公共交通機関に求められるもの。まず第一は安全性だ。次に求められるのは適正な運賃だろう。そして世界広しといえど、分単位の定時運行が求められるのは日本だけだろう。おそらく日本では、適正な価格以上に、定時運行が求められる特殊な国だ。
日本の鉄道が時計のように正確に運行されることに、外国人観光客が驚く(というか驚愕する)という話は有名だ。なにせ各駅停車と特急が2地点を往復する海外の鉄道からすれば、複雑な乗り入れや分割・併合運転が行なわれ、各駅停車に急行、快速に特急とさまざまな運行パターンを持つ日本の鉄道は、それだけで驚かれる。
しかし日本の空のダイヤも世界一正確なのをご存知だろうか? 2012年に日本航空(以下、JAL)が運航した13万3千便のうち、その90.35%が遅れ15分未満で運航され、定時到着率は世界ナンバーワン※になった。
※出展:2012年度定時到着率世界No.1(FlightStats社調べ)
定時運航慣れしている我々日本人だと「たった90%?」という声もあるかもしれない。しかし飛行機は鉄道と違い、自然災害や天気、フライト中に病人がでるなどで、安全のために避けられない遅延が多い。しかもヨーロッパやアメリカ東海岸線は12時間近くのフライト時間なのだ。
空の定時到着率が世界一のJAL便は、万全の機体整備をするエンジニア、貨物や旅客の流れを整える空港スタッフや予約担当、そしてフライトを担当するパイロットや地上支援チーム、何より身近な客室乗務員の協力で運航されている。しかし気候の急変などで足並みは乱れる。
今回取材したオペレーションコントロールセンター(以下、OCCと表記)は、各セクションをスムーズに統括・指示して、時には協力を求めたり、部門だけでなく空港や外部も調整し、JALとしてのベストな判断をする。
社長から安全なフライトに関するすべての権限を委譲され、各セクションを統括するミッションディレクターだが、メディアに取り上げられることはごくまれだ。
ミッションディレクターは運航の最高権限を握っているが、それを振りかざすわけでもない。運航に携わる者に上下関係はなく、安全というベクトルに向かって力をあわせている。なんだか秘密裏に地球を救うヒーローみたいなOCCだが、謎多きこの秘密基地を紹介しよう。
毎日720便以上のフライトを監視し、イレギュラーを発見
対処・調整・処理・レギュラー化する復旧請負人
以前、JALの予約コンピュータシステム(メインフレーム)を取材したとき「ここはJALの心臓部なので場所は超機密事項。ビルの概観も一切撮影禁止です」とクギを刺されたことがある。さらに冗談だとは思うが、ある場所からセンターに向かうタクシーの中で「本当は藤山さんに目隠してタクシーに乗ってもらいたいぐらいなんです」とも。
今回取材したOCCは、場所を伏せるようには言われていないが、取材してみてJALの心臓部ならぬ、JALの神経系(しかも脊髄とかその辺)を見せてもらえたことが分かった。そのためビルの概観や場所は、伏せておきたい。
なにせ24時間365日稼動しているにもかかわらず、部分的なコンピュータのシステム障害は一度あったものの、システムダウンや停電が起こったことがないという場所だ。読者には企業系のシステム開発をする方も多いと思うが、そういう特殊なシステムを持つ場所だ。
そんなものすごく秘密基地っぽいセクションだが、ミッションは単純。OCCのミッションは「飛行機を定時に飛ばすこと」だけ。ただし“安全に”というかんむりがつく。
扱うフライトは1日720便で、これは通常期の便数。お盆や暮れなどは臨時便も飛ぶのでさらに多くなるという。1時間あたり30便なので、2分に1便離陸している計算で、目的地に到着するまでOCCが運航状況を監視・管理する。しかも24時間離着陸できる空港ばかりではないので、1便を管理するのは分や秒単位だ。
