VAIOがWindows IoT Enterpriseの搭載に対応したことで、シンクライアント市場が少しざわついている。
シンクライアントというと、従来は購入できる機種やメーカーの選択肢が限られていた。分厚くて重く、モバイルにはあまり適さないものだったり、モバイルできる軽さでも耐久性や使い勝手への配慮が足りないなど、携帯性を重視して開発したモバイルノートに劣る面もあった。
VAIOをシンクライアント化できると発表したことがこれに風穴を空けた。シンクライアントを導入している企業やSIerからの問い合わせも急増しているという。
その中から、実際にVAIO S13を導入した株式会社JSOLを取材。導入に至った経緯などを伺った。
長年シンクライアントを運用、5年ごとに見直す
株式会社JSOLは、ICTサービスコーディネーターとして、幅広い企業のシステム構築やアウトソーシングまで、ICTのプロフェッショナル集団として知られる企業だ。前身は2006年に株式会社日本総合研究所から会社分割して設立した日本総研ソリューションズで、2009年にNTTデータの資本が入り、現在の社名に変更した。
もともと三井住友銀行のコンピューター部門を担当してきた経緯もあり、高セキュリティを求められるシステムの構築を長く手掛けてきた。JSOL自体も一般的な会社と比べて、セキュリティに厳しい会社である。一方で設立時より全社員に携帯電話を配布し、内線電話を廃止。顧客と直接やり取りするワークスタイルであり、在宅勤務やモバイルワークを導入しやすい土壌も整っていた。
シンクライアントはモバイル接続用に導入してから、現在第3~4世代目となる。おおむね5年ごとに機器の刷新をしており、前回の刷新は2012~2013年。そのときは、VMware Horizonを用いた仮想デスクトップ環境と、Windows Embedded OSにより全社員のOA用PCを薄型のモバイルシンクライアントで統一。OA環境をVDIで提供するようにした。
シンクライアント環境の構築/刷新を指揮する品質・生産性改革部 情報システムチームの早川陽一郎氏は、前回の刷新を振り返り、「刷新にはうまいシナリオが必要だ」と語る。
早川 「5年前は、Windows XPからWindows 7への移行期で、VDIの検討がトレンドを先取りしていました。ちょうど東日本大震災のあとで、セキュリティと事業継続性の両立への意識が、世の中で高まっていました。また、薄型のシンクライアントはモバイルで作業する社員からも歓迎されました」
OA環境の全社的なVDI化は社内でも懸念の声があった。手元のマシンを全てシンクライアントにするため、スキャナーやCDドライブなどを使う、専用マシンを別途用意しつつ、残りをすべてVDI化した。VDI化の流れがあるなかで、顧客への展開より先行する形で、自社でVDI環境の導入を進め、モデルケースを作る意図もあったという。
当時導入したクライアントは、当時流行のウルトラブックだった。
タブレットが登場し、MacBookも薄くなった時期だ。薄型端末が続々と登場しており、ウルトラブックをシンクライアント化し、持ち運びやすいモバイルシンクライアントとして提供することを思いついたという。
その後2014年には、全社に無線LANが導入された。セキュリティにも配慮し、シンクライアントのみを接続可能とした。社内、社外を問わずモバイルシンクライアントが積極的に活用され社員からも好評を得ることに。面白いことに無線LANの導入で、タブレットの社内利用を求める声がパタリとやんだそうだ。有線から解放された自由なモバイル環境を求めていたのだろう。
さらに2015年には、スマートフォンを社員に支給した。これはウェブ会議サービスを導入して、社内/社外のどこでも会議ができるようにするためだ。音声/映像でのコミュニケーションには、シンクライアントではなく、スマホを利用すると割り切れたことで、セキュリティやシステム構築の課題をクリアできた。ビデオ通話はスマホ、画面の共有はPCというスタイルが整ったのは2016年だが、働き方改革が叫ばれる以前から、テレワーク環境がすでに整ったことになる。先見性の高さを感じる企業と言える。
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