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僕らが知らないGoogle マップ 第1回

Google マップ日本登場10周年

最初のGoogle マップの世界はアメリカとイギリスだけだった!?

2015年07月15日 09時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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当時、Google マップを担当していたエンジニア、クリス・アテナシオさんの2006年9月のブログ。いまのグーグルの規模感とは異なるまるでなかなかベンチャーっぽい手触り感が感じられる

「独自すぎる」がゆえに進化した日本でのGoogle マップ

 そんなGoogle マップが日本に対応したのは、2005年7月のこと。7月14日にウェブ版が公開されると、20日には携帯電話版と経路検索が登場している。もちろんグーグルは、Google マップを最初から世界に広げて展開する意思を持っていた。日本はその中でも最初期に展開された地域である。それだけに、多くの進化が日本でのサービスとともにあった。

 では、なぜGoogle マップが日本で早期にビジネスを開始することになったのか? 後藤氏は笑う。

「実は本当のところの理由はよく分からないんです。当時アメリカにあるエンジニアがいたのですが、彼が日本に非常に思い入れが強かった。どうしても日本で出したい! ということで、日本が先行したんです」

 とはいえ、日本の地図に対応することは、グーグルにとって非常に大きなチャレンジだった。言語の体系が異なること以上に、地図の体系も全く異なっているからだ。

 みなさんは、海外で地図を買って、広げてみたことがあるだろうか。ネットが普及し、それこそGoogle マップで調べれば良くなってからかなりの時間が経過しているので、「海外で現地の地図を見た記憶がない」という人がいてもおかしくはない。実際、かなり違うのだ。アメリカの地図ひとつとっても、きちんと見方・読み方を理解していないと、自分の位置すらわからない。理由はどこにあるのだろうか?

「多くの国は、番地を『ストリート』ベースで記述しています。でも、日本は違いますよね。どこかに行く場合のことを考えてください。海外では『どこどこストリートの何番』という形で指定します。日本の場合には、道案内をする時、『角のタバコ屋さん』『コンビニ』といった、ランドマークを経由して伝えます。もうそこからして、地図の作りが違うのです。アメリカはただ道路を出せばいいのですが、日本では標識やランドマークのように目立つもの……これを『POI(Point of Interest)』というのですが、それを出さないといけません」

 すなわち、地図の上に描かれる「重要情報」がまったく異なっているので、それをどう表示し、見やすくするか、ということが求められたのだ。

 当時からすでにカーナビはあり、地図ソフトもあった。だから日本には、日本の状況に合わせた地図データは当時から存在している。グーグルはそうしたデータを持つパートナーからデータの提供を受けて、日本国内向けに地図を整備していくことになる。メインパートナーは、ご存知の通り、ゼンリンだ。現在もグーグルは、ゼンリンから提供を受けた地点データを活用し、Google マップを作っている。

 各国の事情に合わせた地図を作るということは、各国の人々に合わせた地図を作る、ということでもある。現在のGoogle マップでは、海外旅行時などにも、地名をカナまじりで表現するなど、より「見やすい表示」が心掛けられている。地域情報だけでなく、どのドメイン名からアクセスされているか、クライアント機器の言語設定がなにか、といった情報を使い、地図の表現を変えているわけだ。表示だけでなく、ナビの音声なども、現地の言葉ではなく「地図を見ている人の言語」、例えば日本語で表現するようになっている。

 こうした「言語に合わせた表示」は、日本からのフィードバックで生まれたものだ、という。

2008年10月、Google マップ上に表示される日本の地名の英語(ローマ字)表記が大幅に拡充。左は日本語表示。ブラウザもしくはGoogle アカウントの言語を英語に設定している場合は、日本語名とともに右のように英語が併記される

「海外でも地名がカタカナで出る、といった機能は、やはり日本で作ったものなんです。海外のエンジニアが日本に来ると必ず、『この地図は日本語で書いてあって全然読めないぞ』と言うんです。まあそれはそうだよね、ということで、まずは日本の地名をローマ字に読み替えるところから始めました。『日本語をローマ字にできるなら、他の国でも出してしまえよ』となって、他の国へ広がったんです。例えばアメリカの西海岸だと、スペイン語なまりの地名とかがありますよね? そういうところも加味して、日本語や他の言語に合わせて表示するようになっています」

 地図はローカルなものだ。だが、Google マップはグローバルなサービスである。その間を埋める作業は、地図が独自の進化を遂げてきた日本を中心に生まれていった。実は、「ランドマークを表示して案内する」という要素は、日本の地図からフィードバックされ、今は海外向けの地図でも出ているのだという。「よく考えれば、こっちの方が便利だ、という話になった」と、後藤さんは笑う。

 まずはアメリカ国内で、Googleのためのサービスとして生まれたものが、ネットの中でマッシュアップされる存在に変わり、そして国を渡る過程で、各国の事情を吸収して「その国で暮らす人々に便利な地図」へと姿を変えていった。

 それが、Google マップの10年間での進化である。

 だがその背景には、我々が想像する以上に複雑かつ巨大なシステムが存在し、それがあって初めて、このようなサービスとして実現できている。

 第二回は、そんな「Google マップの技術」の話へと広げていきたい。

Google マップ、10年の歩み

2005年2月8日 Google Mapsデスクトップ版提供開始

2005年4月 Google Maps上で衛星写真の表示と経路検索サービスを開始

2005年4月 Google Maps米国でモバイル端末向けのサービス開始

2005年6月 Google Earth提供開始/Google マップAPI提供開始

2005年7月14日 Google マップ日本向けに公開

2005年7月20日 携帯電話向けローカル検索、マップ表示開始

2005年7月20日 Google Moon公開

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2006年9月14日 Google Earth 日本語版提供開始

2006年9月26日 Google マップ地図デザインやフォントを大幅に改良

2006年10月 モバイル向け乗換案内提供開始

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2007年3月9日 Google マップのお店情報に写真を掲載

2007年4月4日 Google マイマップ公開

2007年4月23日 Google マップデスクトップでの乗換案内提供開始

2007年5月 Google マップのストリートビュー米国 (ニューヨーク、サンフランシスコ、ラスベガス、マイアミ、デンバー等を公開)

2007年6月21日 Google マップにレビュー機能追加

2007年8月21日 Google マップ用iアプリ提供開始

2007年11月27日 Google マップ地形表示を開始

2007年12月13日 モバイルGoogle マップ(iアプリ版)GPS機能追加

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2008年6月23日 Google マップメーカー公開

2008年8月5日 ストリートビュー日本公開(全国12エリア、105市町村の街並みが登場)

2008年9月18日 ストリートビューがモバイルGoogle マップで閲覧可能に

2008年10月24日 Google マップに表示される日本の地名が英語表記に対応

2008年10月28日 iPhone版Google Earth公開

2008年10月29日 Google マップでドライブルート案内提供開始

2008年12月 NORADサンタさんを追いかけよう!提供開始

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2009年2月3日 Google Ocean公開

2009年7月23日 モバイル Google マップ タッチケータイのタッチ操作に対応

2009年12月10日 Google マップ、徒歩ルート案内に対応

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2010年4月27日 Google マップEarthビュー登場

2010年8月6日 Google マップ5周年ベータ版卒業

2010年9月16日 Google マップナビAndroid搭載端末向けに公開

2010年10月27日 おみせフォト(現:インドアビュー)開始

2010年11月10日 モバイルGoogle マップ、日本の地図デザインを改良

2010年12月17日 モバイルGoogle マップ、3D描画とベクターマップに対応

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2011年3月13日 東日本大震災:被災地の衛星写真、自動車・通行実績情報マップ等を提供

2011年4月11日 水上のストリートビュー、東京湾で世界初登場

2011年6月16日 マイプレイス機能公開

2011年10月14日 Google マップ Web GLベータ版を公開

2011年11月30日 モバイルGoogle マップにインドアマップ公開

2011年12月9日 Google マップに交通状況を公開

2011年12月13日 被災地域のストリートビュー公開

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2012年4月1日 エイプリルフール:ファミコン版Google マップ 8ビット公開

2012年5月9日 インドアマップが徒歩経路検索に対応

2012年5月29日 マイプレイスに自宅・職場が追加可能に

2012年9月24日 Google マップにバスルート登場

2012年9月27日 海の中のストリートビュー登場

2012年12月6日 震災遺構デジタルアーカイブ プロジェクト公開

2012年12月13日 iPhone向けGoogle マップ提供開始

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2013年2月1日 駅や空港のストリートビューを世界初公開(みなとみらい線、中部国際空港セントレア等)

2013年3月21日 45度斜め上からの航空写真公開

2013年3月28日 福島県浪江町のストリートビュー公開

2013年4月1日 Google マップ「宝探しモード」新登場

2013年6月11日 Google マップに店舗情報の追加・修正をレポートできる機能追加

2013年7月10日 Android搭載端末向けモバイルGoogle マップデザイン改善、周辺のスポット追加

2013年7月19日 ストリートビュー トレッカーパートナープログラム開始

2013年7月23日 富士山のストリートビュー公開

2013年9月26日 ストリートビュー、47都道府県に対応

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2014年2月20日 Google マップ、デザイン、検索結果、経路検索など大幅刷新

2014年4月1日 モバイルGoogle マップ ポケモンチャレンジ公開

2014年4月24日 ストリートビュー、タイムマシン機能公開

2014年8月29日 Google防災マップの提供を開始

2014年10月17日 海からのストリートビューを公開

2014年11月7日 モバイルGoogle マップがマテリアルデザインに対応

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2015年4月1日 Googleパックマップ公開

※この年表では便宜上、本国版を「Google Maps」、日本版を「Google マップ」としている


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