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マクラーレンのロン・デニス会長と自動運転について語る

NTT Com Forum基調講演で見えたクラウド戦略シフトの兆し

2016年10月07日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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10月6日、NTTコミュニケーションズは年次のイベント「NTT Communications Forum 2016」を開催した。昨年5月から代表取締役社長を務める庄司哲也氏の基調講演は、マクラーレンのロン・デニス会長と自動運転について語るなど、昨年来までと一線を画した内容となった。

アグレッシブなグローバル展開は引き続き継続

 NTT Communications Forumでの基調講演は例年、同社の事業推移と戦略を明らかにする場となっている。「Global Cloud Vision」を掲げて、クラウドサービスへの注力とグローバル化を強力に推進してきた前社長の有馬彰氏も、このNTT Communications Forumの基調講演で、サービスの強化と次の進化を着実に訴えてきた。立ち見が出るほどの超満員となった今回の庄司哲也社長の基調講演は、欧米で大きな潮流となっている「デジタルトランスフォーメーション」をキーワードにすえ、企業のグローバル化に対応する同社の取り組みを見せるところからスタートした。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 庄司哲也氏

 グローバルに展開する通信ケーブルは8.7Tbpsという容量に達し、ネットワークサービスのArcstar Universal Oneは世界196の国と地域をカバーするまでになった。有馬社長時代のM&Aにより、海外比率が高まっているデータセンターはすでに18カ国・地域で展開し、クラウドサービスのEnterprise Cloudも12カ国の地域で提供されるようになったという。データセンター間のネットワークも12カ国の国と地域をつないでおり、海外進出の手は今も緩めていないようだ。

 こうしたアグレッシブな投資やサービス強化は、IDCやガートナーなどの調査機関からも高い評価を得ており、特にアジアパシフィック地域では高いプレゼンスを得られるようになってきたという。Global Cloud Visionに続く、「ビジョン2020」では先進的なサービスで世界に認められるグローバルICTプロバイダーを目指しており、そこへの道程は確実に進んでいるように思われる。

2つのICTを統合的に管理し、デジタルトランスフォーメーションに寄与

 続いて庄司氏は日本企業のグローバル化が進んでいるにもかかわらず、既存のICTへの投資が必ずしも効果を生んでいないという課題を指摘する。現在のデジタルトランスフォーメーションで求められているICTは、セキュアで信頼性の高い従来型のICTだけではなく、柔軟で俊敏性の高いICTも必要になっており、この2つのICTでさまざまな課題が生じているという。端的に言えば、従来型のICTを担うオンプレミスと、新しいICT活用を実現するクラウド、そして複数のクラウドを使い分ける際のマルチクラウドのギャップだ。

 NTTコミュニケーションズは、この2つのICTを統合的に管理することで、顧客を正しいデジタルトランスフォーメーションに導く役割があるという。そしてこれを実現するために同社が進めているのが、Software-Defined Everything(SDx)とマネージドサービスの拡充だ。

2つのICTを統合管理することで、顧客のデジタルトランスフォーメーションに寄与

 SDxに関しては、各国の拠点にあるネットワーク機器を一元的に設定したり、Arcstar Universal Oneとインターネットを重要性によって使い分けるなど、柔軟なWAN運用をソフトウェアで実現する「SD-WAN」に加え、コントローラー経由でのLAN構築や可視化を実現する「SD-LAN」などがサービスとして随時強化される。

 興味深いのは、来年3月に登場する予定の「SD-Exchange」だ。これはAzureやAWS、コロケーション、Enterprise Cloudなど、複数クラウドを組み合わせたシステムの足回りとなるクラウドSDNと呼べるネットワークサービスだ。現状、AWSのDirectConnectやAzureのExpressRouteはユーザーが接続先ごとにVPNや専用線を用意する必要があるが、SD-ExchangeではNTTコミュニケーションズがあらかじめ大容量のネットワークでクラウド事業者と接続している。そのため、カスタマーポータルからSDNを使って、迅速にクラウドサービスを利用できるという。

SD-Exchangeで複数のクラウド、データセンター、Enterprise Cloudを連携する

 SD-Exchangeも複数のクラウドと接続するという点では、エクイニクスのCloud Exchangeと同じだが、NTTコミュニケーションズのグローバルネットワークを利用して遠隔拠点のサービスを接続できるほか、NFVによるセキュリティ機能なども用意される点が差別化ポイントになる。現状、単体では利用できず、Enterprise CloudやNexcenterのユーザー向けという点がやや残念だが、クラウドネットワークの課題に1つの解決策をもたらすサービスと言えるだろう。

 さらに「WideAngle」や「Global Management Platform」などのマネージドサービスについても、SDxとの連携を進める。たとえば、WideAngleとSD-LANを連携することで、マルウェアに感染したデバイスの異常を検知すると、コントローラーからの指示で対象デバイスの通信を遮断することが可能になる。また、Cloud Management Platformを用いることで、データセンターやEnterprise Cloud、他社クラウド、さらにSD-WAN/SD-LAN/SD-Exchangeを一括管理できるということで、期待も高まる。

Cloud Management PlatformのSDx対応

 基調講演後の庄司氏の囲み取材においても、「プラットフォームに徹する方向性に路線を変えつつある」という趣旨のコメントをしており、いたずらに自社クラウドにこだわらない意図が見受けられた。今やグローバルにリーチを拡げつつあるネットワークとデータセンターを最大限に活かすために、SDxやマネージドサービスを強化し、グローバルクラウドと現実的な共存を進めるのではないかと思われる。

AIとIoTに注力 そして自動運転についてマクラーレン会長と語る

 一方で、新たな取り組みとして庄司氏が持ち出したのは、AIとIoTへの注力だ。同社はNTT研究所由来のAIエンジン「COTOHA」を投入。人間の意図や感情を理解することで、高度な対話を実現できるCOTOHAにより、オムニチャネルやヘルプデスクの自動化などに寄与するという。

AIエンジン「COTOHA」を導入し、人間らしいコミュニケーションを実現

 また、IoTに関しては、Arcstar Universal OneとEnterprise Cloud、Nexcenterブランドのデータセンターをベースに、データの収集や分析までをワンストップで提供するプラットフォームサービスを提供する。現在は、パートナーとの協業でセンサーデータの収集や可視化を行なう「Factoryパッケージ」、車両の挙動や運転状況を分析する「Vehicleパッケージ」、機器・製品のデータを収集する「Productパッケージ」などを開発中。また、車両挙動の収集分析を行なうSAPの「Connected Transportation Safety」とウェアラブル生体センサーを組み合わせた安全運転管理のソリューションを実証実験しているという。

 そして最後にスペシャルゲストとして7月にテクノロジーパートナーシップ契約を行なったマクラーレンのロン・デニス会長が壇上に上がり、庄司氏と対談した。

庄司氏(左)とマクラーレンのロン・デニス会長(右)

 自動運転について聞かれたデニス会長は「自動運転は大きなチャレンジだが、自動車の世界を超えて、生活の一様式になる」と語り、信頼できるセンシングとデータ処理という壁を乗り越える時代が近い未来に訪れると予言した。筋金入りのF1ファンである庄司氏は「ロンとの関係ができるのは、NTTコミュニケーションズの社長になったことよりうれしい」と語り、会場を沸かせた。イベントは7日(金)も開催される。

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