荷物の積み込みから車両の運転
そして見送りまで大忙し
話をいろいろうかがって驚いたのは、「マーシャラーはマーシャリングだけをするわけじゃない」ってことだ。
手荷物の積み込みや各種車両の運転、ドアの開閉や駐機中の電源コネクターと外部エアコンの着脱、搭乗ゲートの接続、さらには出発機のお見送りなど、地上業務(グランドハンドリング)にはいろいろあるが、マーシャリングもそのうちのひとつにしか過ぎないという。
1機に対する地上業務は、通常およそ8名のユニットで行ない、うち1名がマーシャラーとしての資格を持っているのだ。
ただし誰がなんでもできるわけでなく、特殊車両はそれぞれに資格が必要で、ドアの開閉などは飛行機の機種ごとに資格が必要。さらに出発機を並んでお見送りするヒト「センダー」にも資格が必要というのだ。
マーシャラーになって間もない稲村 裕貴氏は、「地上業務をやるなら、やはりマーシャリングはやりたいですよ」という。その第一歩となるのは、翼端監視業務という資格でマーシャラーの補佐をして飛行機周囲の安全を確認する業務だ。
そして座学や素振りの訓練、また自動車を飛行機に見たてて誘導する訓練など重ねる。稲村氏は「最後に質問形式で口答試験と実技試験をパスしないとマーシャラーの資格はもらえないんです。ゆくゆくは政府専用機をマーシャリングしたいですね」という。
羽田の出発ロビーでマーシャラーが見られない秘密
さて昔はどの空港の展望台や出発ロビーからも見られたマーシャラーだが、最近の羽田や成田ではさっぱり見かけない。これは業務をコンピュータ化してVDGS(Visual Docking Guidance System)が行なっているためだ。
※編注:この記事の誘導は、取材のため特別にVDGSを切ってマーシャラーによる誘導になっています。
出発ロビーの窓の上には、大きな電光掲示板があり、ここに左右への誘導と、目標停止位置までの距離が表示される。パイロットはこの掲示板を見ながら飛行機を操縦するというわけだ。
VDGSは到着機を管理するシステムと接続されていて、各ゲートのVDGSは次に駐機予定の飛行機の型番などを把握している。さらにVDGSは赤外線レーザーの目を持っていて、ゲートに侵入してきた機種が予定と同じかを判定している。
問題なければ、飛行機と機種ごとの停止目標を認識しつつ、目標まで残り何mか? 左右へのブレがないか? などの指示を自動的に出す。
賢いシステムだが、所詮は機械。大雨や雪が降ると赤外線レーザーで距離が測れなくなったり、運行のやりくりで急に予定の機種と進入してきた機種が異なる場合は、安全のためマーシャラーに業務をゆだねるようになっている。また精度も60cm以内とベテランマーシャラーに比べると倍近くバラけてしまうそうだ。
筆者が思うに、VDGSを導入しているのは国内でもわずかで、試験運用という意味合いが強く感じられる。もちろんローカル空港では費用対効果が悪いという点もあるが、福岡や新千歳にも導入されていないのだ。
さて「VDGSを導入するとマーシャラー不在でも運行可能」とは行かない。必ずマーシャラーがVDGSの端末を持って、飛行機とシステムを監視しているのだ。マーシャラーからすると、手動のマーシャリング資格の上に、VDGSの操作資格まで取得する必要があり、資格が増える一方なのだ。
飛行機の鼻先横でコードの着いた端末を持って、前輪と全体を交互に見渡しているヒト。それがVDGSの導入された空港のマーシャラーだ。
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