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貴方は彼女の心のマーシャラーとなれるか!?

手信号で飛行機を誘導するマーシャラーの秘密に迫る!

2014年10月26日 12時00分更新

文● 藤山 哲人

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荷物の積み込みから車両の運転
そして見送りまで大忙し

 話をいろいろうかがって驚いたのは、「マーシャラーはマーシャリングだけをするわけじゃない」ってことだ。

 手荷物の積み込みや各種車両の運転、ドアの開閉や駐機中の電源コネクターと外部エアコンの着脱、搭乗ゲートの接続、さらには出発機のお見送りなど、地上業務(グランドハンドリング)にはいろいろあるが、マーシャリングもそのうちのひとつにしか過ぎないという。

 1機に対する地上業務は、通常およそ8名のユニットで行ない、うち1名がマーシャラーとしての資格を持っているのだ。

移動中の飛行機の翼端を監視して、障害物などがないか、進入してこないかをチェックする。写真右側にはマーシャラー、写真奥の反対側の翼でも翼端監視している

荷物を積み込んだコンテナを引くトーイングトラクターも運転。マーシャラーは、色々ある地上業務のひとつにしか過ぎない

 ただし誰がなんでもできるわけでなく、特殊車両はそれぞれに資格が必要で、ドアの開閉などは飛行機の機種ごとに資格が必要。さらに出発機を並んでお見送りするヒト「センダー」にも資格が必要というのだ。

チョークをセットしたり、黄色い外部電源を飛行機に接続したり……。なにをするにも資格が必要

作業指示や怒号が飛ぶことなく、スムーズにエレガントに任務を遂行する。写真は手荷物コンテナの積み下ろし

再び出発機として出るときはトーイングカーで飛行機を押し出す(プッシュバック)

出発機をお見送りするのも業務のひとつ。そして「センダー」という資格が必要になる!

 マーシャラーになって間もない稲村 裕貴氏は、「地上業務をやるなら、やはりマーシャリングはやりたいですよ」という。その第一歩となるのは、翼端監視業務という資格でマーシャラーの補佐をして飛行機周囲の安全を確認する業務だ。

 そして座学や素振りの訓練、また自動車を飛行機に見たてて誘導する訓練など重ねる。稲村氏は「最後に質問形式で口答試験と実技試験をパスしないとマーシャラーの資格はもらえないんです。ゆくゆくは政府専用機をマーシャリングしたいですね」という。

JALグランドサービス東京の稲村 裕貴氏。先の山本氏とチームを組んで色々な地上業務にあたっている

MZと呼ばれるマーシャリングカーも自分で運転して、ゴンドラを到着機のコクピットの高さに合わせてマーシャリングする

およそ8名のユニットだが、飛行機のまわりに散らばったり、影に隠れてしまうので、なかなか8人の姿を同時に見られない

羽田の出発ロビーでマーシャラーが見られない秘密

 さて昔はどの空港の展望台や出発ロビーからも見られたマーシャラーだが、最近の羽田や成田ではさっぱり見かけない。これは業務をコンピュータ化してVDGS(Visual Docking Guidance System)が行なっているためだ。

※編注:この記事の誘導は、取材のため特別にVDGSを切ってマーシャラーによる誘導になっています。

搭乗ゲート(ブリッジ)がつながっているところが、出発ゲートの待合室。その窓の上にVDGSが設置されている

これは17番ゲート(北緯と東経の表示もあり)の下に、黄色いワクで囲まれたT字の掲示板がVDGS

 出発ロビーの窓の上には、大きな電光掲示板があり、ここに左右への誘導と、目標停止位置までの距離が表示される。パイロットはこの掲示板を見ながら飛行機を操縦するというわけだ。

次に入る到着機の型番が表示されている。写真はボーイング777-200ということ

赤外線レーザーで飛行機との距離が測定され、停止目標までの距離がカウントダウン&T字のバーの縦棒の長さで表示される

停止目標でSTOPの表示、そして停止するとOK

クルマ止めを入れ終わるとスタッフが操作盤を押し、CHOCK ONが表示される

 VDGSは到着機を管理するシステムと接続されていて、各ゲートのVDGSは次に駐機予定の飛行機の型番などを把握している。さらにVDGSは赤外線レーザーの目を持っていて、ゲートに侵入してきた機種が予定と同じかを判定している。

 問題なければ、飛行機と機種ごとの停止目標を認識しつつ、目標まで残り何mか? 左右へのブレがないか? などの指示を自動的に出す。

ゲート脇にあるポストほどの大きさものが、VDGSの操作盤

VDGS右下に小窓から赤外線レーザーが照射され、それの反射波を調べることで機種の判定や距離を測定する

左にかかっているのは、VDGSでマーシャリングする際に持ち歩くコントローラで緊急停止ボタンなどが付いている

 賢いシステムだが、所詮は機械。大雨や雪が降ると赤外線レーザーで距離が測れなくなったり、運行のやりくりで急に予定の機種と進入してきた機種が異なる場合は、安全のためマーシャラーに業務をゆだねるようになっている。また精度も60cm以内とベテランマーシャラーに比べると倍近くバラけてしまうそうだ。

 筆者が思うに、VDGSを導入しているのは国内でもわずかで、試験運用という意味合いが強く感じられる。もちろんローカル空港では費用対効果が悪いという点もあるが、福岡や新千歳にも導入されていないのだ。

VDGSのサイン。T字のグラフは、停止目標が近くなると縦棒が短くなる

 さて「VDGSを導入するとマーシャラー不在でも運行可能」とは行かない。必ずマーシャラーがVDGSの端末を持って、飛行機とシステムを監視しているのだ。マーシャラーからすると、手動のマーシャリング資格の上に、VDGSの操作資格まで取得する必要があり、資格が増える一方なのだ。

電線のつながったこの端末を持って、飛行機の鼻先で監視しているのがVDGSのマーシャラーだ! 無線化されていないあたりも、VDGSが一般化されていないことの裏づけに思える

 飛行機の鼻先横でコードの着いた端末を持って、前輪と全体を交互に見渡しているヒト。それがVDGSの導入された空港のマーシャラーだ。

→次のページに続く (マーシャラー2人で1機を誘導することがある!

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