乗るだけで高揚感。溜息が出るほど美しいエンジン音
そしてカミソリのように鋭い加速
まず外見。パッと見てポルシェだとわかる特徴的なデザイン。ターボモデルはリアフェンダーが大きくなっており、素の911と比べても迫力が違う。サイドミラーからリアフェンダーのエアダクトがチラチラと見えるのもテンションがあがる。そして、驚いたことにホイールはセンターロックを採用。レーシングカーと同じである。
ボディーサイズは全長4507mm、全幅1880mm、全高1297mm、車重は1600kg。筆者の愛車であるプジョー 207が4030×1750×1470mm、車重1260kgなので、だいぶ大きいことがわかる。それゆえ狭い道は苦手だが、大きい道路なら切り返すことなくUターンできるくらいの旋回性はある。
いざ乗り込むと、ドライビングポジションの低さに驚かされる。もちろん、シートの調整は可能なので視点をあげることもできるが、スポーツカーの視点は低いものという変なこだわりが筆者にはあるのでそのままにした。そしてイグニッションをひねると、後ろに鎮座する3.8リッターの水平対向6気筒ツインターボエンジンから低く野太いサウンドが車内に響き渡る。どんな音かはのちほどYouTubeチャンネルに動画を上げるので確認してほしい。それはもう美しい音色である。ドアを閉めたときの「バムッ!」という音も質実剛健なドイツ車らしい。ハンドルも適度に重いので、左右にふらふらすることもなくまっすぐ走ることができる。
最近の911ターボはどちらかというとスポーティーというよりラグジュアリー、ビジネスエクスプレス的な位置付けになっており、MTの設定はない。PDKと呼ばれるポルシェ独自のトランスミッション(ATみたいなもの)に4輪駆動という設定のみ。なので、AT限定免許でも運転できる。ATのようにクリープがあるので、アクセルを踏まなくても前に進むのだが、この前に進む力の強さに驚かされる。多少の勾配ならアクセルを踏まずにどんどん上ってしまうのだ。
試乗コースは一般道なのでアクセル全開にはできなかったが、ちょっとアクセルを踏めばターボのブーストをかけずに加速していき、さらにアクセルを空けるとターボが働きシートに張り付けになる加速Gが味わえる。とはいえ、ストップ&ゴーの都内では完全に持てあましてるフラストレーションである。しかし、シートの座り心地とホールド感がいいので、街乗りでも疲れない。クルマがクルマなので、ぶつけられませんようにと神経はすり減ったが。
911は実用性と運動性能を両立させているスポーツカーだ。この1台で移動・サーキット走行・レジャーなどが楽しめる。車高も低いのだが、よほど段差がある場所でなければコンビニやファミレスにも入れる。今回も何ヵ所かのコンビニに立ち寄ったが、車止めにも引っかからず、入り口の段差でバンパーの下をこすることもなかった。
高速道路での乗り心地だが、サスペンションの硬さもあって路面の凹凸を結構拾う印象。それ以外は直進での安定性と、カーブを曲がっている最中の「絶対スピンしなさそう」という安心感もあって、さすがビジネスエクスプレスだと思い知らされた。速く、快適に、より短時間で目的地に着くための自動車なのだ。電子制御が介入するほど激しい運転はしていないが、デジタルで制御されたサスペンションや横滑り防止機能は、ドライバーを守ってくれるに違いない。
スポーツカーといえばどれだけ速度が出るかが注目されがちだが、ポルシェは加速と同じくらい減速に注力しており、ポルシェのブレーキは宇宙一、なんて言われたこともある。RRのメリットがブレーキングのときに最大限活かされるのである。重量物が後ろにあるため普段はリアヘビーだが、フルブレーキングすると荷重が4輪すべてに行き渡り、理想の減速体勢になる。残念ながらそこまでのブレーキングはしなかったが、PCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)と呼ばれるレーシングカーにも採用されるブレーキは、ちょっと踏むだけでゴリゴリとスピードを削っていた。
今回走ってみての燃費は6~7km/Lと、あまりおサイフに優しくはなかったが、街中の渋滞とアクセルのオンオフが頻繁だったためだろう。驚いたのが、アイドリングストップがあること。ブレーキを踏んで完全に停止するとエンジンが切れて、ブレーキを離すと再びエンジンがかかる。これが燃費にどこまで影響しているのかわからないし、そもそもポルシェに乗る人はそんなに燃費は気にしないかもしれない。
定員は4人なので大人が後部座席にも乗れるが、正直長時間乗っていられない。頭をガラスにぶつけてしまうので、前屈み推奨だ。後部座席は荷物置き場と割り切り、「4人乗れるからファミリーカーだよ!」と嫁さんの説得材料に使おう。
【まとめ】次元が違う完成度。値段も次元が違う!
で、この911 ターボS。お値段はコミコミ約2600万円! 標準の911 カレラが2台買えてしまうお値段だ。だが、その値打ちは十分すぎるほどある。マーチのように街中を流してもいいし、580馬力をふんだんに使ってサーキット走行しても楽しいだろう。このクルマでなければ得られないドライビングプレジャーが確実にある!
2600万円という値段は多少のブランド料もあるかもしれないが、このスペックを考えると妥当なんじゃないだろうか、と思えてしまう。ほかの高級スポーツカーやエキゾチックカーと比べたら安いし。筆者はもちろん買えませんが、唸るほどお金がある方はぜひ! 世界最高峰の工業製品、世界最先端のテクノロジーを骨の髄まで味わえるでしょう。
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