゃんの能力はわたしが想像しているよりはるかに大きいものなのだと驚かされます。
赤ちゃんは2~3ヵ月程度からアーウー(クーイング)期に入りはじめ、4ヵ月程度からバブー(喃語)期に移ります。その後、おしゃべりをできるようになるまでは差があります。厚労省の乳幼児身体発育調査報告書によれば、生後7ヵ月からしゃべるようになる子もいれば、1歳7ヵ月で初めてしゃべる子もいるなど、大きな個人差があります。その音声発話までの間をつなぐコミュニケーションツールとして、ベビーサインは使えるようです。
『今すぐできるかんたんベビーサイン』では、サインの利点を4つあげています。
1.育児におけるストレスを減らす
2.赤ちゃんの安全確保と健康維持に役立つ
3.親子の絆が深まる
4.赤ちゃんのコミュニケーション能力を育む
やはり、親と赤ちゃんが接しているときのストレスがおたがいに減るというよさが大きいのだろうと感じます。一方、ベビーサインには否定的な意見もあります。
代表的なものは「むしろ発話が遅れるようになるので、使うのは0歳児までにとどめておいたほうがいい」という説。探してみるとたしかにブログの記事がいくつか見つかります。「とにかく言葉が遅い子供がいた」あるいは「保育園ではしゃべっていたのに家ではサインを使っていた」といったもの。ただ、ベビーサインは「言語発達を促しもせず、妨げもしない」(Howlett, N.; Kirk, E.; Pine, K.J. 2011)とする報告も上がっており、個人差なのかなとも感じます。実際は発話できるようになっていてもサインを使う人にはサインで答えようとする意思が子供にあるのかもしれません。
Aさんも、こうした賛否があると理解した上で、教育効果などに期待をすることはなく、コミュニケーションツールのひとつとして簡単なサインを使うことにしたと書いていました。
「ベビーサインはコミュニケーションなのであって、例えばインターホンのチャイムのことを『ピンポン押して』とか、電子レンジにかけることを『チンして』とか、おうち言葉みたいな感覚でいる方が、習得するって力みもいらないし、良かったのだろうな、と思います。本にあるサインにとらわれず“おうちサイン”でもいいのだと思います。私にとっては、赤ちゃんとコミュニケーション取れるんだ、バウリンガルとかいらないんだ! という発見がその後の子育てでもキモだったなと思います」
●育児は賛否あるもの
育児方法というのは何かと賛否が分かれるものですが、わたしと妻は基本的に親子がよさそうなことはドンドン試していきたいほうです。
コラム第10回 地獄日記にも書きましたが、育児の孤独はとてもつらい無間地獄です。孤独の根源は1人でいるということではなく、だれかがそばにいるのに話ができないというところから来ます。寝かしつけのときなど理由なくワギャーンと泣いている赤ちゃんを抱っこしていると親としての無力さを感じて心が無になっていきます。親がこれだけ孤独のつらさを感じているのだから、赤ちゃんはもっと心細いのではないかと感じます。そのとき赤ちゃんに備わっている能力を借りて悩みが消えるなら、こんなにうれしいことはありません。希望です。
まずは試してみた結果、ウェイ語からベビーサインへの進展があればコラムで紹介したいと思いますので、みなさまお見守りいただければ幸いです。Aさんには貴重な体験を教えていただき、本当にありがとうございました。
ちなみにAさんが言っていた大学の研究は「赤ちゃん研究員」。発達心理学研究のため「動画を見せて反応を見る」など簡単な実験に協力するもので、様々な大学が研究員を募集しています。怖そうな実験ではなく研究自体にも興味があるので、わが家でもある大学の研究所に応募してみました。こちらも楽しみです。
長くなりましたが今回はこれで終わり。赤ちゃんが生まれて変わったことを教えていただく「赤ちゃんビフォー・アフター」はFacebookで引き続き募集しています。Twitterからもご応募ください。連載は続きます。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中。
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