「雑誌付録だけど、ちょ~音のいいヘッドフォンアンプがあるから聴いてみてよ」と知り合いから紹介されて、担当の人と会った。
目の前に出されたのが“この基板ムキ出し”のモジュールだ。雑誌付録ではあるが、普通は10万円ぐらいのヘッドフォンアンプでないと入っていない、バランス駆動対応のヘッドフォン出力まで付いているのだという。
ムキだしって、なんとなくワクワクするよね~
電子機器のの中身=基板を見ていると、なぜか心がわき立ってしまうもの。筆者もその一人。自分で電子工作をすることはほぼないが、カラフルな基板に上に、整然と部品が並んだ様子を見ると何となく心がワクワクしてくる。
また基板やその上のチップには非常に細かいシルク印刷で、型番や説明が書かれているがこれがまたいい味出してる。どんな部品がどんな風につながっているか見ていると、時間を忘れる。
てな感じで、編集部の片隅で、あるモジュールをチマチマと触っていたところ、通りがかる部員がみんな興味津々の体で「それは何か」と話しかけてくる。
ステレオサウンド社『DigiFi No.22』の特別付録“バランス駆動対応 イヤホン&ヘッドホンアンプ”は、そんな男心をくすぐるアイテムだ。ムキ出しの基板という見た目のインパクトだけでなく、機能も充実。価格は雑誌含めて5500円。しかしヘッドフォンアンプの中でも高級機種にしか搭載されていない"バランス駆動"に対応しており、音質面でもこだわって作られているとのこと。
「本当にいい音するの~?」など疑問に思いながら、手持ちのiPhone 6sを“このヘッドフォンアンプ”につないで聴いてみる。
標準の「ミュージック」アプリでAACのロックやポップスを軽く再生してみた。確かに音がいい! iPhoneにヘッドフォンを直差しするのと比べて、もやが晴れたように音の粒がハッキリ・クッキリする。ちょっと曖昧だったベースも引き締まり、ビートもズンズンと元気に前に出てくる印象だ。「なかなかやるな」と感じた。
さらに数時間じっくり聴いてみた。聴くうちに感想は「なかなかやる」から「すごくいい」に変わっていく。愛用の「SRH1540」との相性もいい感じだった。途中原稿を“書きながら”の試聴になったりしたのだが、油断すると、手が止まり音楽に聴き入ってしまう。ソースをハイレゾプレーヤーに変えると音質はさらに良くなる。RCA入力も付いているので、デスクサイドに置いた単品のCDプレーヤーの音をヘッドフォンで聴くといった使い方も便利そうだ。
さすがはオーディオ誌の付録。“音の良さ”にもこだわっている。
実はこの“音のよさ”には理由がある。このヘッドフォンアンプは“Olasonic”とコラボして作られているのだ。Olasonicブランドを展開する東和電子は、コストパフォーマンスの高いBluetoothスピーカーや超小型のコンポなどを開発。オーディオファンはもちろん、音にこだわるパソコンユーザーにもよく知られているブランドだ。基板を見ると、DigiFi Stereo Soundのロゴに加えて、Olasonicのロゴがシルク印刷されているのが分かる。
ちなみに基板の端子は、このロゴを下にして、左側が入力系、右側が出力系となっている。iPhoneと接続する場合には左側にある3.5mmのピンジャック(またはRCA入力端子)とiPhoneのヘッドフォン端子を接続すればいい。
電源用にはMicro-USB端子が用意されている。ここに“手持ち”のモバイルバッテリーやスマホ用の充電器などをつなぐ。コスト削減のためか付録にACアダプターは含まれないが、スマホを使っている人なら大抵持っているもの。そのぶん安価に仕上がっているのならOKだと思う。
ヘッドフォン出力は一般的な3.5mmピンジャックが右下にある。その上にある大型のXLR端子がバランス駆動用のヘッドフォン出力だ。
基板の中央付近のソケットに収まっているのが信号の増幅に使うオペアンプだ。標準でバーブラウン「OPA2134」が付属しているが取り外しも可能。OPA2134は本格的なHi-Fiコンポにも使われる高音質なチップだが、オペアンプを交換して音質の変化を楽しむという、マニアックな楽しみ方もできる。
インピーダンス切り替えができる点にも注目。ジャンパーピンを切り替えることで、ハイゲイン・ローゲインの調整ができるとのこと。ひとくちにヘッドフォンというが、8Ω、16Ωと低いインイヤー型から、300Ω、600Ωと高いオーバーイヤー型まで様々な機種がある。幅広い機種に対応できる点はうれしい。
もっとスゴいのは“ヘッドフォンのバランス駆動”に対応すること
それでは本題のバランス駆動にはいる。すでに書いたようにこのアンプ、雑誌の付録でありながら、ヘッドフォンのバランス駆動にも対応した非常にマニアックなものになっている。普通なら10万円以上する機器でないと搭載していない機能である。
過去にラックスマンのヘッドフォンアンプ「P-700u」やパイオニアのUSB DAC「U-05」を紹介したことがあるが、両機種とも前面に同じ種類の端子を持っている。“キャノン”や“XLR”などと呼ばれるもので、プロ用の機材(マイクやミキサーなど)の接続によく使われるものだ。
ヘッドフォンのポテンシャルを引き出すうえで、バランス駆動は非常に効果的。ただしヘッドフォンのリケーブルが必要だったり、搭載するのが高級機種に限られるということでなかなか導入のハードルが高いものでもある。その効果をたった数千円の付録で確かめられてしまうというのは大きな驚きだ。
注意点としては、バランス駆動するためには別途オペアンプが2個必要になること。
付録にはステレオミニジャックでヘッドフォンをドライブするための1個しかオペアンプが同梱されていない。バランス駆動用のオペアンプを装着するソケットは空となっている。オーディオ用のオペアンプは、付属するOPA2134PAは、秋月電子などの通販で買うと1つ数百円程度。かなり高価な部類に入るチップだが、オーディオ用でも安いものであれば数十円から手に入るので、まとめて買っていろいろ試してみるのも面白い。
単体でもすごいが、なんと拡張までできてしまう!!
ヘッドフォンのバランス駆動について、ちょっと補足的な話をする。
実はバランス駆動用の接続端子は規格が固まっていない。現在売っているヘッドフォンアンプやプレーヤーで普通に使われているものをピックアップすると:
- XLR(3ピン)×2(本機が採用)
- XLR(4ピン)×1
- 2.5mmピンジャック(4極)×1
- 3.5㎜ピンジャック(3極)×2
- 角形コネクター(4ピン)
など5種類(これとは別に最近、業界団体のJEITAが、まだ搭載製品が存在しない「4.4mmの5極」をバランス駆動の業界標準にしようと言っていたりする)。
端子に合わせてヘッドフォン側のケーブルをいちいち変える必要がある。面倒だし、完成品の交換用ケーブルは高価なものが多いので頭が痛いところだ。
ただし俺の持ってるケーブル別の端子なんだよな……という人もいるだろう。でも大丈夫。なんと上に挙げた5種類の端子すべてに対応できる拡張基板「DF22-EXP」が用意されているとのこと。価格は3000円(税込)で、ステレオサウンドの通販サイトで手に入る。
実はこの拡張&合体のコンセプト。DigiFiの付録では伝統といってもいいものだ。
例えば発売中の『DigiFi No.15/No.16』それぞれの付録(USB入力の信号を同軸デジタルや光デジタル出力に変換するD/Dコンバーター、このD/Dコンバーターと合体するD/Aコンバーター)と連結できる。
No.15とNo.16の付録を組み合わせるとPCのUSB端子から出力したデータをアナログ信号に変換しRCAから出力できる。これをNo.22の付録と組み合わせると、バランス駆動に対応したヘッドフォンアンプが出来上がりである。
というわけで、この記事で興味を持って、バランス駆動のヘッドフォンアンプ搭載の「DigiFi No.22」を手に取ったみなさん、次のステップアップとしては、96kHz/24bitのハイレゾ音源にも対応したNo.15/No.16の付録と組み合わせてみてはいかがですか? 連結用のケーブルを含めて、合計しても価格は1万5000円程度なんですよ! 奥さん!!
……などと、だんだん通販番組みたいになってしまいそうなので、このへんで終わる。
以上、音がよくて、割安感のある雑誌付録というだけではなく、拡張したり、活用したりかなりマニアックな線まで行ける点が楽しい!! そんな魅力あふれる“バランス駆動対応 イヤホン&ヘッドホンアンプ”が付録に付く『DigiFi No.22』は直販サイト“ステレオサウンド ストア”や全国の書店で5月30日に販売開始。
このまま持ち運ぶのは、ちょっと危険そうだが、バッテリー駆動もできるそうなので、ポータブルも頑張ればできるアンプ=ポタアンと言ってもいいかも……と勝手な解釈もするワタシ。ちなみにムキ出しじゃいやだという人には、専用ケースもいろいろと用意されているそうです。