満員電車で押されても大丈夫な加圧振動試験
満員電車のお客さんがノートPCをリュックなどに入れて乗った際、割れたというケースがあり、それに耐えられる製品を目指すべく導入された試験。「満員電車ってどのくらい圧力がかかるか意外とわからないですが、実際に感圧紙をノートPCの間に挟んで、中央線などの満員電車にのって調べた結果、150kg/重以上ということで、その設定で試験をしています」(海口さん)。
圧力だけでなく、電車では振動も加わるため、ランダム にいろんな周波数で揺れるようにして試験をしている。これを1時間ぶっ続けで行ない、試験したあとにきちんと動作することが条件。動かなければパスできないそうだ。発表会でノートPCの上に人が乗るパフォーマンスを見せているが、理論上は150kgの人が乗っても壊れないということになる。
中身だけに働く衝撃試験
先ほどの落下試験と違い、外に衝撃を加えるのではなく、中に衝撃を与えるもの。製品を挟んで、挟んだ機械ごと下に落ちるので、外観は凹むこともなく大丈夫だが、中身に120Gから200Gほどかかるという。作用は正弦波で、圧力が3msかかるようになっている。ほかにも何秒間か作用する矩形波もできる。
「先ほどの落下試験と違い、中身に正確な衝撃を瞬時に加えられるため、故障した場合、同じ条件で再現試験ができるので故障の原因が突き止めやすいんです。試験するたびに違う結果では、OKかも出せなくなります」(海口さん) 。
日本の家庭に多いホコリによる試験
角衝撃試験と同様、オリジナルで開発した、綿ホコリをかける試験。よくある「防塵」というのは粉塵試験で、砂埃での試験になる。国際規格としてあるので、関東ローム層の砂を使ったりするそうだ。しかし、このホコリ試験は、室内を使うことを想定していて、こたつとか寝室とかで使うと出る綿ホコリでの耐性を計測するもの。ノートPCにはファンがついているので、そこから吸い込んだ綿ホコリが詰まってしまうというクレームが来たことから、この試験機を作ったという。「規格品ではホコリを扱ったものは売っていなかったので、ソニー時代から埃試験含めこだわりを持って実施しています。中に入っている綿的なものの成分は秘密ですが、何種類かを混ぜて特注で作っています」(海口さん)。
いろいろな状態で置いて試験し、最後に設計の方と分解して、変なところに詰まっていないか確認しているという。市場からもどってきた製品と見比べて判断した結果、2時間やることで、およそ1年分のホコリを吸い込んだ想定になるそうだ。
「ただし、タバコは無理とのこと。タバコのヤニは詰まってしまうとくっついてしまい、ベトつくため、できれば禁煙ルームで使っていただきたいですね」(海口さん)。ちなみに筆者も飼っている猫の毛はどうかと聞いたところ、短毛なら大丈夫というお墨付きをいただいた。
100万回押しても大丈夫な打鍵試験
キーボード部分は、メーカーが制作しているため、そちらでも打鍵試験はやっているが、製品としてセットした状態でもやらないと意味ないということで、100万回叩いても大丈夫化試験をしている。流石にすべてのキーを試験はしていないが、スペースキーやEnterキー、Fキーなど一番押されるキーを試験しているという。
「この試験機の特徴は、機械自体が持ち運び可能なため、さきほどの恒温恒湿室に持ち込んで試してみたり、ホコリ試験のなかにも入るので、動かしながら試してみたりということもできます。キーボードは100万回叩いても持ちますが、試験機のシリンダーのほうが持たないので絶えず交換してますね」(海口さん)。
1秒間に6回叩く設定なので、100万回というと46時間以上かかる計算になる。強さは調整できるが、強めに叩いていて、エアーではなく、電磁シリンダーを採用している。エアーだとばらつきがあるためダメだそうだ。
デザインと堅ろう性のバランス、使い勝手を求めて
ほかにも、漬物石が置いてあり、何に使うのかと思ったら、梱包試験でパレット積みしたとき、一番下の箱に掛かる荷重を考えて箱の上に載せるためだそうだ。保存試験もあり、重しを載せて恒温恒湿室へ入れて、潰れないかどうかを見る。船底は高温多湿になるので、輸送中にも耐えられるようにしているとのことだ。
また、キートップの印字や塗装などに関しては、部品の段階で、各メーカーと協力して様々な試験を行なっているという。「ヒンジ部分の開閉試験も、部品段階でやるべき試験を行なっているが、ひたすら開閉するという試験はここでやっています。いまは自動できるようになりましたが、以前は、手で開閉試験していたため大変でしたね」(海口さん)。交代で行っていたそうだが、手が腱鞘炎になりそうだ。
いまでも手作業なのが、各ポートの抜き差し試験。これは、薄さとの戦いでもあるので、指し手加圧ももちろんやっているという。「これらの規格はVAIOが独自に設定したものです。PC業界には標準規格のようなものはありません。すべてはお客さまの安全性を考え、データが確実に守られるためのもの。もちろん壊れにくいことも重要です。これらの試験をクリアできなければ、出荷できません」(海口さん)。
VAIOとしては。堅ろう性がいくら高くても分厚かったら意味がない。お客さまが使いたい商品でありながら堅ろう性の高いものを提供し、実使用をイメージして長く快適に使ってもらえるような視点で開発している。最初に話したように、カスタマーサービスも工場内にあるので、毎日お客様の声を聞いているそうだ。その声を聞き、それに耐えられる製品を日々考えて反映しているという。
ソニー時代から変わったことは、対応の素早さだという。「ソニーは大きかったので、改善するとしても数ヵ月後でとか、次のモデルでとか、動きが取れませんでした。VAIO株式会社になり、こじんまりとなったことで、細かいとこまで聞いてもらえるようになりました。そのため同じ製品でもキーボードのフィーリングを替えてみようとか。ちょっとずつ進化している部分もあります」
「大事にしているのは、規格をクリアすると言うのは当たり前で、使い勝手やフィーリングといったお客さまに納得してもらう製品作りをしなければなりません。お客様の声は設計へダイレクトに反映していますので、素早い対応ができていると思っています」(海口さん)。
今回取材して感じたのは、想定外のことをされても、それに対して真摯に受け止め、耐えうる製品を開発しているVAIOの心意気だ。「精密機械なんだからそんなことしちゃダメでしょ」と受け流すのではなく、新たなハードルを設けてクリアしてくる。細かい部分に対しても気を配る。そんな姿勢が、VAIOが愛されている理由なのだと思う。
この連載の記事
- 第56回
ビジネス
Windows Embedded Standard 7の延長サポート終了迫る。対策は万全? - 第55回
デジタル
パスワードは限界、テレワークにも効く生体認証「EVE MA」をVAIOと使う - 第54回
デジタル
テレワークのセキュリティ対策で関心度上昇中、「TRUST DELETE Biz for VAIO PC」とは? - 第53回
ビジネス
大量にマシンを導入する際に考える予算と生産性のバランス - 第52回
ビジネス
モバイルワークで重要なWeb会議を実現するのに必要なもの - 第51回
デジタル
リモートワークの選択肢が必須の時代、新型VAIO SXシリーズの輝きが増す - 第50回
ビジネス
ケーブル1本で何でもできるUSB Type-C搭載がマシン選びのキモ! - 第49回
デジタル
デスクトップPCからのリプレイスで選びたい、VAIO Pro PH - 第48回
ビジネス
Windows 7 EOS間近! いまやるべきWindows 10への移行のキモ - 第47回
ビジネス
メインマシンとして使える900g以下PCが、働き方改革の課題を解決する
この記事の編集者は以下の記事もオススメしています
-
デジタル
「VAIO、法人向く。」の現在を探る -
デジタル
日本のビジネス市場の要望を取り入れて不満をなくすことがVAIOとしてのものづくり -
デジタル
企業がPCを選ぶとき――VAIOも使う情シス担にPC選定基準を聞く -
デジタル
VAIOブランドを支える安曇野FINISHの秘密に迫る -
デジタル
企業導入の決め手! VAIOならではの導入支援サービスとは? -
デジタル
働き方改革の第1歩は「紙」の問題、VAIOと一緒にここを攻める -
デジタル
VAIO、VRソリューション事業に参入 -
トピックス
ソニー、業界最高の面記録密度をうたう磁気テープストレージ技術を開発 -
ビジネス
まずはモバイルワークから、そのとき気を付けたいたった一つのこと -
デジタル
VAIOの軽量性と「ビデオ会議ツール」の活用で、速度感のある働き方を -
デジタル
VAIO Phone AのDSDS対応が企業にもメリットをもたらす -
デジタル
VAIOが約2年ぶり進化、新VAIO Pro PGはLTE対応で「常につながる」 -
デジタル
日本製11型ノート「VAIO Pro PF」の魅力に迫る。外観一新・より軽く -
デジタル
VAIO Pro PF / PGは買えば無料でLTEが体験できる、速度も計測した -
デジタル
モバイルでPCを紛失、そのときVAIO Proは? -
ビジネス
モバイルなのに持ち出せない、そんな矛盾をなくす『Workspace MDM』 -
デジタル
VAIO Pro導入のポイント、コスパも含めて正しくマシンを選ぶには? -
デジタル
なぜVAIOは、Windows 7のために新モデルを投入したか -
デジタル
VAIO Pro PF/PGに、第8世代CPU搭載モデル -
デジタル
Core i5をi7より速くする「VAIOの高速チューン」を検証、効果を実感! -
ビジネス
Windows 7のサポート終了まで2年を切る、早めのマシン切り替えが正解 -
デジタル
法人へ向いたVAIOの取り組みを訊く -
デジタル
11インチの新VAIO Pro PFは、なぜ企業ニーズへの理解がにじみ出た機種と言えるか -
デジタル
なぜVAIOは組み込み向けWindowsを、自社製品に取り入れたのか -
デジタル
SMSからVAIO PCのデータを遠隔消去「TRUST DELETE Biz for VAIO PC」 -
デジタル
SMS通信で完全消去「TRUST DELETE Biz for VAIO PC」限定のセキュリティー -
デジタル
VAIO独自のファインチューニングは、より手軽な価格だから意味がある -
ビジネス
VAIO、アジアでの販売地域を拡大 -
デジタル
JSOLがシンクライアントのマシンとしてVAIOを導入した理由 -
ビジネス
PCの買い替え時期は? 減価償却やサポートから考える最適解 -
ビジネス
LTE over IPがもたらす通信の働き方改革 -
ビジネス
パスワードをいまだに使い続けるのは「セキュリティ的にあり」か? -
ビジネス
Windows 10 IoT Enterpriseと通常版の違い、導入の注意点は? -
ビジネス
コミュニケーションの課題を、モバイルノートはどこまで解決するか? -
デジタル
既存の2in1にダメ出しした「VAIO Pro PA」の“快”答 -
ビジネス
働き方改革の要点は「時間改革」、LTEの価値はムダな会議の削減だけでない -
ビジネス
ビジネスの必須ツールとなった「ウェブ会議」の基礎知識 -
デジタル
2in1「VAIO Pro PA」だからできる新しいワークスタイル -
デジタル
VAIO Pro PAであまり語られない、法人導入と運用のしやすさ -
デジタル
新VAIO Pro PKは「働き方改革」の救世主、USB充電や4K表示にも対応 -
デジタル
法人でも愛される「VAIOの秘密」はエンドユーザーを意識したこだわり -
デジタル
Office 365+VAIOで働き方改革を推し進めてみよう -
ビジネス
働き方改革に「電子黒板」がなぜ必要になるのか、ブレストと情報共有を体験してみた -
デジタル
2kg強と軽量で、デスクトップに近い作業領域を持つ15.6型「VAIO Pro PH」 -
ビジネス
働き方改革の第1歩は、いままでの使い勝手を変えない「パソコン」でペーパーレス化すること -
デジタル
VAIO SX12/VAIO Pro PJ登場、サブからメインへの昇格を目指した12型